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平成14年那審第35号
件名

遊漁船ぶるーまりん乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年11月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、金城隆支、平井 透)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:ぶるーまりん船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ぶるーまりん乗組員

損害
乗組員1人が左下腿内果上複雑挫創

原因
甲板作業(錨泊作業時の安全確認)不適切

主文

 本件乗組員負傷は、錨泊作業時の安全確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月21日14時30分
 沖縄県慶良間列島久場島西岸付近

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船ぶるーまりん
全長 10.41メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 63キロワット

3 事実の経過
 ぶるーまりんは、船内外機を備えた最大搭載人員13人のFRP製遊漁船で、船体後部に操縦室を設け、その前方に1個の船首物入れ及び前部甲板下の4個の生簀(いけす)兼物入れを、同室後方の船尾甲板上には主機関とアウトドライブとの連結部点検用ハッチ及びアウトドライブ点検用ハッチをそれぞれ設けていた。また、船尾トランサムには中央のアウトドライブを挟んで左右両舷側に同ドライブ上端から径37.0センチメートル(以下「センチ」という。)3枚羽根のプロペラ上縁にかけ、ダイバーがプロペラに接触するのを防止するため長さ約65センチ幅約65センチ高さ約47センチの赤色のFRP製保護枠を取り付けていた。
 操縦室には、同室右舷側に舵輪が、その上方の右側に増減速用の長さ約20センチのスロットルレバーを、約7センチ隔ててその左側には前後進用の長さ約20センチのクラッチレバーを有する主機遠隔操縦レバーが、その前方に主機回転計などの主機監視警報盤がそれぞれ備えられていた。
 A受審人は、平成8年12月から沖縄県島尻郡座間味村で民宿ぶるーまりんを経営する傍ら自らのダイビングの経験を生かし、船を借りてダイビングサービス業を始め、翌9年7月には中古の本船を購入し、船長として乗り組み、専ら座間味港を基地とし、座間味島やその周辺諸島海域でダイビング客の送迎及びダイビングの実施等に使用していた。
 B指定海難関係人は、平成12年4月からダイビングのインストラクターの資格取得を目的に、A受審人経営の民宿ぶるーまりんにスタッフとして住み込みで勤務し、民宿の食事準備、掃除等を行いながら、本船への潜水用空気ボンベの積込み、ダイビングポイント到着時の海中での錨打ち作業、自らダイビングを行ってのダイビング客の案内等を行っていた。
 こうして、ぶるーまりんは、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、ダイビング客4人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成13年7月21日14時00分座間味港を発し、同時20分同港南西方約5海里のところにある久場島西岸付近のフカカネ瀬南方約50メートルのダイビングポイントに至り、錨泊してダイビングを行うことになった。
 ところで、本船の錨泊方法は、ダイビングポイントで直接船上から錨を投下するのではなく、さんご礁を損傷することのないよう、投錨前に乗組員が海中に飛び込み、適当なところを探したあと海面に浮かびながら本船に合図を送ってその場に待機し、その後本船がゆっくりと後進して乗組員に近づいたところで機関を中立とし、乗組員が右舷船尾部で本船から錨を受け取って、これを持って潜水し、船尾ビットに一端を係止した錨索を適宜延ばしてさんご礁を避けたところに錨を打ち、続いて同じ動作を繰り返して左舷船尾部から出した錨も打つというものであった。
 14時30分少し前A受審人は、主機遠隔操縦レバーを適宜操作してゆっくりと後進を始め、先に海中に飛び込んで錨打ち地点に待機していたB指定海難関係人に近づいてほとんど行きあしを止め、同時30分わずか前同人に重さ約5キログラムの錨を手渡したが、同人の方に気を取られ、クラッチレバーが中立の位置にあることを確認するなどの錨泊作業時の安全確認を十分に行わなかったので、クラッチレバーを中立の位置に戻したつもりが少し後進の位置になっていたため、機関が後進にかかったままで、プロペラが回転していたものの、この状況に気付かなかった。
 一方、B指定海難関係人は、上下のウエットスーツ、マスク、シュノーケル、ウエイトベルト及びフィンを着けて水深約4メートルの錨打ち地点の海面に浮かんでぶるーまりんを待ち、14時30分わずか前右舷船尾部に近づき、立ち泳ぎをしながらA受審人から錨を受け取り、体を右に捻って船首に向け潜ろうとしたところ、両足がプロペラの方に急接近し、14時30分久場島270メートル頂三角点から真方位323度1,020メートルの地点において、左足が回転中のプロペラに接触した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海面は穏やかであった。
 A受審人は、直ちにクラッチレバーを中立の位置に戻すとともに、B指定海難関係人を船上に引き上げて止血等の応急処置を施し、ダイビングを中止して座間味港に引き返し、救急車を手配するなどの事後の措置に当たった。
 その結果、B指定海難関係人は座間味村の診療所に運ばれて手当てを受けたのち、ヘリコプターで那覇市内の病院に搬送され、8日間の入院治療とその後の同診療所への通院治療を要する左下腿内果上複雑挫創を負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、沖縄県久場島西岸付近において、フカカネ瀬のダイビングポイントでの錨泊作業中、同作業の安全確認が不十分で、作業中の乗組員の左足が回転中のプロペラに接触したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄県久場島西岸付近において、フカカネ瀬のダイビングポイントでの錨泊作業中、先に海中に飛び込んで錨打ち地点に待機していたB指定海難関係人に錨を手渡す場合、同人がプロペラに接触することのないよう、クラッチレバーが中立の位置にあることを確認するなどの錨泊作業時の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、B指定海難関係人の方に気を取られ、錨泊作業時の安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、クラッチレバーを中立の位置に戻したつもりが少し後進の位置になっていて、プロペラが回転していることに気付かないまま錨を手渡し、同人の左足が回転中のプロペラに接触し、同人に左下腿内果上複雑挫創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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