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5. 総合考察
5.1 はじめに
 
 船舶により運送される危険物は、国際海上危険物規定(IMDGコード)により定められており、IMDGコードは国連危険物輸送専門家委員会が策定した危険物輸送に関する国連勧告による試験方法及び判定基準に基づいている。
 しかしながら、この国連勧告による試験方法及び判定基準は、その策定の経緯から各国が実施していた試験方法及び判定基準を採り入れており、試験方法等の科学的根拠、我が国においても容易に試験を実施することが可能な小規模化、国際整合化等、種々検討すべき課題がある。
 我が国としても、国連勧告による試験方法及び判定基準を十分に理解するとともに、必要により適切な試験方法及び判定基準を国連に提案することは国際貢献の上からも重要と考えられる。
 特に、自己反応性物質や有機過酸化物は、我が国に最も関連の深いファインケミカルであり、新規開発物質も多く、それらの安全輸送上の適切なスクリーニング評価の必要性も増大している。
 そこで、まず、自己反応性物質及び有機過酸化物の分類判定のための適切な試験方法について検討するとともに、それらのスクリーニング化について検討し、さらにはそれらを用いた分類フローのスクリーニング化を検討することは、我が国にとって重要であるばかりではなく、国際的に有用と思われる。
 一方、爆発性物質である煙火については、オランダでの爆発事故以来、煙火の危険等級の分類について各国で検討が行われており、煙火の製造や消費技術について国際的に主導的立場にある我が国として、科学的根拠があり、容易に試験が実施可能なスクリーニング評価法についての検討は大いに意義があるところである。
 以上の国際情勢から、今年度は、自己反応性物質及び有機過酸化物の分類フローのスクリーニング化について検討するための委託研究を昨年に引き続き行うととともに、今年度新たに少量の有機過酸化物及び自己反応性物質の危険等級Bと危険等級Cとの分類法に関する委託研究を実施した。また、自己反応性物質及び有機過酸化物の分類を行う上で重要な特性の一つである熱爆発を評価するための圧力容器試験として、少試料量で、再現性、信頼性及び定量性が優れていることから、日本が中心となって国連に提案しているMCPVT(密閉式小型圧力容器試験)をとりあげ、その性能を評価確認するための国際ラウンドロビンテストの一環として、調査研究および委託研究を昨年に引き続き実施した。さらに、煙火の危険等級分類を適正に行うためのスクリーニング評価法及びその基本となる殉爆機構について今年度新たに委託研究を実施した。
 
5.2 調査研究の目的と成果
5.2.1 MCPVT圧力容器試験の研究
5.2.1.1 目的
 本試験は自己反応性物質及び有機過酸化物を密閉下で加熱した場合の分解の激しさを圧力発生挙動から評価するものであり、従来の試験法に比べて、少試料量で、再現性、信頼性及び定量性等が優れた試験方法として我が国が中心になって国連に提案しているものである。現在各国でラウンドロビンテストが行われているが、提案国である我が国においても、2以上の機関でラウンドロビンテストを行う必要があることから、昨年に引き続き、(社)日本海事検定協会理化学分析センターにおいて調査研究を、また、(株)カヤテック厚狭事業所において委託研究を行った。
 今回の調査研究及び委託研究においては主として以下の事項に関する検討を行った。
(1)国連ラウンドロビン試験に対応できる機器設備の設置と改良及び試験方法と試験手順のマニュアル化検討
(2)試験結果に影響を及ぼす要因の検討
(3)従来試験方法との相関の検討
(4)標準試験条件及び判定基準の検討
 
5.2.1.2 成果の概要
(1)国連ラウンドロビンテストに対応できるMCPVT装置を確立するとともに、試験方法、試験手順のマニュアル化をほぼ確立することができた。
(2)熱爆発特性は、最大圧力上昇速度及び最大圧力により評価したが、これらに影響を及ぼす要因としては、主として昇温速度及びサンプリング取り込み速度が挙げられるが、圧力センサーの径は大きな影響を与えないことがわかった。
(3)MCPVTは従来試験方法であるオランダ式圧力容器試験、アメリカ式圧力容器試験ともある程度の相関を示し、ケーネン試験とはよい相関が認められた。
(4)標準試験条件としては、今後、国際整合化のため、容器サイズ6mL、試料量1g、昇温速度2.5K/min、サンプリング取り込み速度0.5msまたは1msを用いて行うこととした。判定基準については今後の課題である。
 
5.2.2 自己反応性物質及び有機過酸化物の国連勧告試験方法及び判定基準のスクリーニング化に関する研究
5.2.2.1 目的
 本研究は国連勧告による自己反応性物質及び有機過酸化物の分類のために採用されている各種試験方法のスクリーニング化についての検討を行うとともに、スクリーニング試験を導入した分類フローのスクリーニング化について検討することにある。
 今年度は主として爆燃伝播性試験のスクリーニング化について検討した。
 
5.2.2.2 成果の概要
 自己反応性物質及び有機過酸化物の分類には、爆ごう伝播、爆燃伝播、熱爆発、爆発威力を評価する必要がある。今年度は、爆燃性試験のスクーリング化を中心に検討し、円筒型セルを用いた密閉型爆燃性試験がバラツキの少ない時間−圧力プロファイルを示し、線燃焼速度の推定も可能であることがわかった。密閉型爆燃性試験は爆燃性評価のための有用なスクリーニング試験といえる。
 
5.2.3 煙火の分類及び試験方法の研究
5.2.3.1 目的
 国連勧告による煙火の分類のための試験は、大量の試料量、広大な試験場、多額の費用を要するため、わが国においては容易に試験を実施することが困難であり、国連勧告の要求するものに対応したスクリーニング評価法の開発が必要である。
 そこで、今年度は殉爆特性を用いたスクリーニング評価法について検討するとともに、その科学的根拠となる殉爆メカニズムについて検討した。
 
