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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年横審第103号
件名

リバーラフト(船名なし)乗客死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年11月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、原 清澄、長谷川峯清)

理事官
松浦数雄

指定海難関係人
A 職名:リバーラフト(船名なし)リバーガイド
B 職名:トリップリーダー
有限会社K 業種:リバーラフティング業 

損害
乗客1人が溺水により死亡

原因
落水者の救助体制の不適切

主文

 本件乗客死亡は、落水者の救助体制が適切にとられなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月29日12時38分
 群馬県勢多郡赤城村利根川

2 船舶の要目
船種船名 リバーラフト(船名なし)
全長 4.17メートル
1.88メートル
中央部深さ 0.50メートル

3 事実の経過
(1)リバーラフト(船名なし)
 リバーラフト(船名なし)の艇体は、ハイパロンと称する摩擦や紫外線に強い軽量のゴム素材で作られ、外舷を形作る直径50センチメートル(以下「センチ」という。)のアウターチューブ、底部の最大厚さ20センチのフロアチューブ及び両舷アウターチューブ間に固定された3本の直径40センチの円筒型スウォートチューブにより構成され、アウターチューブ上端から艇底までの深さは、艇首尾部で57センチ、中央部で50センチ、フロアチューブまでの深さは中央部で30センチとなっており、合計8室に区分されたこれらチューブにそれぞれポンプで空気を送り込んで圧力をかけ、剛性が確保されていた。また、フロアチューブの両舷側に、河川水が艇内に打ち込んでも滞留しないように、直径3センチの自動排水穴が各20個備えられ、アウターチューブ部の艇底両舷側は、特殊ゴムで補強されていた。
(2)ラフティング
 ラフティングは、リバーラフトに乗り込み、激流や急流を乗り越えながら川を下るアウトドアスポーツの一種で、もともとはアメリカ、カナダ、ニュージーランド等で盛んに行われていた。わが国ではごく一部の愛好家が集って行うものであったが、近年になってラフティングの魅力が多くの人に知られることとなった結果、必要な機材等を準備して乗客を募集するラフティングツアー会社が設立されるようになり、ラフティングに適する河川において商業ラフティングが盛んになってきた。
 乗艇者は、通常は左右に分かれてアウターチューブに腰掛け、艇尾部に位置するリバーガイドの指示により、スウォートチューブに移動したり、フロアにしゃがみ込んだりしていた。
(3)リバーガイド
 リバーガイドは、リバーラフトに乗り込み、乗客である乗艇者を指導しながら、川下りを楽しませる業務に従事し、同ラフトの操艇に習熟しており、河川での危険を予測して回避する技術を有する者であった。
 リバーガイドは、通常、呼子笛、救助ロープ、リバーナイフ、カラビナ、転覆したリバーラフトを復原するためのフリップラインと呼称するロープ、連絡用携帯電話、救急箱などの装備を携行し、パドルを持った乗艇者に対して前進又は後進の指示を出し、自らもパドルを操って操艇を行っていた。
 リバーガイドは、ラフティングが安全に行われるように、リバーラフトに乗客を乗せる前に、セーフティトークと称するラフティング実施中の以下に示すような注意事項の説明(以下「セーフティトーク」という。)を行っていた。
 (1)リバーラフトの腰掛け方
 (2)パドルの正しい持ち方
 (3)パドルの操作
 (4)ライフラインのつかみ方、艇内でのしゃがみ方
 (5)リバーラフトが岩にぶつかる際の身体の移動方法
 (6)落水時の泳ぎ方・体勢維持の方法
 (7)救助ロープの使用方法・握り方
 (8)落水者の引き寄せ方・引上げ方
 (9)リバーラフト転覆時の対応方法など
 また、リバーガイドは、セーフティトークを終えたのち、河原に引き上げたリバーラフトに乗客を乗り込ませて前記注意事項の練習を行ったうえで、川に乗り出した緩流域でも同練習を行うことにしており、時には実際に乗客を落水させて体勢維持の方法や引上げ方などを体験させることもあった。
