(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月24日18時00分
長崎県男女群島
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船新宏丸 |
総トン数 |
6.6トン |
登録長 |
13.6メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
401キロワット |
回転数 |
毎分2,229 |
3 事実の経過
新宏丸は、平成13年7月に進水したFRP製の遊漁船で、主機として、株式会社小松製作所製の6M122AP-1型機関を備え、A受審人が単独で乗り組み、翌8月末から長崎県五島列島周辺の海域を釣り場として遊漁に従事していたところ、9月24日15時00分鯛釣りの遊漁客5人を乗せて同県三重式見港を発し、同県男女群島周辺海域の釣り場に向かった。
燃料油タンク(以下「タンク」という。)は、機関室後部、船尾ストア及び船尾魚倉前部にわたり、それらの船底両舷側に設けられ、片舷タンクあたり船首尾方向長さ3.47メートル幅平均48センチメートル(以下「センチ」という。)高さ60センチ容量約1,000リットルであったところ、燃料油取出弁(以下「取出弁」という。)がタンク底から10センチ上方のタンク船首部側に取り付けられていたので、船尾トリム50センチの通常航行中にはタンク底から同弁までの容積に相当する170リットルの燃料油が、主機に供給できないまま常時タンク内に残留することとなっていた。
また、タンクの油面計は、プラスチック製の保護筒が付いた外径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)高さ500ミリのビニール製で、船尾ストア部分後方に取り付けられていたが、内面が燃料油で着色し、油量を確認するためには日中でも懐中電灯を照らして目を油面計に近付ける必要があり、特に右舷タンクは、タンク側面の上方に発電機原動機の排気管が取り付けられ、油面計が遮蔽(しゃへい)される形となって油面計の下から覗き込む(のぞきこむ)姿勢で液面を読みとる必要があった。
ところでA受審人は、主機の燃料油消費量について、建造中機関製造会社の関係者を通じて、回転数が毎分2,000(以下、回転数は毎分のものとする。)のとき1時間当たり約100リットルであることを知っており、建造直後に燃料油を補給したのちには両舷タンクを共通使用とし、その後回転数1,800で日帰りの遊漁を2度ばかり行い、この間主機及び補機で燃料油を消費した結果、タンクの残油量は片舷350リットルとなっていたところ、前示の発航に先立って保有するタンクの油量を確認する際、船尾ストア上部の出入口開口部から左舷タンクの油面計を一瞥し、液面が500リットル相当と推測して建造直後に自身が巻き付けた油面計ほぼ中央の黒色ビニールテープの位置に一致しているように見えたので、釣り場で1泊する2日間の遊漁に必要な燃料油は保有していると思い、船尾ストアに降りて油面計に接近するなどしてタンク内残油量を十分に確認しなかった。
新宏丸は、発航後主機の回転数を2,000として速力30.0ノットで航行し、同日17時57分回転数を1,000として釣り場を探索中、航行中の燃料油消費によってタンクの油量が取出弁の位置まで減少し、18時00分女島灯台から真方位135度2,000メートルの地点において、主機が燃料油吸入系統に空気を吸引し始め突然停止した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、直ちに船尾ストアに入り、両舷タンクの油量が油面計の下端まで減少していることを認めた。
新宏丸は、燃料油の供給が途絶えて主機が運転不能となり、錨泊したまま夜を明かして翌朝救助を求め、来援した巡視船から燃料油の補給を受け、自力で発航地に帰航した。
(原因)
本件運航阻害は、発航する際、燃料油タンクの油量確認が不十分で、運航に必要な量の燃料油が不足したまま発航し、釣り場を探索中、油量がタンクの取出弁位置まで減少して主機への燃料油供給が途絶えたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、発航する場合、運航中に燃料油が不足することのないよう、燃料油タンクの油量を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、燃料油タンクの油面計を遠くから一瞥して運航に必要な量はあるものと思い、油面計に接近して液面を正確に読み取るなど、同タンクの油量を十分に確認しなかった職務上の過失により、運航に必要な量の燃料油を保有しないまま発航し、航行中の消費によってタンク内の燃料油が同油取出弁の位置まで減少する事態を招き、釣り場を探索中、主機が燃料油吸入系統に空気を吸引して運転不能となり運航が阻害されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。