5.2.3.2 成果の概要
(1)煙火玉の危険等級は、試験法の評価特性から1.1から1.3の範囲に入るものと推測される。試料数2個の小薬量殉爆試験でもスクリーニング評価機能を有する可能性が示唆されたが、危険等級の予測に必要な試料数および試料の配置等について今後さらに検討する必要がある。
(2)5号玉までの煙火玉では、開発時に発生する圧力に薬量効果が認められ、発生圧力が大きいほど受爆玉の殉爆に至る可能性が大きい。今後、殉爆する受爆玉の内部圧力計測を行うことにより、殉爆メカニズムを解明するとともに、それらの知見を基に国連試験法に準拠した危険等級の予測可能なスクリーニング試験を開発する必要がある。
 
5.2.4 自己反応性物質及び有機過酸化物分類フローチャートのスクーリング化に関する研究
5.2.4.1 目的
 自己反応性物質及び有機過酸化物について、その危険等級分類のための試験は、多量の試料を必要としており、ファイン化に伴う少量試料の輸送には適さない。そこで、グラム以下の少量の試料で危険等級を分類できるスクーリング評価法は極めて有用である。そこで、危険等級分類に必要な爆ごう性、爆燃性、熱爆発に関する特性から危険等級B以上か危険等級C以下かを分類するための方法について検討した。
 
5.2.4.2 成果の概要
 自己反応性物質及び有機過酸化物について、危険等級B以上か危険等級C以下かの分類は主として熱爆発特性に依存し、熱爆発特性は発熱量とガス発生量とに依存する。
 そこで、DSCによる発熱量とCHETAHを用いた計算による熱分解時のガス発生量から危険等級BとCとの分類のスクリーニング化を行う次の方法について提案した。
(1)QxPH/(Tp−To)が300以上:危険等級B以上とする。
(2)QxPH/(Tp−To)が300未満:発生ガス量を算出し、0.3L/g以上で危険等級B以上とする。
 ただし、PHは発熱ピークの高さ、TpはDSCのピーク温度、ToはDSCの発熱開始温度である。
 
5.3 まとめ
 国連勧告による試験方法及び判定基準を理解し、必要により適切な試験方法等を国連に提案するため、今年度は我が国に関係が深い自己反応性物質及び有機過酸化物を中心に、分類のための重要な特性の一つである熱爆発を評価する圧力容器試験について、少試料量で、再現性、信頼性及び定量性の点から優れ、日本が中心となって国連に提案しているMCPVT(密閉式小型圧力容器試験)をとりあげ、その性能を評価するための国際ラウンドロビンテストの一環として、調査研究および委託研究を実施した。
 その結果、MCPVTについて、国連ラウンドロビンテストに対応できる装置の確立と試験方法及び試験手順のマニュアルを確立することができた。また、試験結果に影響を及ぼす要因に関する知見も得られ、標準試験条件も決めることができた。今後、さらにデータの蓄積をはかり、従来試験方法との比較検討を行い、判定基準について検討する必要がある。
 また、自己反応性物質及び有機過酸化物の国連勧告試験方法及び判定基準のスクリーニング化に関する研究については、分類に必要な特性としての爆ごう伝播性、爆燃伝播性、熱爆発性、爆発威力の評価にスクリーニング手法を導入し、それらを用いた分類フローのスクリーニング化を行う必要が有るが、今年度は爆燃伝播性のスクリーニング評価法に関する知見を得た。さらに、自己反応性物質及び有機過酸化物の危険等級BとCとの分類を少試料量で行うためのDSCによる発熱挙動とガス発生量を用いたスクリーニング評価手法を提案した。
 一方、爆発性物質である煙火のスクリーニング評価手法について検討し、殉爆メカニズムについて調べるとともに、殉爆特性を用いたスクリーニング評価の可能性に関する知見を得た。
6. あとがき
 平成10年から3年間に渡たって行われた第一次日本財団助成事業、「物質の危険性評価のための試験方法及び判定基準に関する調査研究」においては、国連勧告試験方法の中から新に制定された試験方法の内、詳細手順が不明な「酸化性固体試験方法」「金属腐食性試験方法」「デフラグレーション試験方法」「酸化性液体試験方法」についての調査研究を行った。さらに、「SADTの予測手法に関する研究」及び「自己発熱性物質の試験方法に関する研究」をテーマにスクリーニング試験方法についての調査研究を行い、ARC測定の有効性等その成果を技術的内容を中心に公表しました。
 
 平成13年度からは新に3ヵ年事業として、自己反応性物質及び有機過酸化物のスクリーニングにテーマを絞り「MCPVT圧力容器試験」及び「自己反応性物質及び有機過酸化物の国連勧告試験方法及び判定基準のスクリーニング化に関する研究」を開始し、その試験手法を中心に成果を公表しました。
 平成14年度は、新に、関連課題である「自己反応性物質及び有機過酸化物のフローチャートのスクリーニング化に関する研究」をスタートさせました。さらに緊急課題として「煙火の分類及び試験方法の研究」を加え、都合4テーマ5事業を行いました。
 事業成果は、この事業の実施にあたり設置されました「海上貨物運送調査会・危険性評価部会」にて報告書としてとりまとめられ本冊子として発行されましたが、この成果が危険物輸送にたずさわる皆様の一助となれば幸いです。
 
 なお、当該事業実施にあたり、ご指導をいただいた国土交通省海事局及び引き続き事業を助成していただいた日本財団には深く感謝の意を表する次第です。
 以上







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