(4)操艇用具
 リバーラフトの操艇には、リバーガイドが使用するパドルと乗客全員に1本ずつ渡されたパドルとが使用され、前進、後進については、同ガイドの指示により乗客がパドルを前漕ぎ又は後漕ぎすることにより、また、進路の変更、保持などについては同ガイドがパドルを操作することよって行われていた。パドルの形状は、上端がT字型のTグリップとそれに続く直径3センチの持ち手部の下部にブレードがあるもので、同ガイド用が全長167センチ、ブレードの長さ、幅がそれぞれ67センチ、20センチで、乗客用が全長152センチ、ブレードの長さ、幅がそれぞれ47センチ、20センチとなっていた。
(5)救命設備及び安全装具
 リバーラフトには、直径9ミリメートルの化学繊維製ライフラインが、アウターチューブ上面に取り付けられた計12個のDリングと称する金具に結ばれてアウターチューブ上部とスウォートチューブ上部に張り渡されており、リバーガイドの指示により乗客はこれをつかみ、身体の安定を保ったり、落水後ラフト内に引き上げられるときにつかまることができるようになっていた。
 リバーガイドは、直径が10ミリメートル、全長が約20メートルで黄色の浮揚性救助ロープを、腰に巻いたベルトに装着したスローバックと称する収納袋に入れて装備していた。同ロープは、リバーガイドがロープの端を持ち、落水者に向かってスローバックを投げると、空中でロープが同バックから順に出るようになっており、このロープを落水者につかまらせて救助する道具であった。
 リバーガイドと乗客は、障害物との衝突や落水に備えて、リバースポーツ用ヘルメット(以下「ヘルメット」という。)、ウエットスーツ、ウエットジャケット、ジャケット型救命胴衣の安全装具を着用していた。
(6)リバーラフトの安定性
 リバーラフトは、静水中であって、乗艇定員内であれば、安定性が十分に確保されていた。しかし、急流で規模の大きな立ち波等へ突入すると、艇体の動揺や大傾斜によってリバーラフトが転覆することもあった。その際に、乗艇者が落水することが想定されるため、リバーガイドと乗客は前記安全装具を装着することになっていた。
(7)ラフティングに関する用語
(1)ラフティングツアー会社
 商業ラフティングを行うツアー会社は、リバーラフト、パドルなどの機材やヘルメット、ウエットスーツ、ジャケット型救命胴衣など必要な安全装具を準備するとともにリバーラフトの操艇技術、川の知識、危険回避術等を有するリバーガイドを雇用したうえで、数種類のルートを設定して乗客を募集し、春から秋までの間、ラフティングツアーを開催していた。
(2)日本リバーガイド協会
 日本リバーガイド協会(以下「RAJ」という。)は、平成9年全国のリバーガイド及びツアー会社を組織化し、ラフティングの普及発展、事故防止、自然保護活動の推進等を目的として設立された。
 RAJは、会員に対して商業ラフティングを含むリバーガイド業の安全管理の指導を行うため、安全基準及び技術基準を設定すること、技術の研究、普及及び指導を行うこと、リバーガイドの人材育成のため資格認定基準を設定することなどをその事業としていた。
 RAJは、会員の加盟及び毎年の登録更新時に、加盟事業者運行規約に従った運行規定をそれぞれ会員から提出させ、同規約を遵守させることによって具体的な安全管理の指導を行い、RAJ加盟のツアー会社がそれぞれ各地域ごとに、組合を作り、地域の情報交換を行い、安全対策等を講じていた。
 RAJでは、リバーガイド認定に際して、装備、河川、救急法等に関する各基礎知識、セーフティトーク、パドルワーク、救助法などの各基本技術、流れの中での操艇法、危険箇所の把握などの各応用技術などについての各資格認定基準を定め、各資格ごとにそれぞれ検定試験を実施することとしていた。
(3)トリップリーダー
 トリップリーダーは、複数のリバーガイドによって催行されるラフティングツアーの最高責任者で、参加するリバーガイドのうち最も経験と技術のある者が就き、ツアー全体の状況を掌握し、進路の選定、事故の防止などに関する判断を行い、事故が発生した場合には適切な救助体制をとるなどの対応措置をとることになっていた。
(4)川の専門用語
(ア)立ち波
 立ち波とは、スタンディングウェイブとも呼ばれ、川の流れの中で最もよく見かける波形で、流れが岩、地形、木、人工物などの障害物を乗り越えて本流と直角に形成されることが多い。この波を乗り越えることは、ラフティングのスリルと醍醐味のひとつであるが、立ち波の規模が大きいと、リバーラフトを転覆させることがある。
