(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月18日07時30分
沖縄県波照間漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第十一米丸 |
台船大米6号 |
総トン数 |
99.04トン |
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登録長 |
23.51メートル |
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全長 |
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50.0メートル |
幅 |
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16.0メートル |
深さ |
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3.5メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
691キロワット |
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3 事実の経過
第十一米丸(以下「米丸」という。)は、昭和57年2月に進水した、2基2軸の鋼製引船で、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、A指定海難関係人ほか1人が乗り組む非自航式の鋼製台船大米6号(以下「大米」という。)とともに沖縄県波照間漁港の沖防波堤の建設工事に従事していた。
大米は、船首中央に幅4.5メートル、長さ7.0メートルのランプウェイを備え、上甲板から約2メートルの高さで櫓構造となった長さ約4.5メートル、幅約2.5メートル、高さ約2.1メートルの休息室を船首右舷側に、発電機室を船首左舷側にそれぞれ設け、休息室の真下となる上甲板には船首から390センチメートル(以下「センチ」という。)右舷側から100センチの位置に電動油圧駆動の船首錨用揚錨機が、その背後にクラッチの嵌脱で切り替えられる同駆動の船尾錨用揚錨機が設置されていた。また、右舷船首部には右舷側から100センチの位置に長さ60センチ、幅100センチ、高さ75センチのフェアリーダが設置され、右舷側から38センチ、船首から160及び225センチの位置に並んで直径50センチ、高さ60センチのビット(以下「右舷側ビット」という。)が、右舷側から205センチの船首部に同直径、同高さのビット(以下「船首側ビット」という。)がそれぞれ設置されていた。
A指定海難関係人は、フェリーの甲板員、他社の台船の作業員などを経験したのち平成6年7月株式会社O建設に入社し、同10年秋から大米の作業長となり、台船の揚錨作業には豊富な経験を有していた。
B指定海難関係人は、同4年6月株式会社O建設に機関長として入社し、同10年5月から米丸の機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理のほか引船での係留作業、揚錨作業などには豊富な経験を有していたものの、台船には乗船したことがなく、台船での甲板作業や作業環境については精通していなかった。
指定海難関係人株式会社O建設船舶部(以下「船舶部」という。)は、同社が所有する自航船4隻、台船8隻、浚渫船2隻及び浮ドック1隻の乗組員と船舶などの管理を行う部門で、乗組員の安全管理については労働安全衛生法に基づいて安全管理者を選任し、作業時の安全についての教育、安全意識の高揚などの目的で下請従業員なども含めた全社的な安全大会を毎年1回社外講師などを招いて開催するとともに、毎月1回担当者が宮古本店から各現場仮設事務所に赴き、不安全箇所の点検、安全意識の高揚などを行い、点検記録の保存なども行っていた。また、各現場での朝の打合せでも気象海象の十分な把握、作業状況の判断を反復慣用しないこと、緊張したロープの内側に侵入しないことなどの指導を行っていた。
ところで、大米は、平成13年8月16日15時00分波照間漁港の岸壁に右舷付けで船首を岸壁線と平行な064度(真方位、以下同じ。)に向け、右舷船尾錨の錨索を北東方向に約120メートル延出し、右舷船首錨を水深約7メートルの海底に錨索を同方向に12ないし13メートル延出してそれぞれ投錨し、船尾側は右舷船尾部に設置された2個のビットから岸壁上の3個のビットに直径50ないし55ミリメートル(以下「ミリ」という。)の係留索3本をそれぞれとり、船首側は船首方の右舷側ビットに直径60ミリの係留索を数回巻き付けて摩擦力で係止する状態として同索を約10メートルの長さで岸壁上のビットにとるとともに、船首側ビットからも直径60ミリの係留索を約27メートルの長さで前示ビットから約15メートル船首方に離れた岸壁上のビットにとって係留していたところ、台風11号の接近で毎秒12ないし13メートルの北東風が吹き始め、時折南寄りに変化する風で船体が岸壁から離れ、風波の影響で船体が岸壁に打ち付けられる状況となっていた。
A指定海難関係人は、平成13年8月18日06時00分岸壁に赴き、大米の前示状況を認めたことから、大米の船首が岸壁と接舷する船首付けに係留方法を変更する作業を行うこととし、岸壁にいたB指定海難関係人に同作業を行う旨を米丸の乗組員に伝えるよう依頼し、船尾側の係留索2本などが外れていることを確認した。
米丸は、B指定海難関係人の報告で07時05分係留していた同漁港の第1波除堤を離れ、同時10分大米の左舷船尾部に米丸の船首部を接舷させた。
米丸の甲板員は、大米に乗り移り、大米の船尾側曳航索をB指定海難関係人に渡したのち岸壁に下り、07時20分大米の船尾部に残っていた1本の係留索を岸壁のビットから外し、既に外されていた2本の船尾係留索とともに同索の整理を始めた。
B指定海難関係人は、安全帽、安全靴、作業服を着用し、大米の船尾曳航索を米丸の船首ビットにとって待機していたところ、曳航開始の合図がなかなかないことから不審に感じ、何か手伝うことがないかと大米に乗り移って右舷船首部に赴いた。
A指定海難関係人は、揚錨機ドラムの船尾側の操作場所で揚錨作業を始めようとしたとき、B指定海難関係人が近づいてきたことに気付き、同人に右舷船首錨が大米の船体に引っ掛からないよう、錨索の安全確認を同指定海難関係人に依頼して07時20分揚錨を開始したが、同操作場所から同指定海難関係人の足元の状況は見えなかった。
B指定海難関係人は、大米の右舷船首部フェアリーダの右舷側側面に右足を接触させ、同フェアリーダ上面の右舷船首部に左手をついて身体を支え、同フェアリーダの右舷側に覆い被さるように上半身を船首方に乗り出す態勢で右舷船首錨及び錨索の安全確認を行い、錨索などの状況ばかりを見て係留索の動きに対する確認を十分に行わないまま、南寄りとなっていた風の影響で右舷船首部を支点として船体の船尾が徐々に岸壁から離れる方向に回頭し、右舷側ビットの緊張した係留索と同フェアリーダとの距離が徐々に狭まり、船体の船尾と岸壁との距離が20ないし30メートルに達して船体の角度が岸壁に対して約30度になり、同人が揚錨の終了合図を送ったとき、07時30分波照間港北防波堤灯台から190度320メートルの地点において、緊張した係留索と同フェアリーダとの間に同人の右足首が挟まれた。
当時、天候は曇で風力6の東南東風が吹き、港内にはうねりがあった。
A指定海難関係人は、揚錨が終了して揚錨機のブレーキバンドを締め付けているとき、B指定海難関係人が発した悲鳴を聞き、直ちに右舷側ビットの係留索を解き放して同人を救出するとともに病院に搬送するなどの事後措置にあたった。
その結果、B指定海難関係人は、右足関節開放性骨折の重傷を負った。
船舶部は、その後作業時の状況判断の励行などについての注意喚起を行うとともに安全大会を開催して同種事故の再発防止に努めた。
(原因)
本件乗組員負傷は、沖縄県波照間漁港において、台船の係留方法を変更する際、船体移動にともなう係留索の動きに対する確認が不十分で、緊張した係留索とフェアリーダとの間に乗組員の右足首が挟まれたことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
B指定海難関係人が、沖縄県波照間漁港において、台船の係留方法を変更する際、船体移動にともなう係留索の動きに対する確認が不十分であったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
指定海難関係人株式会社O建設船舶部の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。