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平成14年長審第48号
件名

漁船第十一海星丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫、平田照彦、半間俊士)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第十一海星丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士 
B 職名:第十一海星丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
クランク軸及び軸受メタル等が焼損

原因
クランク室潤滑油の油量確認不十分

主文

 本件機関損傷は、クランク室潤滑油の油量確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月24日05時30分
 長崎県生月島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一海星丸
総トン数 19トン
登録長 17.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット
回転数 毎分1,400

3 事実の経過
 第十一海星丸(以下「海星丸」という。)は、平成9年7月に進水し、中型まき網漁業に網船として従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社製の6N160-EN型機関を備え、周年長崎県生月島北西海域の漁場に出漁し、一航海を最長5日間として月間15ないし20日間ほど操業を行っていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室の潤滑油が主機直結のポンプで吸引加圧され、こし器及び冷却器を経て機関内部と過給機に分かれ、機関内部に導かれた潤滑油は、主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を潤滑するとともにピストン冷却ノズルから噴出してピストンを冷却し、過給機軸受の潤滑油同様クランク室に落下して戻るようになっていた。
 主機クランク室の潤滑油量は、同室左舷側に取り付けられた検油棒の上限線で200リットル、下限線で137リットル、先端で113リットル、また同室のポンプ吸入口までで21リットルあり、運転中冷却器や配管内に35リットルが流通し、各油量に対する同室底面からの高さは、それぞれ250ミリメートル(以下「ミリ」という。)、170ミリ、140ミリ及び23ミリであった。
 主機運転中における潤滑油圧力は、通常5ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)であり、圧力低下時の警報作動値は機関の工場出荷時に1.05キロと設定されていたが、建造以来警報装置が整備されないまま警報用圧力スイッチのスプリングが固着して同値が0.2キロに低下したままとなっていた。
 A受審人は、平成13年1月船長として乗船したとき、本船建造以来B受審人が機関の運転管理を行っていたことから、同人が機関の責任者であるものと思って運航に当たっていた。
 B受審人は、主機について、潤滑油の新替えを主機取扱説明書記載どおり2箇月ごとに実施し、消費量に見合う新油を1箇月当たり40リットル補給していたが、定期的な機関の見回り点検や運転日誌の記録などは行わず、クランク室潤滑油の油量を確認する時期も特に定めないまま運転を続けていた。
 平成13年11月23日13時少し前B受審人は、発航に備えて主機を始動する際、平素から潤滑油の消費量が少ないので始動の都度クランク室の油量を確認しなくても大丈夫と思い、油量の確認を十分に行わなかったので油量が検油棒の下限線を大きく下回っていることに気付かないまま、機関室で主機始動電動機の電源用蓄電池のスイッチを入れて始動準備が整ったことをA受審人に告げ、連絡を受けた同人が操舵室から主機を始動した。
 こうして海星丸は、同日13時00分A及びB両受審人ほか11人が乗り組み、僚船とともに長崎県神崎漁港を発し、主機の回転数を毎分1,200として速力8.5ノットで漁場に向かい、17時00分漁場に至って操業を開始したのち、翌24日05時00分1回目の操業を終了し、その後回転数を毎分1,400として全速力前進の10.0ノットで漁場を移動中、クランク室の油量減少と転舵時の船体傾斜で油面高さが急変した際にポンプが空気を吸い込むなどして潤滑油圧力が著しく低下し、05時30分大碆鼻灯台から真方位315度11.3海里の地点において、各軸受の潤滑及びピストンの冷却が不良となり、クランク軸及び軸受メタルなどが焼損して主機の内部から異音を生じ始めた。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 その結果、海星丸は、主機の運転を断念し、僚船によって生月島の館浦漁港に引き付けられ、のち、焼損したクランク軸、5シリンダ分のクランクピン軸受メタル及びピストン、4番シリンダのシリンダライナ及び曲損した同シリンダの連接棒などを新替え修理した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を始動する際、クランク室潤滑油の油量確認が不十分で、油量が不足したまま始動して操業中、潤滑油の圧力が急低下し、各軸受の潤滑及びピストンの冷却が不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、運転管理の責任者として、主機を始動する場合、潤滑油不足の運転とならないよう、クランク室潤滑油の油量を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油の消費量が少ないので始動ごとに油量を確認しなくても大丈夫と思い、油量の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、油量が不足していることに気付かないまま始動し、操業中、油量が減少して主機直結の潤滑油ポンプが一時的に空気を吸い込むなどして潤滑油圧力が急低下する事態を招き、各軸受の潤滑及びピストンの冷却が著しく不良となり、クランク軸、クランクピン軸受メタル、ピストン、シリンダライナ及び連接棒などに焼損や曲損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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