日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第43号
件名

漁船第三十八悠久丸乗組員死亡事件
二審請求者〔理事官弓田邦雄〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年11月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(道前洋志、平田照彦、半間俊士)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第三十八悠久丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第三十八悠久丸一等機関士 

損害
甲板員1人が脳挫傷により死亡

原因
漁労作業(作業手順)不遵守

主文

 本件乗組員死亡は、作業手順が遵守されなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月15日09時00分
 唐津港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八悠久丸
総トン数 273.19トン
全長 50.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 823キロワット

3 事実の経過
 第三十八悠久丸(以下「悠久丸」という。)は、大中型まき網漁業に運搬船として従事する船尾船橋型鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み、平成13年11月15日05時30分唐津港大島灯台から真方位217度0.7海里地点の唐津港内西港水産ふ頭に右舷付けし、5、6及び7番各魚倉の漁獲物60トンばかりの水揚げを行って08時30分に終了したのち、氷積込み作業を開始した。
 悠久丸は、上甲板下に船首部から船橋までの間に設けた魚倉を8区画に分け、船首側から順に1番から8番までの番号を付し、ハッチコーミングの高さは0.8メートルであったが、漁獲物の積込みなどの作業を安全円滑に行うためハッチコーミングと同じ高さにグレイチングが張られてハッチコーミングがない状態であり、5番魚倉の深さは倉口から3.5メートル、倉口は長さ及び幅共2.7メートルであった。
 ところで、氷積込み作業は、水揚げした各魚倉に35トンばかりの砕氷をそれぞれ積み込むのであるが、これが固まって一体となるのを防ぎ、分割して砕氷を取り出して早く水氷ができるよう魚倉に1段3枚の網(以下「モッコ」という。)を敷き、製氷所からのホースを通して5トンばかり積み、次いで2段目にも3枚のモッコを敷いて5トンばかり積み、順次7段まで積み込むものである。
 また、氷積込みの準備作業としては、使用されていない1及び2番両魚倉ハッチボード上にまとめて置かれたモッコ21枚ずつを各魚倉のハッチボード上に移し、各魚倉の左右舷側に振り分け、そのうち1段目の3枚を広げて倉底に落としておくもので、1枚のモッコは約10キログラムあるので、船体中央部甲板上8メートルのところの船首尾方向に張られたワイヤに取り付けられたトローリーとテークルによる揚貨装置(以下「トローリー」という。)で移動していた。
 こうしてA受審人は、モッコ移動作業にかかり、B指定海難関係人が玉掛けと合図、甲板員Cほか1人がモッコ振り分け作業の配置にそれぞれついたのを確認し、自らは船首楼甲板に設置された油圧式トローリー操縦装置の操作につき、水揚げ後ハッチボードを開けたままにしている5番魚倉から作業を行うこととし、B指定海難関係人の合図により4番魚倉ハッチボード上にモッコを移し、トローリーを1番魚倉上に戻した。
 09時00分少し前A受審人は、B指定海難関係人が2枚に他の19枚を入れて直径1.3メートルに膨らんだ6番魚倉用のモッコをトローリーにかけたのを見て、5番魚倉で作業中のC甲板員等に「行くよ。」と声をかけ、同人たちが同倉右舷側で待機したのを確認したのち移動を開始し、5番魚倉を過ぎて6番魚倉前部に達して下ろすこととしたが、B指定海難関係人の停止の合図を待つことなくトローリーを停止した。
 B指定海難関係人は、モッコと共に左舷側を船尾方へ移動して6番魚倉中央部に至って停止の合図をしたところ、すでにA受審人がトローリーを停止していた。
 C甲板員は、5番魚倉右舷側で待機していたところ、モッコが同倉を過ぎたことからモッコを倉底に落とすためモッコ両端のロープを持って5番魚倉口に向かうこととしたが、モッコが6番魚倉ハッチボード上に下りるのを待つことなく、09時00分5番魚倉口船尾側に移動したとき、停止して前方に振れたモッコが背後から腰部付近に当たって5番魚倉に転落した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、港内は平穏であった。
 その結果、C甲板員(昭和30年3月16日生)は、救急車により病院に搬送されたが、脳挫傷により死亡した。

(原因)
 本件乗組員死亡は、唐津港に着岸中、漁獲物用氷積込み準備としてトローリーを使用して魚倉へのモッコ振り分け作業を行う際、作業手順が遵守されることなく、トローリーが停止して振れたモッコが乗組員の背後から腰部付近に当たり、同人が魚倉に転落したことによって発生したものである。
 作業が適切でなかったのは、船長がトローリー停止の合図を待つことなく倉口近くで停止したことと、乗組員がモッコが甲板上に下りるのを待つことなく倉口に向かったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、唐津港に着岸中、漁獲物用氷積込み準備として各魚倉へのモッコ振り分け作業を行うためトローリーを操縦する場合、担当者のトローリー停止合図を確認するなど作業手順を遵守すべき注意義務があった。しかるに、同人は、作業手順を遵守しなかった職務上の過失により、停止合図を待つことなくトローリーを倉口の近くで停止し、振れたモッコが乗組員の背後から腰部付近に当たり、同人を魚倉に転落死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION