日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年広審第99号
件名

漁船第二十八てんゆう丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、竹内伸二、佐野映一)

理事官
吉川 進

受審人
A 職名:第二十八てんゆう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
6番シリンダライナが部分破損等、のち主機換装

原因
主機燃料噴射弁の整備不十分、連接棒などの開放点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機燃料噴射弁の整備が不十分で、ピストン頂部に漏洩した燃料油を始動時に挟撃したこと、及び同弁整備時にピストン頂部に同油の溜まりが発見された際、連接棒などの開放点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月12日20時00分
 豊後水道 水ノ子島南方沖

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八てんゆう丸
総トン数 19トン
登録長 17.56メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分1,350

3 事実の経過
 第二十八てんゆう丸(以下「てんゆう丸」という。)は、昭和62年7月に進水したFRP製漁船で、主機としてヤンマー株式会社が製造したS160-GN型と称する、セルモーター駆動式のディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側から1番ないし6番の順番号が付され、操舵室に主機の計器盤及び遠隔操縦装置を備え、同室から発停を含む主機のすべての運転操作が行われていた。
 主機は、シリンダ径160ミリメートル(以下「ミリ」という。)ストローク210ミリで、アルミ合金一体鋳造形のピストンに、斜め割りセレーション構造の大端部を連接棒ボルト2本で締め付けた鍛鋼製の連接棒仕組が組み立てられていた。
 また、主機の燃料噴射弁は、シリンダヘッドの4弁式の吸・排気弁に囲まれた中央部に垂直に組み込まれたスリーブの内側に挿入され、同ヘッドを水平方向に貫通してノズルホルダに差し込まれた噴射管継手から高圧燃料油が送られるようになっており、ノズル取付ナットとスリーブとの間には燃焼ガスをシールするための銅製ガスケットが装着されていた。一方、噴射管継手と同ホルダとの接合部からの漏油は、同継手の外側から各シリンダヘッドの連絡管を通して集められ、燃料油サービスタンクに押し上げられるようになっており、同ホルダの中間部と上部との2箇所に漏油止めのOリングがそれぞれ装着されていた。
 A受審人は、T水産有限会社を経営し、平成10年11月にてんゆう丸を中型まき網船団の網船として購入したのち、自らが船長として乗り組んで操業を指揮するほか機関の管理全般にも当たり、主機の発停並びに潤滑油量及び冷却清水量の点検などの運転の実務については甲板員に任せ、大分県松浦漁港を基地とし、夕刻出漁して翌朝帰港する形態で月間23日前後操業を行っていた。そして、主機の運転時間が1箇月当たり300時間ほどで、潤滑油の定期的な取替えや直結冷却海水ポンプなどの修理をメーカー系列の整備業者に依頼していたところ、同者から主機本体の開放整備を勧められるようになったものの、発停等に支障がなかったことから、本船購入後、燃料噴射弁などの主要部を一度も開放整備せずに操業を続けていた。
 てんゆう丸は、主機燃料噴射弁の整備が行われないまま操業を続けるうち、燃焼不良を起こすとともに、各シリンダの燃料噴射圧力にばらつきを生じて始動性も徐々に悪化し、やがて6番シリンダの同弁ノズル取付ナットとスリーブ間のガスケットが吹き抜け、燃焼ガスの混入と相まってノズルホルダのOリングが硬化したため、停泊中に漏油が燃焼室に落ちてピストン頂部に溜まるようになり、同13年8月初め出港前に甲板員が主機を始動したところ、同シリンダにおいてピストン頂部に溜まった漏油を挟撃して、連接棒に微小な曲がりと亀裂を生じた。
 A受審人は、同月8日夕刻、甲板員から2、3日前から主機のかかりが悪くなり、ついには始動不能となったことを告げられ、前示整備業者に点検を依頼した。
 来船した整備業者は、主機全シリンダの燃料噴射弁を抜き出して開放整備を行った際、6番シリンダのガスケット及びOリングが損傷し、同弁挿入口から燃焼室を点検してピストン頂部のくぼみ部に燃料油が溜まっているのを認めたため、クランク室内の目視点検などを行ったものの、外観上では連接棒に問題となる箇所を発見できなかったことから、A受審人に対して、同油の挟撃による連接棒などの異常が考えられるので、出漁を取り止めて同シリンダを開放のうえ詳細に点検する必要があると何度も勧めた。
 ところが、A受審人は、ターニング中にひっかかりや重い角度がなかったことから、整備費用の節減を図ることもあって、いずれ主機のピストン抜き整備をする際に点検すれば大丈夫と思い、速やかに連接棒を開放点検することなく、整備業者の作業を取り止めさせて出漁し、その後も同者に開放点検を依頼しないまま運転を続けた。
 こうして、てんゆう丸は、主機6番シリンダの連接棒に微小な曲がりと亀裂を生じたまま運転が続けられ、繰返し応力の作用によって亀裂が進展する状況の下、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、翌9月12日18時00分船団の僚船とともに松浦漁港を発し、主機を回転数毎分1,300として同県芹埼東方沖合の漁場に向かって航行中、同日20時00分水ノ子島灯台から真方位140度1.8海里の地点において、同連接棒が折損して大端部側が振り回され、シリンダブロックを突き破った。
 当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、異音に気付いて機関室に急ぎ、甲板員に指示して主機を停止させた。
 てんゆう丸は、主機が運転不能となり、僚船に曳航されて松浦漁港に引き付けられ、主機を陸揚げして精査した結果、6番シリンダのピストン及びシリンダライナが部分破損していたほか、クランク軸、台板などの損傷も判明し、のち中古機関と換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の保守管理に当たり、燃料噴射弁の整備が不十分で、燃焼不良のまま運転が続けられ、ガスケットの吹き抜けとOリングの硬化によって停泊中に漏油がピストン頂部に溜まり、始動時に漏油を挟撃したこと、及び同弁の整備時にピストン頂部に漏油の溜まりを認めた整備業者から連接棒などの詳細な点検を勧められた際、開放点検が不十分で、連接棒に微小な曲がりと亀裂を生じたまま運転が続けられ、同亀裂が進展したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の保守管理にあたり、6番シリンダ燃料噴射弁のガスケットが吹き抜けてOリングが硬化し、ピストン頂部に漏油の溜まりを認めた整備業者から同シリンダの詳細な点検を勧められた場合、漏油を挟撃して連接棒などに異常を生じているおそれがあったから、速やかに開放点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、整備費用の節減を図ることもあって、いずれピストン抜き整備を行うときに点検すればよいと思い、速やかに開放点検しなかった職務上の過失により、同シリンダの連接棒に微小な曲がりと亀裂を生じたまま運転を続け、亀裂が進展して連接棒が折損する事態を招き、同シリンダのピストン及びシリンダライナ、並びにシリンダブロック及びクランク軸などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION