(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月15日13時55分
新潟県間瀬漁港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第十一隼丸 |
総トン数 |
76.90トン |
登録長 |
21.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十一隼丸(以下「隼丸」という。)は、新潟県間瀬漁港の浚渫作業に従事する鋼製引船で、A受審人ほか2人が乗り組み、浚渫海砂250立方メートルを積載し、長さ38.0メートル幅16.00メートル深さ3.0メートルの非自航式鋼製台船第17米山(総トン数420トン)(以下「米山」という。)に作業員5人を乗せ、直径85ミリメートル長さ約30メートルの合成繊維索(以下「曳航(えいこう)索」という。)と米山の船首両舷ボラードにそれぞれ係止された直径65ミリメートル長さ約18メートルの合成繊維製索各1本(以下「米山両舷索」という。)をY字形に連結して船尾に曳航し、船首0.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年9月15日12時30分間瀬漁港を発航して同港北西方1.5海里の沖合で同砂を投棄したのち、船首尾とも0.35メートルの喫水となった米山を曳航して、13時40分同沖合を発し、同港に向けて帰途に就いた。
ところで、間瀬漁港での米山曳航については、同港の水深が浅く、隼丸が米山を同港内で曳航することができないことから、同港入口付近において、作業船植木組第5号(総トン数4.9トン)(以下「5号」という。)と曳航を交替し、同港内を5号が曳航していた。
また、隼丸は、船首にハウスがあり、上層が操舵室、下層が船員室となっていて操舵室後方の船員室上部に高さ2メートルの煙突があり、船員室後壁に曳航索離脱装置付きの曳航用フック(以下「曳航用フック」という。)及び船尾甲板上にロープリール(以下「船尾ロープリール」という。)が設置されており、操舵室から後方を見ると煙突により正船尾方向に左右5度の範囲で死角が生じ、曳航索の解纜(かいらん)に際しては操舵室内を左右に移動し、死角を補って同索の解纜状況の確認を十分に行う必要があった。
A受審人は、発航から自ら操舵操船に当たり、船尾甲板上に機関長とヘルメット、ライフジャケット、作業用の長袖の上着、ズボン及び長靴を着用した甲板員Hの2人を配し、13時40分間瀬港防波堤灯台(以下「間瀬灯台」という。)から300度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を116度に定め、5.5ノットの曳航速力で進行した。
13時52分A受審人は、間瀬灯台から311度760メートルの地点に達したとき、機関を微速力前進として速力を減じ、同港西防波堤先端まで250メートルに接近したところで、機関を微速力後進に掛けて前進惰力で続航し、同先端まで200メートルに接近したころ、機関を中立にし、米山の曳航を5号に引き継ぐため、米山の作業員に米山両舷索の解纜を指示した。
一方、機関を中立にしたとき、H甲板員及び機関長は、曳航索も弛んできたことから、曳航索を曳航用フックから船尾ロープリールに付け替え、機関長が船尾ロープリールの発停装置付近に、H甲板員が同リール右舷後方に位置して米山両舷索の解纜状況を見ながら曳航索の巻取り作業の開始を待った。
13時54分半A受審人は、米山両舷索の左舷索がまだ米山の船首左舷ボラードから解纜されていない状況であったが、間瀬港西防波堤に接近したことからあわてて、操舵室右舷側から後方を見て同両舷索の右舷索が解纜されているのを認め、同左舷索も解纜されたものと思い、操舵室左舷側に移動し、死角を補って同左舷索の解纜状況の確認を十分に行うことなく、このことに気付かず、船首を南東方向に向け、機関を半速力前進に掛け、右舵5度をとって発進したところ、13時55分間瀬灯台から319度470メートルの地点において、隼丸は、船首が152度に向き、速力が2.2ノットになったとき、曳航索が緊張してH甲板員の下顎を強打した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、H甲板員が2箇月の加療を要する下顎骨骨折を負った。
(原因)
本件乗組員負傷は、間瀬漁港北西方沖合において、隼丸が5号に米山の曳航を引き継ぐ際、米山両舷索の左舷索解纜状況の確認が不十分で、同索がボラードに係止された状態のまま発進し、曳航索が緊張して隼丸の乗組員の下顎を強打したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、間瀬漁港北西方沖合において、5号に米山の曳航を引き継ぐ場合、米山両舷索の左舷索が米山のボラードに係止されたまま発進し、曳航索を緊張させないよう、操舵室左舷側に移動し、死角を補って同両舷索の左舷索解纜状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同両舷索の右舷索が解纜されているのを認めて同左舷索も解纜されたものと思い、同解纜状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同左舷索を米山のボラードに係止させたまま、隼丸を発進させて曳航索を緊張させ、同索が船尾ロープリール右舷後方付近で曳航索の巻取り作業を待っていたH甲板員の下顎を強打し、同人に全治2箇月の加療を要する下顎骨骨折を負わせるに至った。