(イ)ストッパー
 ストッパーとは、波の斜面が急角度で、その頂点が上流側に逆巻いて白く崩れ、リバーラフトを停止させる程の規模の大きな立ち波のことである。
(ウ)ホール
 ホールとは、障害物を乗り越えた流れが急角度で川底に向かって落ちたのち、逆に水面に向かって上昇すると、連続して落ち込んでくる流れと合流して、水中で形成される縦方向の渦であり、リバーラフトを停止させたり、その規模が大きくなると巻き込まれた落水者が脱出困難となったりすることがある。
(エ)エディー
 エディーとは、障害物の下流側に形成される逆流、渦、又は流れが止まる静水域で、数艇でツアーを行う場合の待機場所や救助場所となる。
(オ)シーブ
 シーブとは、岩などの障害物が重なり合った場所において、水流の幅が狭められて流速が速くなるところに形成されるトンネル状のもので、落水者がこのシーブにはまると脱出困難となることがある。
(8)利根川及び赤城ラフティングツアーコースの状況
 利根川は、新潟県と群馬県との県境にある大水上山付近に源を発し、関東平野を北西から南東へ斜めに横断して千葉県銚子市で太平洋に注ぎ、その幹川流路延長が322キロメートルで、日本では信濃川に次ぐ長さをもつ、国土交通省が管理する一級河川である。 
 利根川は、源流から群馬県渋川市あたりまでは山地を流れ、両岸に急峻な(きゅうしゅんな)崖や岩棚が迫る渓谷をなしており、群馬県勢多郡赤城村を流れ下る部分でも、所々に急流や早瀬が形成されている。
 赤城村の利根川には、複数のツアー会社が、4月下旬から7月上旬までの増水期に、東京電力株式会社佐久発電所綾戸ダムから800メートル下流の同村棚下にある綾戸ヤナのスタート地点から、同村大字宮田の村営温泉施設であるユートピア赤城までの距離8キロメートルの間で営業する、赤城コースと称するラフティングツアーコース(以下「赤城コース」という。)が設定されていた。
 赤城コースは、RAJの6段階あるツアー難易度では、標準的なツアーコースと言われているが、波高が1メートルないし2メートルとなって白波が立つ瀬があり、ストッパーやエディー、露出した岩及び小さな滝などもあり、進路を選定するために、事前に川岸や河原から下見が必要なツアーの難所が所々にあるコースであった。
(9)ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬
 赤城コースには、ツアー会社の間でロープラピッドの瀬及び水管橋の瀬と呼称するツアーの難所となる2つの早瀬(以下「ロープラピッドの瀬」及び「水管橋の瀬」という。)が近接して存在していた。
 ロープラピッドの瀬は、水資源開発公団群馬用水管理所が管理している利根川サイホン水管橋(以下「水管橋」という。)の上流200メートルに、また、水管橋の瀬は、水管橋の下流250メートルにそれぞれ存在していた。
(1)ロープラピッドの瀬
 赤城村津久田付近の利根川は、赤城コースの中央部に当たり、その流向が水管橋の上流400メートルの地点で南東方から南西方に大きく湾曲し、水管橋の上流330メートルから220メートルにかけて右岸寄りに中洲が形成され、その右岸側に支流が、左岸側に本流が流れている。その中洲の下流側先端(以下「中洲下端」という。)付近で本流がロープラピッドの瀬を形成していた。
 当時、ロープラピッドの瀬では、本流沿いの中州下端から10メートル下流のところに第1の立ち波が、その下流12メートルのところに第2の立ち波がそれぞれ発生しており、さらに同瀬の右岸側を流れ下った支流が分岐して両立ち波の間で本流と合流するなど複雑な流れが形成されていて、本流の幅は18メートルで、第1の立ち波は上流から見ると幅4メートル高さ0.6メートルで、第2の立ち波は幅5メートル高さ0.8メートルになっており、リバーラフトが第2の立ち波の頂部に至ると同波のストッパーにより艇首が持ち上げられて後方に転覆するおそれがあった。
 また、同瀬に並行する左右両岸には水流が穏やかな緩流域が所々に存在していた。
(2)水管橋の瀬
 水管橋の下流220メートルから320メートルにも中洲が形成され、その中洲の上流側先端(以下「中洲上端」という。)には複数の大岩が重なり合った場所があり、その左岸側に分流が、右岸側に本流がそれぞれ流れ、水管橋から下流250メートルのところの本流が水管橋の瀬となって、同瀬の中に2箇所の規模の大きなホールが形成されていた。また、中洲上端の大岩の重なりについては、これまでに多くのリバーラフトが左岸側分流をラフティングしていたことから、その存在が知られており、同大岩の重なりにシーブが存在することが予想された。
 なお、ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬との間は距離が約500メートルと短く、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、乗艇者が水管橋の瀬及び同大岩の重なりに向かって短時間に押し流されるおそれがあった。
(10)指定海難関係人
(1)A指定海難関係人
 A指定海難関係人は、平成11年にリバーガイドとしての訓練を指定海難関係人有限会社K(以下「K」という。)で受け、同年から契約社員としてKに入社し、赤城コースでのラフティングは、トレーニングを含めて平成11年から15回程度の経験があった。
(2)B指定海難関係人
 B指定海難関係人は、平成8年から1年間、ニュージーランドで訓練を受け、同9年群馬県利根郡水上町のツアー会社にリバーガイドとして勤務したのち、同10年Kにリバーガイドとして入社し、その全期間を通じてラフティングを100回以上経験していた。
(3)K
 Kは、代表者Tが平成8年に設立し、リバーラフティング等を事業としていた。同社の主なラフティングツアーコースは、荒川の埼玉県長瀞地区、利根川の水上及び赤城両地区、五十嵐川の新潟県下田地区であり、所有艇は長瀞町に9艇、水上町に5艇を保管し、RAJと水上ラフティング組合の各会員であった。
 Kでは、同社の認定基準でリバーガイドをC、B、A又はSの各ランクに分けており、研修生として50回以上のリバーラフティング経験があるランクCのリバーガイドを2人、ランクCでの同経験が100回以上あるランクBのリバーガイドを3人、ランクBでの同経験が100回以上あるランクAのリバーガイドを6人、経験年数が5年以上あるランクSのリバーガイドを1人の計12人を雇用しており、A指定海難関係人がランクB、B指定海難関係人がランクA、T代表者がランクSであった。
 Kのラフティング乗客数は、設立から平成13年4月までの総数で19,700人となっており、その内訳は長瀞地区が17,000人、水上地区が2,000人、赤城地区が200人、下田地区が200人であった。
 Kのツアー催行基準は、運行規定に規定され、原則としてラフティングを行うには最低2人のリバーガイドと最低1人のトリップリーダーが同行すること、スタート前に水量の確認を行うこと、乗客に対してセーフティトークを行うこと、技術的に難しい急流がある場合、急流を避けて陸行するなど事前にリバーガイドによって必要な安全対策を施すこと、緊急事態発生の場合はラフティングを中止して適切な措置をとること、ラフティングの記録であるログブックを書くことなどが記載されていた。また、ラフティングの中止基準は、視程が100メートル以下になったとき、水位が上昇したとき、緊急事態が発生したとき、乗客の健康に異常があるときなどであり、トリップリーダーが判断して決定することとしていた。
(11)出発準備
 平成13年4月29日09時30分Kは、ユートピア赤城に乗客8人を集合させ、A、B両指定海難関係人に対して赤城コースで、リバーラフト2艇を使用してガイドに当たるよう、また、B指定海難関係人がトリップリーダーとして2艇の指揮をとるよう指示してラフティングを開催することとしたが、同コースには、ロープラピッドの瀬や水管橋の瀬が存在し、両瀬間は距離が短く、水管橋の瀬の中洲上端には大岩の重なりがあり、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、落水した乗客がホールやシーブにはまり込む危険が予想されたものの、落水者を速やかに救助できるよう、相互にロープラピッドの瀬の近傍(きんぼう)の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとるよう具体的に指示しなかった。
 A、B両指定海難関係人は、ユートピア赤城において、事故が発生した場合の責任などについて記載された申込書兼誓約書を乗客に記入、署名させ、ヘルメット、ウエットスーツ、ウエットジャケット、ジャケット型救命胴衣などの安全装具を装着させたのち、10時05分上流のスタート地点である綾戸ヤナへ向けて車で出発し、その途中、利根川の様子を確認しつつ、乗客に赤城コースの状況等の説明を行った。
 10時25分一行10人は、綾戸ヤナに到着し、B指定海難関係人が陸上で乗客全員に対して、安全装具の確認及びセーフティトークを実施したのち、A指定海難関係人が乗り組んでガイドに当たるリバーラフト(船名なし)(以下「A艇」という。)に男性1人及び女性2人の乗客3人を同乗させ、B指定海難関係人が乗り組んでガイドに当たるリバーラフト(以下「B艇」という。)に男性3人及び女性2人の乗客5人を同乗させ、11時00分綾戸ヤナ付近の緩流域に向けて漕ぎ出し、パドルの漕ぎ方などの練習を行わせたが、乗客を実際に落水させて体勢維持の方法、引上げ方などの練習は、乗客に寒気を与えてしまうことを考慮して実施しなかった。
(12)事故に至る経緯
 佐々木艇は、艇首艇尾0.18メートルの等喫水をもって、B艇とともに、同日11時10分綾戸ヤナを発し、ユートピア赤城付近に向かった。
 11時55分発進地点から3キロメートルほど下ったところで、A、B両指定海難関係人は、川岸に両艇を寄せて上陸し、乗客を休息させてその体調を確認したのち、12時10分ラフティングを再開し、さらに2キロメートルほど下って、同時28分水管橋の上流300メートルの右岸河原に両艇を引き上げ、徒歩でロープラピッドの瀬の下見に向かった。
 A、B両指定海難関係人は、ロープラピッドの瀬の近くの岩の上に立って下見を行い、同瀬に2つの連続した立ち波があること、特に第2の立ち波が高いので、この波に向かって直進すると転覆するおそれがあることを確認し、第2の立ち波の右裾を通過すれば無難に航過できると判断するとともに、A艇の漕力を増すためB艇の男性乗客1人をA艇に移乗させることとした。
 A、B両指定海難関係人は、ロープラピッドの瀬及び水管橋の瀬については、Kのリバーガイドとして訓練や実際のツアーに参加するたびに通行していたので、両瀬間の距離が短く、水管橋の瀬の中洲上端に大岩の重なりがあり、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、落水した乗客がホールやシーブにはまり込む危険が予想される水管橋の瀬及び同大岩の重なりに向かって短時間に押し流されるおそれがあることについては理解していたが、A、B両艇のうちどちらか1艇が転覆して落水者が生じた場合に備え、相互に同瀬の近傍の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとることを検討せずに下見を終えた。
 A指定海難関係人は、自分より経験のあるB指定海難関係人がトリップリーダーであり、その決定に従えば無難にロープラピッドの瀬を通行できるものと思い、両艇のうちどちらか1艇が転覆して落水者が生じた場合に備え、相互に同瀬の近傍の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとることについて、B指定海難関係人に進言しなかった。
 A、B両指定海難関係人は、下見地点から前示両艇引上げ地点に戻り、乗客に立ち波に乗ったときに両艇から絶対落ちないように指示し、B艇の男性乗客1人をA艇に移乗させ、両艇の艇首両舷側に男性乗客2人、その後方に女性乗客2人を配置させた。
 12時33分少し過ぎA指定海難関係人は、B艇に続いて両艇引上げ地点を漕ぎ出し、同時35分少し前水管橋南側橋脚の中心点(以下「基点」という。)から030度(真方位、以下同じ。)350メートルの地点で、艇首を250度に向け、水流により左方に25度圧流されながら、時速13.5キロメートルで第1の立ち波の頂部を目標に進行した。
 先行するB指定海難関係人は、佐々木、須賀両艇とも第2の立ち波の右裾を通過すれば無難にロープラピッドの瀬を通行できるものと思い、落水者を速やかに救助できるよう、相互にロープラピッドの瀬の近傍の緩流域で待機するなど、落水者の救助体制を適切にとらなかった。
