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平成14年神審第56号
件名

引船第五明祐乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年12月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、上原 直、小金沢重充)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:第五明祐船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
甲板員が頚髄離断で死亡

原因
乗組員の安全確保に対する配慮不十分

主文

 本件乗組員死亡は、台船曳航時、曳航索の縮索作業後に台船を右舷斜め後方に引く状態で曳航を再開する際、乗組員の安全確保に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月2日06時45分
 大阪港堺泉北区

2 船舶の要目
船種船名 引船第五明祐
総トン数 19トン
全長 16.3メートル
登録長 14.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット

3 事実の経過
 第五明祐(以下「明祐」という。)は、平成13年7月に進水した鋼製の曳船兼押船兼作業船で、就航以来、主として瀬戸内海で台船の曳航作業等に従事しており、曳航設備として、船尾に甲板上高さ約1.3メートルの曳航アーチを備え、同アーチから船体中心線上約5メートル船首方の曳航アーチとほぼ同じ高さのところに曳航フックを装備していたほか、曳航索の収納時や縮索時に、曳航索を曳航アーチの船首側に設けられたウインチの左舷側リールに巻き取る際のガイドとして、同リールの後方に位置する曳航アーチ左舷側上部の穴に外径50ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約40センチメートル(以下「センチ」という。)の丸棒(以下「ガイドバー」という。)2本を取り付けることができるようになっていた。
 また、明祐の曳航索は、径50ミリ長さ50メートルの合成繊維索(以下「50メートル索」という。)と径50ミリ長さ17メートルの合成繊維索(以下「17メートル索」という。)とをシャックルで連結し、17メートル索の他端のアイに、径50ミリ長さ5メートルの合成繊維索と径26ミリ長さ8メートルのワイヤロープとを繋いだ長さ13メートルの索2本が取り付けられていた。
 同14年2月1日、明祐は、A受審人と甲板員Bが乗り組み、ケーソンを吊り上げるための資機材を搭載して船首尾の喫水が0.5メートルとなった全長65メートル幅22メートル深さ3.5メートルの台船を曳航し、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、08時20分高知県高知港を発し、大阪港堺泉北区に向かった。
 ところで、曳航索は、50メートル索の先端を曳航フックに掛け、各ワイヤロープの先端を曳航フックより1.2メートルほど高い台船甲板上のビットにとって固定していたので、曳航フックからやや斜め上方に張る状態となっていた。
 翌2日06時30分ごろA受審人は、泉大津埋立処分場防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から055度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点に達したところで、着岸に備えて曳航索の縮索作業を行うこととし、主機を停止して曳航索が十分に緩むのを確認したのち、B甲板員に縮索作業を開始するよう指示し、操舵室の後方中央で同甲板員の作業を見守った。
 一方、B甲板員は、曳航アーチ上に2本のガイドバーを取り付け、50メートル索を同バーの間に通して前方のリールで巻き取ったのち、シャックルを曳航フックに掛けて縮索作業を終えたが、作業終了後にガイドバーを取り外さず、17メートル索を同バーの間に通したままにしていた。
 なお、明祐は、以前の入港時には、曳航索を十分に緩ませたのち、B甲板員が50メートル索を手繰り寄せるという方法で縮索作業を行っていたが、同作業が重労働であることから、2週間ほど前の曳航時にリールで巻き取る方法に変更したばかりで、ガイドバーを使用する縮索作業は今回が2回目であった。
 A受審人は、B甲板員がシャックルを曳航フックに掛け終えるのを確認したので、同甲板員に合図をして曳航を再開することにした。
 その際、A受審人は、台船を右舷斜め後方に引く状態で、ガイドバーが取り外されず17メートル索が同バーの間に通されたままであったうえ、B甲板員が同索の内角側に位置する舵箱と称する箱の上に立っているのを認めるなど、そのまま曳航を再開して緊張した17メートル索がガイドバー上端から外れると、同索が右舷方に跳ねて同甲板員を強打するおそれのある状況であったが、普段から曳航索の内角側には入らないようにとの会社からの注意事項をB甲板員に伝えていたうえ、同甲板員が曳航再開の合図に手を上げて答えるとともに、舵箱から下りて移動するような気配を見せたことから、索が緊張する前に安全な場所に移動するものと思い、ガイドバーを取り外したうえで安全な場所に移動するよう指示し、同甲板員が安全な場所に移動するのを確認するなど、同甲板員の安全確保に対して十分に配慮しなかった。
 こうして、明祐は、A受審人が操舵室に赴いて主機を微速力前進にかけると同時に左舵30度としたところ、06時45分防波堤灯台から真方位080度1,480メートルの地点において、17メートル索が緊張した途端に船体が右舷側に傾き、ガイドバー上端から外れた同索が右舷方に跳ねてB甲板員の顔面を強打した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、B甲板員(昭和17年12月15日生)が、頚髄離断で死亡した。
 A受審人は、異音がしたので主機を停止して後方を振り返ったところ、B甲板員が右舷船尾に倒れているのを認めたので、直ちに救急車を手配するなどの事後の措置に当たった。

(原因)
 本件乗組員死亡は、台船曳航時、大阪港堺泉北区において、曳航アーチ上にガイドバーを取り付けて曳航索の縮索作業を行ったのち、台船を右舷斜め後方に引く状態で曳航を再開する際、乗組員の安全確保に対する配慮が不十分で、ガイドバーから外れた曳航索が乗組員の顔面を強打したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、台船曳航時、大阪港堺泉北区において、乗組員に曳航索の縮索作業を行わせたのち、台船を右舷斜め後方に引く状態で曳航を再開する場合、ガイドバーが取り外されず曳航索が同バーの間に通されたままであったうえ、乗組員が同索の内角側にいるのを認めていたのであるから、ガイドバーを取り外したうえで安全な場所に移動するよう指示し、同乗組員が安全な場所に移動するのを確認してから曳航を再開するなど、乗組員の安全確保に対して十分に配慮すべき注意義務があった。ところが、同人は、曳航再開の合図に乗組員が手を上げて答えたことから、曳航索が緊張する前に安全な場所に移動するものと思い、乗組員の安全確保に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、ガイドバーから外れた曳航索が乗組員の顔面を強打する事態を招き、同乗組員が頚髄離断で死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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