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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年神審第85号
件名

押船第8寄悠丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第8寄悠丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
右舷主機のZ型推進装置側の自在継手焼損等

原因
主機中間軸と減速歯車推進装置とを接続している自在継手の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機中間軸と減速歯車推進装置とを接続している自在継手の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月15日21時20分
 兵庫県赤穂御埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第8寄悠丸
総トン数 197.74トン
全長 30.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分720

3 事実の経過
 第8寄悠丸(以下「寄悠丸」という。)は、昭和48年12月に進水した鋼製押船で、主として神戸港を基地として、兵庫県赤穂港外で土砂を積み込んだはしけを神戸空港建設工事現場に押航する業務に従事しており、主機として、株式会社新潟鉄工所製の6L25BX型ディーゼル機関を機関室の左右各舷に各1基(以下、左舷側主機を「左舷主機」、右舷側主機を「右舷主機」という。)装備し、推進装置として、各主機の船尾側に同社製のZP-2型と呼称する減速歯車推進装置(以下「Z型推進装置」という。)をそれぞれ備えていた。
 各主機とZ型推進装置を連結する中間軸は、機関室から甲板部倉庫を貫通して舵機室に至る長さ約7.5メートルの軸で、両端に光洋精工株式会社製の300H型と呼称する長さ約1.1メートルの自在継手が取り付けられていた。
 ところで、自在継手は、主として軸線が一致しない2軸の接続に使用されるもので、1つの自在継手には、船首側と船尾側の2箇所にあるベアリングに各1箇のグリースニップルが、自在継手の長さを調整できるスリップヨーク部に1箇のグリースニップルがそれぞれ取り付けられていた。
 A受審人は、平成12年11月に機関長として乗船し、航海中3ないし4時間の当直に就き、当直中は1時間毎に機関室を見回り、1回は舵機室にも赴いてZ型推進装置の油圧や油量等の点検を行っていたところ、右舷主機中間軸のZ型推進装置側の自在継手船首側ベアリングのグリースニップルの破損を見つけたので、これを業者に取り替えさせた。
 その後、A受審人は、取り替えさせた前示ベアリングのグリースニップルにグリースの入り具合が悪いのを認めたが、グリースニップルを業者に取り替えさせて定期的にグリースアップを行っていたので、このままでも大丈夫と思い、航海中のZ型推進装置の油圧や油量等の点検時、触手するなどして、自在継手の点検を十分に行わなかったので、前示ベアリングがグリース不足で発熱するようになったことに気付かなかった。
 こうして、寄悠丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同13年10月15日15時55分神戸空港建設工事現場を発し、空倉のはしけを赤穂港外の土砂積地に向けて押航しているうち、前示ベアリングがグリース不足で異常に発熱し始め、21時20分少し前赤穂御埼灯台から真方位267度2.9海里の地点に投錨したのち、A受審人が、両舷主機を中立運転としたまま、停泊するに当たって開けていた舵機室の扉を閉めようと赴いたところ、21時20分同室から白煙が出ているのを発見した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、右舷主機中間軸のZ型推進装置側の自在継手が激しく過熱して変色しているのを認めたので、右舷主機の運転は不能と判断して事態を船長に報告した。
 寄悠丸は、左舷主機のみではしけを押航して明石海峡を航行するのは不可能との船長の判断により、来援した引船により大阪港内の修理工場まで曳航され、のち焼損した右舷主機のZ型推進装置側の自在継手だけでなく、熱を帯びていた右舷主機の主機側自在継手のベアリング等も新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、航海中に舵機室のZ型推進装置の点検を行う際、主機中間軸とZ型推進装置とを接続している自在継手の点検が不十分で、自在継手のベアリングがグリース不足で発熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、航海中に舵機室のZ型推進装置の点検を行う場合、主機中間軸とZ型推進装置とを接続している自在継手にグリースの入り具合が悪かったのであるから、自在継手が発熱していないかどうか、触手するなどして自在継手の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、グリースニップルを業者に取り替えさせて定期的にグリースアップを行っていたので、このままでも大丈夫と思い、触手するなどして自在継手の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、グリース不足で自在継手のベアリングを焼損させるに至った。





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