(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月3日10時30分
沖縄県池間島北方八重干瀬
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船池間丸 |
総トン数 |
0.4トン |
登録長 |
6.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
40 |
3 事実の経過
池間丸は、昭和59年2月に進水し、日帰りで1箇月に10ないし20日の潜水漁業に従事するサバニ型と称するFRP製漁船で、主機としていすゞ自動車株式会社が製造したUM4JB1TC型と称するディーゼル機関を備え、同機を始動用セルモーターで始動するようになっていた。
電気系統は、直列に配線された直流電圧12ボルトの蓄電池2個から主機の始動用セルモーター、主機の計器盤などに給電されるようになっており、照明器具、電動の航海計器類などは備えられていなかった。
蓄電池は、古河電気株式会社が製造した130F51型と称するもので、主機によってベルト駆動される充電器で充電されるようになっていた。また、蓄電池は、2個とも平成13年9月に新替えされていた。
機関室は、船体中央部に配置され、船底から立ち上がる機関室囲壁で四角に囲まれた区画で、同室天井には部分的な開口部が設けられ、同部を蓋で閉じるようになっており、主機を挟んで右舷側に蓄電池が、左舷側に主機の計器盤が配置されていた。また、同計器盤は、機関室の蓋を開ければ開口部から容易に視認できるようになっていた。
主機の計器盤は、主機回転計、冷却清水温度計、潤滑油圧力計、ビルジ警報表示灯などのほか、充電表示灯が備えられ、主機を始動して蓄電池が正常に充電されるようになると同表示灯が消灯するようになっていた。
ところで、池間丸は、平成6年6月A受審人が購入したのち、約2年毎に蓄電池の新替えを行っていたものの、平素充電器駆動用ベルトの張りを点検しないうえ充電表示灯の確認が十分でなかったことから、いつしかベルトが擦り減り、ベルトが滑って蓄電池が正常に充電されなくなっていることに気付かないおそれのある状況となっていた。
A受審人は、機関の運転及び保守管理に当たり、発航前点検として、機関室の蓋を開け、潤滑油量、冷却清水量、燃料油量を確認し、主機を始動したのちに機関室の蓋を閉め、始動後の異音の有無、冷却海水の排出状況の確認を行っていたものの、電気系統については蓄電池を新替えしたばかりなので大丈夫と思い、主機を始動したのち適宜機関室の蓋を開けて充電表示灯の消灯を確認することなく、出漁を繰り返していた。
こうして、池間丸は、A受審人が単独で乗り組み、同13年11月3日05時30分沖縄県佐良浜漁港を発し、操業の目的で同県池間島北方の八重干瀬に向い、目的地に到着したのち主機を停止して錨泊し、07時00分操業を開始したものの天候が悪くなり、10時00分操業を中止して池間島に寄港することとし、主機の始動を試みたとき、蓄電池が正常に充電されなかったことから電力不足となり、同日10時30分池間島灯台から真方位036度4.4海里の地点において、主機が始動不能となった。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹いていた。
A受審人は、主機の始動を諦め、泳いで錨を浅瀬の方向に移動させ、船上に戻って錨索を引き寄せる作業を繰り返し、浅瀬に移動したのち船固めを行い、救助を待った。
その結果、池間丸は、翌4日07時30分捜索中の僚船に発見救助され、曳航されて佐良浜漁港に引き付けられ、のち充電器駆動用ベルトが新替えされた。
(原因)
本件運航阻害は、機関の運転及び保守管理に当たる際、充電表示灯の確認が不十分で、充電器駆動用ベルトが擦り減ってベルトが滑り、蓄電池が正常に充電されないまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転及び保守管理に当たる場合、主機を始動して蓄電池が正常に充電されるようになると充電表示灯が消灯するようになっていたのであるから、主機を始動したのち適宜機関室の蓋を開けて充電表示灯の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、電気系統については蓄電池を新替えしたばかりなので大丈夫と思い、同表示灯の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、充電器駆動用ベルトが擦り減ってベルトが滑り、蓄電池が正常に充電されなかったことによる電力不足を生じさせ、セルモーター始動方式の主機が始動不能となる運航阻害を招き、来援した僚船に救助されるに至った。