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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第50号
件名

漁船第三十八昭徳丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(道前洋志、半間俊士、寺戸和夫)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第三十八昭徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第三十八昭徳丸機関長

損害
通信士が溺死

原因
甲板作業の不適切

主文

 本件乗組員死亡は、漁獲物積込み準備としてトローリーを使用した氷入りモッコ移動作業中、他の甲板作業を中止しなかったばかりか、モッコ移動の合図が励行されなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月16日02時40分
 東シナ海

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八昭徳丸
総トン数 311トン
全長 56.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,147キロワット

3 事実の経過
 第三十八昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、大中型まき網漁業に運搬船として従事する船尾船橋型鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、平成13年12月2日06時40分長崎県浜串漁港を発し、東シナ海漁場に向かった。
 昭徳丸は、上甲板下に船首部から船橋までの間に設けた魚倉を8区画に分け、船首側から順に1番から8番までの番号を付し、1番魚倉には氷粉砕機を入れて他を魚倉として使用し、ハッチコーミングの高さは0.8メートルであったが、漁獲物積込みなど作業を円滑に行うためハッチコーミングと同じ高さにグレイチングが張られ、高さ1.2メートルのブルワークも0.4メートルとなっており、各魚倉には25ないし30トンの砕氷がそれぞれ積み込まれているが、これらが固まって一体となるのを防ぎ、分割して取り出せるよう魚倉に1段3枚の網(以下「モッコ」という。)を敷いて砕氷5トンばかりを積み、次いで2段目にも3枚のモッコを敷いて5トンばかりを積み、順次4ないし6段に積み込まれていた。
 また、漁獲物積込み準備作業は、船体中央部甲板上8メートルのところの船首尾方向に張られたワイヤに取り付けられたトローリーとテークルによる揚貨装置(以下「トローリー」という。)で、モッコに入って固まった砕氷を移動して粉砕機にかけ、その後砕氷をホースにより元の魚倉に戻して水氷を作っていた。
 このようにしてA受審人は、漁場に到着したのち3回目の漁獲物を唐津港で水揚げし、越えて14日00時23分漁場に到着したが、同日は荒天のため操業できずに仮泊し、翌15日操業を再開して翌16日02時30分網船の環締めが終了して点灯した明るい灯火を認め、荒天の余波でうねりが残っているなか、漁獲物積込み準備作業を開始することとしたが、船体の動揺で移動中のモッコが振れて付近の乗組員に当たるおそれがあった。しかし、慣れた作業であるので大丈夫と思い、モッコ移動作業中には他の甲板作業を中止するよう指示することなく作業を開始させ、約2ノットの速力で1,000メートルばかり離れた網船に向かった。
 トローリー操作者への合図を担当していたB指定海難関係人は、最初に6番魚倉の氷を移動することとしてハッチボードを開け、最上段中央及び右舷側のモッコをそれぞれ1番魚倉船尾側に移動し、次いで3枚目の左舷側のモッコがトローリーに玉掛けされたのを見て、02時40分少し前船首楼のトローリー操作者に移動開始の合図をしたが、右舷船首部甲板にいた通信士Tに合図をしなかった。
 T通信士は漁獲物積込み準備作業として網船との係船作業を担当し、いつも他の乗組員が魚倉のハッチボードを開けている間に投げ綱と係船索先綱とを結ぶなどの係船準備作業を済ませてからモッコ移動作業を手伝っていたところ、他の乗組員より少し遅れて甲板に出たのですでにモッコ移動作業が始まっていたが、係船準備作業を中止することなく、係船索のある1及び2番魚倉中間の右舷側甲板において救命衣を着用しないで同作業を開始した。
 3枚目のモッコ移動を開始したB指定海難関係人は、甲板上約0.8メートルのところを秒速約1メートルの速さで移動する長径3メートルのモッコと一緒に左舷甲板を移動して2番魚倉に達したとき、波浪で船体が動揺して左舷側に振れたので下ろせの合図をしたが、下りきらないうちに右舷側に振れたモッコが、1及び2番魚倉中間の右舷側甲板で中腰となり、舷外を向いて作業中のT通信士に当たり、02時40分北緯32度50分東経126度40分の地点において、同人が海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力3の北北東風があった。
 その結果、T通信士(昭和40年4月19日生)は、乗組員が飛び込むなどして5分後に引き上げられたが、蘇生措置の効なく溺死した。

(原因)
 本件乗組員死亡は、東シナ海において、漁獲物積込み準備としてトローリーを使用して氷入りモッコの移動作業を行っている際、網船との係船準備作業が中止されなかったばかりか、モッコ移動の合図が励行されなかったことにより、船体の動揺で振れたモッコが同作業を行っていた乗組員に当たり、同人が海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、東シナ海において、漁獲物積込み準備としてトローリーを使用して氷入りモッコの移動作業を行う場合、荒天後の洋上でモッコが移動しているときには、船体動揺でモッコが振れて付近の乗組員に当たるおそれがあったから、同作業中には他の甲板作業を中止するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れた作業であるので大丈夫と思い、モッコの移動作業中に他の甲板作業を中止するよう指示しなかった職務上の過失により、モッコ移動作業中に網船との係船準備作業が行われ、船体の動揺により振れたモッコが同作業を行っていた乗組員に当たり、同人を海中に転落死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、モッコの移動を開始する旨を係船準備作業中の乗組員に伝えなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後作業中には声を掛け合うなどして再発防止に努めていることにより、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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