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アイコウボウ・USAの活動と意義
斎藤 では次に、アイコウボウ・USAの活動について、これまでの話題を踏まえて話していきたいと思います。
白石 障害者で、海外旅行に行っているという人はいっぱいいると思うんですね。だけど、こういうふうにいろんな病気の人が参加しているっていうのはあまりないと思うんです。それから、参加期間がみんなまちまちです。ある人は一週間で、ある人は半年も行っている。半年いるなんていうのは他にはないんじゃないかと思いますね。一般的には旅行をしたとしても、いわゆる観光を主体としたもので、生活を主体にしたものではないと思うんですよ。向こうにそういう施設があること自体が例外的なんですけれども、そこの施設で何ヵ月も暮らすというのは生活そのものですから、そのこと自体が、ただ外国に観光に行くというようなものとは違いますね。ニワトリの世話だとか、お風呂の支度だとか、そういうのをやりながら、何とかという山にも行ったりする。そこが他の活動とは違うところだと思います。それと、繰り返し行っている人がすごく多いですよね。半分ぐらいの人が繰り返し行ってますね。一番多い人は五〜六回も行ってる。一回アメリカに行ったというのと、五回アメリカに行ったというのとではずいぶん意味合いが違うと思うんですよ。外国に行くことが生活の一部みたいになってしまっている。いろんな病気の人がいて、期間もすごく長い人がいて、何度も行っている人がいる、この三つがこの活動の他とはちょっと違うところなのではないかという気がします。行って嬉しかったことを励みにして日本で生活をしてまた行くとか、行ったことをきっかけにして日本での生活が変わるというだけではなくて、アメリカでの生活を人生の一部に組み込んだりしながら、自分なりの生活をしていくというところが他にはないところなんじゃないかなという気がすごくします。
大原 藍工房の活動は、基本的にクライアントのニーズによって組み立てられているんじゃないかなという気がします。他の旅行なら、自分が例えば十日いたいと言ったって、ツアーでは五日しかいられないというふうに自分で決められないじゃないですか。でも、藍工房では自分のぺースで選択出来るということが保障されているから、何度行っても安心して行けるというようなところがあるんじゃないでしょうか。他にそういう所はないですよね。アイコウボウ・USAは単なる観光旅行じゃないんですね。それと、かねがね不思議に思ってたことがあって、アメリカに行く時に、すごく少人数でお連れになるじゃないですか。ふつうだったら大人数でまとめて行く方が合理的だと思ってしまいますよね。話をうかがっていて気が付いたのは、これは精神障害の方に限らないですけれど、新しい体験、特にアメリカに行くなんてことはすごく不安で、なかなか自分一人では行けないし、だからといって見ず知らずの人たちと一緒の団体旅行にはなかなか飛び込めないだろうし、安心出来るスタッフがそばにいるからアイコウボウ・USAに行きたい、という動機付けがあるんじゃないかという気がします。少人数で個別ケアですね、あくまでも。個別ケアで行くのがアイコウボウ・USAの特長であって、たくさんの人を連れて行ってしまったら、絶対いまみたいなケアが受けられないから、この状態が良いんじゃないかなと今はすごく感じています。藍工房の良いところは丁寧な個別ケアで、だからこそアイコウボウ・USAにも行こうという気にみなさんがなれるんじゃないかと思います。で行ってみて、初めての経験とか苦難にぶつかって、ちょこっと成長して戻ってくるという繰り返しがいいのかなと思いました。
白石 人間は辛さに出会わないと成長しないと思うんですね。いつも安心な所、安全な所、不安のない所にいて、それで成長するというのはなかなか難しいことだと思うんですよ。精神障害の人は安全な所にいるということを、自分で選ぶだけじゃなくて周りからも強制されるということがあるんですね。結婚しちゃいけない、仕事しちゃいけない、旅行に行ったら再発する。そんなふうに言われて、自分がしたいことを実現出来ないでいるというところが、強くなることを妨げてもいる。再発しないようにするために、強くなる機会も奪われているという中途半端な状況があると思うんですね。旅行も結婚も仕事も、吉と出るか凶と出るか、それは誰にも分からない。旅行がいいものだとか、結婚がいいものだとか、そういうものじゃないと思うんですね。ある人にとって結婚は良かったかもしれないけれど、ある人にとっては最悪だったりということが当然ありうると思うんですね。でも、覚悟を決めて大変なところに立ち向かっていかなければ成長はないという意味では、そういう機会はもっともっと増やさなければいけないと思うんです。旅行とか海外に行くことはちょうどいい山であって、結婚とか仕事よりも期限が決まっていて、助けてくれる人もはっきり見えていて、完結した体験が出来るという意味では、僕は選ぶのにいい活動なんじゃないかという気がします。
