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平成14年門審第36号
件名

漁船第一妙法丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月4日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、上野延之、島 友二郎)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第一妙法丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
1番シリンダブロックの破損、のち主機換装

原因
主機ピストン抜き整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機ピストン抜き整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月21日22時30分
 対馬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一妙法丸
総トン数 19.91トン
登録長 16.32メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 380キロワット
回転数 毎分2,030

3 事実の経過
 第一妙法丸は、昭和56年5月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、コマツディーゼル株式会社が製造したEM665A-A型ディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を備えていた。
 主機の潤滑油は、クランク室底部の油だまりに約70リットル入れられ、直結駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、各部を潤滑及び冷却して油だまりに戻って循環し、潤滑油主管の圧力が0.5キログラム毎平方センチメートル以下に低下すると警報が作動するようになっており、油だまりの潤滑油量は差し込み式の検油棒で点検するようになっていた。
 ところで、主機は、ピストンリングの摩耗や膠着(こうちゃく)が進行すると、燃焼ガスが吹き抜けるようになり、クランク室に吹き抜けた燃焼ガスは、クランク室に付設されたブリーザーを経てミスト抜き管から機関室外に排出されるが、ミスト抜き管から燃焼ガスが放出されるのを認めたときは、早急にピストン抜き整備をしないとピストンが焼き付くなど、損傷するおそれがあった。
 また、ブリーザーは、バッフル、油滴回収網、こし網などで構成されており、クランク室を大気圧に保持するとともに、油滴回収網によって油滴が直接大気中に出さないようになっていたが、こし網が汚れて詰まるとクランク室内圧が上昇し、各所のオイルシールの働きが阻害されて潤滑油が漏れるおそれがあった。
 A受審人は、平成5年11月第一妙法丸購入後1人で乗り組んで操業に従事し、購入前の主機整備状況が不明のまま、月間約400時間主機を運転し、潤滑油全量を1箇月ごとに取り替えていたところ、同7年11月ごろ、ミスト抜き管開口部周囲が同管から放出されるガスで汚れているのを発見し、燃焼ガスが吹き抜けていることを認めたが、放出される燃焼ガスが少量で、運転中警報が作動することもないのでこのまま運転を続けても大丈夫と思い、ピストン抜き整備をすることなく、汚れ防止対策として、ミスト抜き管開口部を水平に模様替えし、吹き出てくる潤滑油などが拡散しないようにカバーをかけたうえで操業を続けた。
 主機は、少量の燃焼ガスが吹き抜けるまま運転が続けられ、ピストンとシリンダライナの潤滑が阻害されるとともに、ブリーザーのこし網が次第に汚れて詰まるようになった。
 こうして第一妙法丸は、A受審人が1人で乗り組み、平成11年7月21日12時00分山口県下関漁港を発して18時00分対馬東方沖合の漁場に至り、集魚灯を点灯して主機を回転数毎分約1,800で運転中、潤滑が阻害された1、2、3及び4番ピストン、1、2及び5番クランクピン軸受などが焼き付き、1番連接棒がシリンダブロックを突き破り、一方、ブリーザーのこし網が閉塞して主機クランク室内圧が急上昇し、検油棒が抜け出て潤滑油が飛散し、22時30分見島北灯台から真方位302度23.2海里の地点において、主機が停止するとともに潤滑油圧力低下警報が作動した。
 当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、海上にはやや波があった。
 船橋で仮眠中のA受審人は、主機の停止に気付いて機関室に赴き、潤滑油の飛散、1番シリンダブロックの破損などを認めて僚船に救助を求めた。
 損傷の結果、第一妙法丸は、運航不能となり、僚船にえい航されて長崎県鴨居瀬漁港に引き付けられ、のち主機が換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機燃焼ガスの吹き抜けによりクランク室ミスト抜き管開口部周囲が汚れるようになったのを認めた際、ピストン抜き整備が不十分で、燃焼ガスが吹き抜けるまま主機の運転が続けられ、ピストン、クランクピン軸受などの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機燃焼ガスの吹き抜けにより、クランク室ミスト抜き管開口部周囲が汚れるようになったのを認めた場合、燃焼ガスが吹き抜けるまま運転を続けて主機が損傷することのないよう、早急にピストン抜き整備を実施すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、放出される燃焼ガスが少量で、運転中警報が作動することもないのでこのまま運転を続けても大丈夫と思い、主機ピストン抜き整備を実施しなかった職務上の過失により、燃焼ガスが吹き抜けるまま主機の運転を続け、ピストン、シリンダライナ、クランクピン軸受、シリンダブロックなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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