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平成14年門審第51号
件名

漁船第八拾壱富栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月13日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、長浜義昭、橋本 學)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第八拾壱富栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機摩擦クラッチに叩き傷や亀裂

原因
主機摩擦クラッチライニングの隙間調整不適切

主文

 本件機関損傷は、主機摩擦クラッチライニングの隙間調整が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月29日09時00分
 鹿児島湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八拾壱富栄丸
総トン数 464トン
全長 60.56メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分305

3 事実の経過
 第八拾壱富栄丸は、昭和53年1月に進水した、養殖活魚の運搬に従事する鋼製漁船で、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造した6LU38型ディーゼル機関を装備し、船橋に遠隔操縦装置を装備していた。
 主機は、自己逆転式で、その出力が摩擦クラッチを介して推力軸及びプロペラ軸に伝達されるようになっており、運転時間が月間約300時間であった。
 摩擦クラッチは、推力軸に装着された移動環を油圧ピストンで船首尾方向に移動させることで、移動環につながる4個のリンク棒、リンク、リンク取付け金具などのリンク機構により、4つ割りとなったライニング用枠外周に取り付けられたライニングがフライホイールと圧着、離脱することにより、主機出力の伝達あるいは遮断を行うもので、長期間の使用によってライニングが摩耗して圧着力が減少したときはリンク棒調整ナットを調整して圧着力を適正に保つ必要があるが、その際、4つのライニング用枠の各圧着力が均一となるよう、すなわち、各ライニングとフライホイールとの隙間が均一となるように調整しないと、リンク機構の一部に過大な応力がかかり、本体側リンク取付け金具などが破損するおそれがあった。
 A受審人は、平成9年2月一等機関士として乗船し、同12年6月からは機関長として主機の保守管理に当たっており、同年8月摩擦クラッチの滑りを認めたとき隙間を計測したところ、各隙間に差があったが、各リンク棒の長さを均一にすればよいものと思い、各リンク棒調整ナットを、リンク棒が長くなって隙間が少なくなる方向に一角づつ回しただけで、各隙間を均一に調整しなかった。
 そして、A受審人は、同年10月中間検査時に摩擦クラッチを開放整備したのち、翌13年4月に至って再びクラッチが滑るのを認めたので隙間を調整することとしたが、前回調整後、特に問題が生じなかったことから、今回も同じように調整を行い、各隙間が均一になるよう適切に調整することなく、各リンク棒調整ナットを一角づつ回しただけで調整を終え、各ライニングの隙間が均一であるか否かを確認せずに運航に復した。
 その後、摩擦クラッチは、各ライニング用枠の圧着力が不揃いのままリンク機構の一部に過大な応力がかかる状況で主機の運転が続けられ、1個の本体側リンク取付け金具が過大な応力を受けて金属疲労が進行した。
 こうして、第八拾壱富栄丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、活魚30トンを積載し、平成14年1月28日11時30分宮崎県福島高松漁港を発し、翌29日鹿児島県垂水市牛根境沖合に設置された生け簀(いけす)に至り、09時00分垂水港南防波堤灯台から真方位033度9.2海里の地点において、主機を微速前進の回転数毎分160から全速力後進に掛けたところ、金属疲労が進行していた本体側リンク取付け金具が折損して異常な振動と異音を発した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上にはやや波があった。
 A受審人は、生け簀に係留後摩擦クラッチを点検し、クラッチの滑りを認めて隙間を前回同様の方法で調整したが、前後進の切替えが正常でないので修理が必要と判断し、第八拾壱富栄丸は、揚げ荷終了後同県山川港にある造船鉄工所に向かった。
 造船鉄工所にて精査の結果、摩擦クラッチは、本体側リンク取付け金具破損によって各部に叩き傷や亀裂を生じており、主機メーカーに陸送して損傷部品を新替えするなどの修理が行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機摩擦クラッチライニングの隙間を調整する際、同調整が不適切で、リンク機構の一部に過大な応力がかかり、過大な応力を受けた本体側リンク取付け金具の金属疲労が進行する状況で主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機摩擦クラッチライニングの間隙を調整する場合、4つ割りとなったライニング用枠の各圧着力が不揃いとなると、リンク機構の一部に過大な応力がかかり、本体側リンク取付け金具などが破損するおそれがあったから、各ライニングの隙間が均一になるよう適切に調整すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、各リンク棒の長さを均一にすればよいものと思い、各ライニングの隙間が均一になるよう適切に調整しなかった職務上の過失により、リンク機構の一部に過大な応力がかかり、過大な応力を受けた本体側リンク取付け金具の金属疲労が進行する状況で主機の運転を続け、同金具を折損させ、摩擦クラッチ各部を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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