 12時35分わずか前A指定海難関係人は、須賀艇に15メートルの間隔を空けて同艇より少し右岸寄りに続行し、乗客に前進を指示しながら、B艇に続いて第1の立ち波を乗り越えたが、中洲の右岸側を流れる支流から分岐する予期していなかった強い流れにより左岸側に圧流されたので、乗客に対してさらに前進を指示したものの、A指定海難関係人の声が川の流れの音にかき消されて指示が伝わらないまま、第2の立ち波に向かうことになり、やむを得ず同人は自らパドルを操作して艇首を第2の立ち波に直角となる225度に向けたものの、同時35分基点から026度270メートルの地点に至ったとき、A艇は第2の立ち波の頂部で艇首を持ち上げられ、後方に転覆し、同人と乗客全員が水中に投げ出された。
 一方、B指定海難関係人は、第1の立ち波の頂部を通過し、第2の立ち波の右裾に向かおうとしたが、中洲の右岸側を流れる支流から分岐する予期していなかった強い流れにより左岸側に圧流されたので、乗客に指示して前進に3回ばかり漕ぎ、艇首を225度に向けて第2の立ち波の左裾を無難に通過したのち、落水しかけた艇首左舷側の男性乗客への対応と操艇に気を取られ、トリップリーダーとして、後から来るA艇の状況の確認を行わなかったので、同艇の転覆に気付かず、近傍の河原寄りの緩流域で待機をするなど落水した乗客を速やかに救助する体制をとらないまま、次の下見のための上陸予定地点である水管橋から100メートル下流の右岸の緩流域に向かった。
 12時35分少し過ぎA指定海難関係人は、水中から浮上して顔を出し、周りを見たところ、男性乗客客2人が自艇のそばで、女性乗客2人が川上でそれぞれ流されているのを確認した。
 12時36分半A指定海難関係人は、自動排水穴に指をかけて自艇を復原させてこれに乗り込み、自艇へ5メートルに接近した女性乗客Cに救助ロープを投げて引き寄せ、呼子笛を吹いてB指定海難関係人に急を知らせ、流されている3人の乗客に対して左岸に向かって泳ぐよう指示した。
 12時37分A指定海難関係人は、C乗客を艇尾端まで引きつけたが、同乗客が自艇のライフラインをつかんだかどうかを確認しないまま、艇首での操艇に追われ、水管橋の瀬に向かう前に救助体制を整えようと自艇を停止できる場所を探して左岸に寄せていたため、C乗客が自艇の後方に離れていったことに気付かなかった。
 そのころ、B指定海難関係人は、水管橋下流100メートルの右岸河原に自艇を引き上げて上陸し、呼子笛の音を聞いて、A艇の異常事態発生を知ったものの、再び自艇を引き降ろして救助に向かう時間的余裕がないものと考え、右岸を下流に向かって走り出し、流れてくる乗客の救助に向かった。
 12時38分少し前A指定海難関係人は、左岸にはテトラポッドがあって自艇を引き上げられないので、左岸から少し離れたところの大岩の重なりの頂部に引き上げることとし、艇首側から引き上げているとき、同時38分わずか前C乗客が自艇に向かって流れてくるのを認めたが、大岩頂部で足元が不安定であったことや艇尾まで移動する余裕もなかったことから、手を差し伸べることもできずに見ているうちに、C乗客が自艇の下に潜り込んだのを認めたものの、その後同乗客を見失った。
 12時38分C乗客は、基点から289度300メートルの地点において、佐々木艇が引き上げられている大岩の重なりの水深1.5メートルの水中部に形成されたシーブに脚を捕られ、水圧により押し付けられて脱出困難となった。
 当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、水管橋付近の流速は時速約13.5キロメートルであった。
 その結果、A艇は、損傷がなく、C乗客(昭和43年9月4日生)は、溺水により死亡した。
(13)捜索状況
 B指定海難関係人は、水管橋の瀬の手前で本流中央を流れる男性乗客に向かって救助ロープを投げたが、ロープが届かず救助できなかったので、同瀬の下流の緩流域まで走り、同瀬を通過して自力で右岸に上陸した男性乗客2人と、同緩流域で付近を通行中のカヤックにより救助されて左岸に上陸した女性乗客1人を確認した。
 A指定海難関係人は、C乗客が佐々木艇の下に潜り込んだ前示シーブで、自艇を持ち上げたり、艇の底部に手や脚を差し入れたりしてC乗客を探したが、速い流れで水中を見透せず、同乗客が前示シーブに押し付けられていることに気付かず、下流に押し流されたものと思い、自艇を引き降ろして左岸の分流を下り、大岩の重なりから240メートル下流の右岸に男性乗客2人、左岸に女性乗客1人が上陸しているのを認めたものの、もう1人の女性乗客が見つからなかったので、徒歩や泳いだりして左岸側を転覆地点まで遡ったり、下ったりしながら捜索した。
