シンボルツリー:花水木
ピース・ハウスの9年の歴史を顧みて
ピース・ハウスが1993年の秋に設立されてから早9年が経ち、間もなく10年目にはいることになります。当時、ピース・ハウスは独立型ホスピスとしては日本最初のものでしたし、緩和ケア病棟としては12番目でした。それが、2002年7月現在では、ホスピス・緩和ケア病棟は105施設となり、登録ベッド数は合わせて約2,000床に達しております。入院期間を30日と仮定すると、年間24000人余の患者さんがホスピス・緩和ケア病棟に入院できることになりますが、癌でなくなられる方は年間29万人にも及ぶのですから、高々8%の方々しか緩和ケアやターミナルケアを享受することができず、依然としてホスピスベッドは不足しているということになります。実際には、癌で亡くなられる方のうちのごくわずか(数%)がホスピス・緩和ケア病棟を利用しておられるに過ぎません。
ホスピスは必ずしも死を迎える場所ではありません。痛みやその他の苦痛となる症状を治めるためや、手術後あるいは化学療法中・後の疲労や不安を和らげて在宅ケアに移る心の準備のためにホスピスを利用することも考えてよいでしょう。また,患者さんのご家族がケアに疲れた時や、ケアを担当できないような事情が生じた場合などに、患者さんに一時入院していただくこともできます。
このように、終末期のケアだけでなく、症状マネジメントやレスパイトケアもホスピスの大きな役割として位置づけられるのです。これまでのように入院する患者さんの多くが一回だけの入院で亡くなられるのであれば、ケアにあたるスタッフは常に緊張感にさらされることになり、それが非常なストレスとなって心やからだのバランスを崩すことも少なくありません。しかし、症状マネジメントやレスパイトケアのために一時的に入院し、やがて退院される方々が増えればホスピスの役割は一段と多彩になり、スタッフにとっても気持ちの余裕が生れるというメリットがあります。日本のホスピスケアの先陣を切った施設の一つとして、私たちのピース・ハウスは常に新しい役割や働きをこれからも模索し続けていかなければなりません。
ピース・ハウスの10年の歴史を回顧し、これから10年先のホスピスはどうあるべきかをスタッフおよびボランティアが一緒になって考えていきたいと思います。
理事長 日野原 重明
ピース・ハウスはやすらぎの家である。ここで時を共にする人は皆それぞれの生き方を尊重する。
1. 痛みなどの心身を悩ます不快な症状が緩和され、患者と家族がその人らしく時を過ごすことができるように、患者と家族の希望する場において、全人的ホスピスケアを提供する。
2. 愛する人を失う悲しみや、その他の心身の反応は自然なことと考え、ケアを始めたときから死別後まで、患者の家族への支援を行う。
3. 患者と家族のニードに応えるために、多職種の職員とボランティアでチームを構成し、互いに協力してケアを提供する。
4. 日本の実状に即したホスピスのモデルとなるように、より良いケアの実践、研究、教育を進める。
(1998年10月改定)
ホスピスケアは、人が人生の最後の行程をよりよく生きて有終の美を飾ることができるようにするための援助です。もっとも大切なことは日常性の回復維持であるといっても過言ではありません。家にいるときと同じに、家族と共に自由に過ごせるように、できるだけ家庭的な雰囲気を醸し出す配慮、工夫が求められます。スタッフ・ボランティアは、いわば患者という主役を支える黒衣・黒子として、良い環境を提供し、様々の苦痛を緩和し、思いやりや善意をさりげなく届けるのです。
ピース・ハウスのホスピス活動は1993年9月の開院から9年を経て、10年目にさしかかります。10年近くの間にいろいろなことがありました。人生にたとえると、疾風怒濤の年代を過ぎ、成熟の年代になったという感じです。この間、スタッフ・ボランティアの交代もあり、ケアの提供の仕方にも変遷がありました。建物の改築・維持や、庭園の整備・拡充、駐車場の拡張なども行ってきました。
一方、目を全国に転じてみると、いわゆる緩和ケア病棟は2002年6月に100施設を越え、病床は2000床に及ぼうとしています。数の面でもまだまだ不足ですが、その質についても緩和ケアの評価・維持システムの構築が目下の急務と云うことができましょう。これには、個々の施設における努力も大切ですが、全国規模での働きも必要です。
この領域の全国規模の組織として全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会では早くからホスピス・緩和ケアの質の評価・維持に注目し、評価尺度開発に意を注いできました。
この協議会の事務局を2002年4月からピース・ハウスが引き受けることになりました。大事な時期であり、責任をもって役目を果たしていきたいものです。そして、開院10周年を迎えるにあたり、デイケア、在宅ホスピスケア、また緩和ケア適応の拡大を目指して努力していきたいと思います。
院長 西立野 研二
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