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3 散布用飛行機、散布用器具
(1)散布用飛行機
 今回の散布に使用したのはダグラスDC−6B及びDC−4型機であった。いずれも既に散布方式の開発の行なわれた当時テストされたものであった。
 先ず、第1機は、6月9日シウダッド・デル・カーメンから散布を開始し、第2機は6月17日から参加した。8月5日DC−4 1機がタンピコに到着した。これは8月末第3機目のDC−6Bと交替するまでに68回の散布を行った。
 
写真−V.2.1 空中散布中のDC−6B
 
ダグラスDC6B型機
重量:27トン 長さ:35m 高さ:12m
巡航速力:225ノット 散布速力:140〜200ノット
航続距離:3,500海里(無荷重)、1,375海里(荷重13.6トン)
 
(2)散布用器具
 散布機はいづれも散布桿、ノズル、ポンプ、タンク、散布量制御システムを装備したものである。
 各機には容積2.2klのタンク7基が(DC−4では4基)設置されている。実際搭載量は離陸時重量、滑走路の長さ、大気温度等によって異なる。散布桿は両翼にそれぞれ7.6mのものを固定し、キャビンから機外に導かれている。散布桿には228個のTeejetノズル(Spray System Co., Wheaton, Illinois, No.4664)のオリフイス。噴射口金を取り除いたものを用い、機体後方に向って開口させている。噴射用動力は外側の2基のエンジンに取付けたポンプから取った。これは分散剤ポンプに直結させたモーターを駆動した。分散剤のポンプ吐出率は各ポンプ1500l/分であり、ある機ではこのシステムを2組装備していたので従って2倍の吐出量が得られた。ポンプ圧力は計器パネル上の流量計に従って所望の吐出量を得るために副操縦士がコントロールした。また流量計の下のトータライザーによって吐出総量を断続的に読み取ることが出来る。
 
4 分散剤散布作業
(1)使用した分散剤
〔1〕油分散剤は、6月9日(事故から7日目)から散布作業が開始された。
 この作業は、カナダの航空会社に一任し、ダグラスDC6B型機から原液のまま空中散布されており、油分散剤は、米国エクソン・ケミカル社のCOREXIT・9527、COREXIT・9517、COREXIT・7664を使用した。
〔2〕使用した油分散剤の概要は、次のとおり。
イ COREXIT・9527
 界面活性剤の量が極めて多い油分散剤である。自己攪拌(self−mix)タイプなので散布後の攪拌を必要としない。
ロ COREXIT・9517
 9527と同じく界面活性剤の量が多い油分散剤で、溶かす場合は、水又は灯油を使用する。
ハ COREXIT・7664
 低毒性の油分散剤で、界面活性剤を水に溶かした物。
 
写真−V.2.2 航空機散布のため集積された分散剤
 
(2)分散剤の効果
 散布機は延べ493回出動し(DC−6B 425回、DC−4 68回)、飛行時間1000時間、使用分散剤5700klであった。平均散布率2ガロン/エーカー(19l/ヘクタール)で1600kmの海岸線に亘る2850km2の海域の油を処理した。
 分散剤の散布が計画された散布率で行われたこと、またそれによって効果的な分散が行われたことは、ガルフ大学研究所(Gulf University Research Consortium)が現地で行った調査によって確認された。
 
(3)Corexit 9527の効果
 空中散布が行われた6ヶ月の全期間にわたって、Corexit 9527は極めて有効であった。この事は、噴出後4〜6ヶ月を経過し、その間に約800kmの海上を浮流した油についても同様であった。搭乗員、観測員は毎日、散布の効果がたちまち現れるのを見ている。散布の数時間後或いは翌日になっても、前回に処理した海域には油の痕跡は見えなかった。分散剤が静穏な海上に散布された時には、この海域で起こる夜の間の嵐が風波を起こし、油の分散を促進したものと思われる。
 分散剤散布は漸次頻度を落としながら、空中散布計画終了の12月初旬まで引続き行われた。
 
(4)航法・飛行計画
〔1〕航法機器
 目標位置を迅速、且つ正確に捕捉するためにOmega航法器機が装備されている。また低空での飛行の安全のためにレーダー高度計が装備されている。表示はヘリコプター用のものが用いられた。通常の固定翼機用のものでは盤面ダイアルの最初の半分に0から500フィートにきざんでいるが、これを0から100フィートにきざんだものを用いている。
〔2〕低空飛行
 雨天の場合には視界が悪く水平線が見えないために、低空飛行は不可能であった。また、太陽の位置が低い時には太陽を背にして散布を行わざるを得なかった。天候さえ良好であれば乗員はそれ程の疲労もなく、1日4回の散布を行うことが出来た。また少し風があっても低空での震動はそれ程激しいものではなかった。コンエアでは通常の空中散布の際の搭乗要員2名に更に1名を加え、機長と副操縦士の間のフライトエンジニヤーの座席に座らせ、これによって機長は操縦に、副操縦士は飛行計器及び散布装置に、第3の乗員はエンジンのコントロール、パネル計器の読み取りに専念することが出来た。
 この種の飛行には低空飛行の経験者であることが絶対に必要であり、ミスは絶対に許されない。コンエアの搭乗員は森林地帯での防虫剤、消火剤散布の低空飛行経験者であった。
 
(5)使用した基地
 本作業は5ヶ所の基地から行われた。最初の基地はシウダッド・デル・カーメンであったが、油の先端が西に、北に移動するに従って基地も移動させる必要があった。ミナティトラン、ホーザ・リカ、タンピコ、レイノーザである。そのぞれの場所では地域的な問題もあったが、全般的に見れば、航空ガソリン、分散剤、航空潤滑油の補給、これらの保管、散布機への積み込みがやはり問題であった。機体の通常点検はそれぞれの基地で行われた。
 
(6)散布方法
〔1〕飛行方法
 濃厚な油塊に対しては、散布率を多くするために、風に向って飛行し散布する方法がとられた。散布機は対地速度280km/時、高度15mで飛行した。吐出量は1.3klから1.6kl/分であり、風向を利用することによって、どの厚さの油に対しても充分な散布率が得られた。散布巾は90〜150m、散布率は2〜4ガロン/エーカー(19〜37l/ヘクタール)であった。特に、横風の強い場合の散布率は14l/ヘクタール程度であったと推定される。
 油塊が大きい場合には、長さ8〜11kmの散布を平行に数回繰返して行った。例えば、散布巾約150m、長さ11kmの散布を平行に3回行えば、その全散布面積は約2平方マイル(5.2km2)となり、これが1回の出動、約9分の散布活動によって行われた。
〔2〕飛行時間
 油が北に移動するに従って、油塊は細分されたため、1回の出動でタンクを空にするのに25回の散布に区切らねばならなくなり、飛行機の旋回に2〜10分を要することから目標海域での作業時間は長くなった。このことは特にタンピコから北方の海域で顕著であった。
 1回の飛行時間も、油塊が距岸10kmにあった当時の30分から、油がアメリカ水域に入ろうとした距岸100kmの時の4時間まで長くなっている。空中から見ると、油は一面白銀のように見え、場合によっては、それが水平線までひろがっていた。







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