 B指定海難関係人は、上陸した男性乗客からA指定海難関係人が捜索を続けていることを聞き、女性乗客が1人行方不明になったことを知ったので、Kの事務所に連絡をとり、警察等への連絡を依頼し、自らも捜索に加わった。
 その後、A指定海難関係人は、左岸に上陸した女性乗客の話から、佐々木艇の下に沈んだ女性乗客が行方不明になっていることを確信したので、佐々木艇を引き上げた大岩の重なりまで戻り、何回も大岩の重なり周辺を同人自身が流れに流されてみたところ、14時45分前示発生地点でC乗客の腕に触れ、同乗客を発見したが、水圧が強くて引き上げることができなかった。
 警察等の救助機関が到着後もC乗客の引き上げは難航したので、救助機関の要請により綾戸ダムの放水が緊急停止され、利根川の水位が下ってから救助作業が可能となり、16時55分C乗客がようやくシーブから引き上げられたが、溺死と検案された。
(14)事後の措置
 Kは、直ちに営業を中止し、事故を記録するため、現地の状況及び関係者の証言をビデオで撮影し、RAJに事故報告書を提出し、難度の高いコースでリバーラフト2艇でツアーを催行する場合、2人のリバーガイドに救助要員を1人以上を同行させること及び赤城コースにおいては渇水時に地形調査を行って危険箇所の特定を図ることの2点を従来の運行規定に追加した。

(原因)
 本件乗客死亡は、群馬県勢多郡赤城村の利根川において、ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬との間をラフティングする際、落水者の救助体制が適切にとられなかったことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、群馬県勢多郡赤城村の利根川において、ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬との間をラフティングする際、両瀬間は距離が短く、水管橋の瀬の中洲上端には大岩の重なりがあり、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、落水した乗客がホールやシーブにはまり込む危険が予想される水管橋の瀬及び同大岩の重なりに向かって短時間に押し流されるおそれがあったから、落水者を速やかに救助できるよう、ロープラピッドの瀬を下見したとき、相互にロープラピッドの瀬の近傍の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとることについてB指定海難関係人に進言しなかったことは本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 B指定海難関係人が、群馬県勢多郡赤城村の利根川において、ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬との間をラフティングする際、両瀬間は距離が短く、水管橋の瀬の中洲上端には大岩の重なりがあり、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、落水した乗客がホールやシーブにはまり込む危険が予想される水管橋の瀬及び同大岩の重なりに向かって短時間に押し流されるおそれがあったから、落水者を速やかに救助できるよう、相互にロープラピッドの瀬の近傍の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 Kが、A、B両指定海難関係人に対して、群馬県勢多郡赤城村の利根川において、ロープラピッドの瀬と水管橋の瀬との間をラフティングするよう指示する際、両瀬間は距離が短く、水管橋の瀬の中洲上端には大岩の重なりがあり、ロープラピッドの瀬の立ち波でリバーラフトが転覆すると、落水した乗客がホールやシーブにはまり込む危険が予想される水管橋の瀬及び同大岩の重なりに向かって短時間に押し流されるおそれがあったから、落水者を速やかに救助できるよう、相互にロープラピッドの瀬の近傍の緩流域で待機するなど落水者の救助体制を適切にとることを具体的に指示しなかったことは本件発生の原因となる。
 Kに対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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