大原 検討会議では、行ってどう変わったのかということにどうしてもポイントが置かれていたんですけれども、先日旅行に行った方たちの同窓会に参加させていただいて、みなさんたちのお話をうかがわせていただきましたよね。その時に、海外旅行に行って楽しかったという話を聞いて、楽しいという体験とか感覚をみなさんが持っていらっしゃる、それでいいんじゃないかと思いました。行ってこうなりました、ああなりました、良くなりましたではなくって、楽しめてよかった、それでいいんじゃないでしょうか。実際いま障害者の方たちが海外旅行に気楽に行けるのかといえば、やっぱりそんなに簡単に気楽には行けないという現状があって、そうした中でアメリカのアイコウボウという所があって、安心して守られて何日間か生活をして、異文化経験をする。そして、それを参加した人たちが楽しんでいる。そこが、ただ単に団体ツアーの海外旅行じゃないアイコウボウ・USAの良さなんじゃないかと感じました。障害者だとか健常者に限らず、人の生涯発達を保障していく必要があるということを考えると、いろんな経験、体験をしていくことの保障をする場があるというのは、すごく素晴らしいことだなと思います。藍工房のアイコウボウ・USAは、生涯発達するチャンスをいろんなところでサポートする、というのが一番大きなポリシーなのではないでしょうか。
斎藤 アイコウボウ・USAの利用者は、いずれも病のための障害を残していますよね。日常の生活をする能力・技術に障害がある。生活障害といわれるものですね。だから、したいと思うことも自分一人では出来ない。周囲の人々も心配して反対するし、本人も自信が持てない。そこのところが、病気になったがためのハンディキャップですね。同じ病気になっても、障害を残さないか、それが軽微な人々というのは行きたいところへ行くことが出来る。そこでしたいと思ったことをすることが出来る。したいと思うことが出来るということは、とても大事なことなんですね。アイコウボウ・USAを利用した人たちの同窓会に私も同席しましたが、みな輝いていました。行くことが出来た。また行くんだ。アメリカに行くことが出来たから、この次は念願のフランスに行くんだ、って。生きている喜び、生きていく勇気のようなものを感じましたね。それに、行った時期が同じでなくとも、本当の同窓生、同級生たち同士のように共通する体験を語り合って、共感性や感情表出も豊かに交流していましたね。白石先生が触れられた方ですが、一流企業に就いて活躍していて、当時としては社会の最先端を行っていた女性が、病を得て、三十年間病院生活を送らなければならなかった。退院してきたときは老齢期になっていた。その方が、アメリカに行きたいという。周囲は心配して大反対をする。それを、本人の意思が実現出来るように藍工房が説得をして、ひとつのハンディキャップを取り除く援助をする。そして、アイコウボウ・USAをベースにして行った観光旅行の遊覧船上でのダンスパーティーで、見ず知らずのアメリカ人男性の申し込みを受けて踊った後の満面の笑顔。おそらく病気になる前に、アメリカに行きたい、行ってそこでダンスを踊りたい、と思っていたんでしょうね。それが実現出来た大満足の笑顔ということで、私は感動しました。そうした、外国・アメリカに行きたい、医療者に引率されたツアーの観光旅行ではなく、アメリカに滞在したい、という障害者の個の思いを実現する場。そして、実現するためのさりげない−実は大変なことだと思うんですが−援助をするスタッフがいる、ということがアイコウボウ・USAの存在意義であるというふうに、みなさんの意見や評価をまとめることが出来るかと思います。
(二〇〇一年 四月二十七日 藍カフェ&ギャラリーにて)







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