援助者の真の姿勢−癒しの関係
援助者は、スピリチュアル・ペインを体験している人に対して、正確な自己認識ができるようなかかわり、そして、正しい自己ニーズ認識というものができるようなかかわりをしていくことが癒しの関係だということです。
しかし、癒しの関係が築けないと自覚していないのでは、偽りの援助関係になってしまいます。このようなかかわりからは、クライアントには癒しとは逆の結果を与えてしまいます。
1. 偽りの援助関係
援助者がスピリチュアル・ペインを体験している患者とのかかわりの中で気をつけなければならないことがあります。いろいろな問題を抱えて私のところに来られる方々の中で、カウンセリング講座等で学んだ専門的でないカウンセラーの援助を受けたというような人が来ることが少なくありません。それらの方々の話を聞いていると、いくつかの問題点に気づくことがあります。
専門家でないカウンセラーは、問題を解決するスキルが十分でないために、クライアントのもつ問題の理解も、そしてその解決の方法もどうしても単純化してしまう傾向があります。単純な間題であればそれでも援助にはなりますが、複雑な問題になるとかえって援助自体が問題を大きくしてしまったり、また、専門的な治療を受けるのを遅らせてしまう結果にもなるのです。何かにたとえるなら、目的地に行くための地図のようなもので、その地図の目が粗いのです。ですから、ひとつの問題を解決するときに、小さな道や裏道などまで書かれていない地図では、目的地に行くのに非常に遠回りになったり、迷ったり、行き着けなくなったりすることがあるのではないでしょうか。あるいは、あまりにも問題を単純化してしまうということもあります。また、あまりにも依存させてしまったり、病理があるのに問題そのものを見逃したりすることもあるのです。それは逆にいうならば、スピリチュアル・ペインを増幅させる原因にもなってしまう危険性があるということを理解する必要があります。
それではどうしたら真の援助ができるのでしょうか。
2. 癒しの関係の確立
癒しのかかわりに至るまでにはいくつかの問題を乗り越えることが必要です。ここでは3つの問題についてお話しします。
分離から直視へ
第1は、分離ということをしてしまうことがあるということです。それはどういうことかといいますと、援助者が、クライアントが体験しているスピリチュアル・ペインの原因と見られる人々を−それは家族の場合もありますし、あるいは職場における人間関係のこともありますが、すべて悪いのだといって、クライアントの現実を分離してしまうことです。その結果、クライアントにとっては、家族がすべて悪い、あるいは職場の人が一方的に悪いのだと思うようになり、さらに、援助者であるあなたは全部よいという印象を与えてしまうのです。そのようなかかわりは分離を生じさせてしまい、癒しのかかわりをもつことが不可能になります。実際、援助者とのかかわりは時間的にも非常にわずかしか一緒にいることができません。1日、あるいは1ヵ月の単位の中で考えますと、援助者とのつながりは非常に限られた時間でしかありません。私とであれば1週間に1回のセッションの50分、2週間に1回の場合は、2週間でたったの50分、あるいは1ヵ月の場合ではほんのわずかの時間というにすぎません。患者さんたちは、自分がいる場所、つまりクライアントといつも一緒にいる人たちがすべて悪い人だということになると、わずか50分だけのかかわりだけがよいかかわりにすぎないというのであれば、彼らの生活はどうなるのでしょうか。
人生のほとんどが困難な状況の中にいて、ほんのわずかな時間を援助者とのかかわりの中に逃げるような形でよい時をもつようになってしまいます。援助者とのかかわりで慰められ、励まされていくかもしれませんが、あとのほとんどの時間を問題解決の非常に困難な中に生きなければならないとするなら、ある意味では、スピリチュアル・ペインを逆に増幅させてしまうのではないでしょうか。
ですから、分離ではなく、現実を直視させる必要があるということです。現実から分離させるのではなく、自らの姿というものにも何らかの問題があることを直視できるようなかかわりというものが必要なのです。
過度な依存から自立へ
第2は、クライアントが援助者に過度な依存をすることがありますが、それはしばしば援助者がクライアントを過度に依存させてしまうようなかかわりをしてしまうこともあるということです。こうなると癒しの関係ではなく、逆にクライアントを傷つけてしまいます。
援助関係には終結がある:
援助者とクライアントの関係は、特殊な関係で、どんなに信頼関係を築いても、必ず終わりがあるのです。終結があります。そして、このかかわりを終結させることはとても困難なことです。精神科医であっても、カウンセラーであってもです。離れられなくなってしまうのです。とくに過度な依存が生じてきますと、クライアントは援助者の助けなしには問題への対応が困難になりますので、援助関係の終結はクライアントにとっては裏切られたように感じてしまい、非常に大きな精神的なダメージを与えてしまうのです。ですから、過度な依存というのは決して癒しの関係にはならないのです。むしろ、現実に生きること、そこに苦痛が伴うものがあっても、その中でどう生きるのか、どう対応するのかということを援助のかかわりの中でトレーニングしていく必要があるということです。
援助の限界:
そのためにはどうしたらいいのかというと、援助(者)にも限界があるということを、かかわりの中で教えることが大事だということです。この人に全部依存したら解決するというメッセージを送ることは間違っています。それは癒しのかかわりではありません。たとえば、現代の社会で問題になっている新興宗教にみられるようなかかわりはまさにこれなのです。分離があり、過度の依存があるのです。
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