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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第40号
件名

漁船第五十八安栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年11月21日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫、半間俊士、道前洋志)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第五十八安栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
全シリンダの両軸受メタル及びクランク軸等が焼損

原因
主機油受潤滑油の油量確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機油受潤滑油の油量確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月22日07時30分
 長崎県生月島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八安栄丸
総トン数 19トン
登録長 17.4メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 第五十八安栄丸(以下「安栄丸」という。)は、平成2年に進水し、中型まき網漁の網船として従事するFRP製漁船で、周年長崎県生月島西方沖合の漁場において一航海を2ないし3日間として月に15日間ほど操業し、主機として、株式会社新潟鉄工所(以下「新潟鉄工所」という。)製の6NSD-M型機関を備え、発航後は1日18ないし19時間の運転を繰り返していたところ、平成13年11月21日12時00分A受審人ほか11人が乗り組み、船首尾とも1.5メートルの等喫水をもって同県臼浦港を発したのち漁場に向かった。
 主機の潤滑油系統は、油受の潤滑油が油受のこし網筒を通して機関直結ポンプで吸引加圧され、冷却器及びこし器を順次経て機関内部と過給機に至り、各軸受などを潤滑したのち再び油受に戻るもので、油受には油量の上限及び下限を示す線を刻んだ直径6ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ440ミリの検油棒があり、また運転中の潤滑油圧力低下の警報作動値は機関入口圧力で2.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)と設定されていた。
 油受の油量は、検油棒の上限線で125リットル同下限線で92リットル同先端で77リットルこし網筒外径の最上位で45リットルであったところ、機関の取扱説明書において、始動前には必ず上限線より少し多めとなっていなければならない旨記載されており、始動の度に油量の確認を行うことが必要であった。
 ところでA受審人は、平成6年から船長として乗り組み、自身が機関の運転や整備に携わり、主機の潤滑油については新替え及びこし器の開放掃除を2箇月ごとに行い、また始動前の油受油量については3日に一度の割合で確認し、このとき油量が検油棒の下限線近くまで減少しておれば上下限線の中間まで補給していたが、前示の発航に備えて主機を始動するにあたり、その3日前に下限線の少し上まであったので大丈夫と思い、油受油量の確認を十分に行わず、同油量が下限線以下まで減少していることに気付かなかった。
 安栄丸は、発航後主機の回転数を毎分1,250として速力8.0ノットで航行し、同日15時00分漁場に至ったのち操業を開始したが、発航時から油受の油量が不足していたこと、1箇月約40リットルであった運転中の潤滑油消費による油量の減少及び船体傾斜などによって油面がこし網筒近くにまで下降し始め、翌22日07時15分漁場で回転数を毎分1,100として揚網中、A受審人が甲板上の揚網機を操作するために操舵室を離れて同室が無人となった直後、主機が潤滑油ポンプに空気を吸い込んで潤滑油系統の圧力が急低下し、圧力低下警報が作動したもののそのまま運転が続けられ、07時30分対馬瀬鼻灯台から真方位033度9.9海里の地点において、操舵室に戻った同人が警報の作動を知るとともに潤滑油の圧力がほとんどゼロになっていること及び機関室からの異音発生を認めた。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、直ちに主機を停止し、油受油量が著しく減少していたので運航の継続を断念した。
 安栄丸は、僚船によって発航地に引き付けられ、調査の結果、主軸受及びクランクピン軸受の潤滑が不良となって全シリンダの両軸受メタル及びクランク軸などが焼損したことが判明し、のち、損傷部品を新替え修理した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を始動する際、油受潤滑油の油量確認が不十分で、油量が不足したまま始動して操業中、油量の減少によって潤滑油の圧力が急低下し、主軸受及びクランクピン軸受の潤滑が不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機を始動する場合、運転中、油受潤滑油の油量が著しく減少することのないよう、機関取扱説明書の記載に従った油量の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、数日前に油量を確認して検油棒の下限線の少し上まで潤滑油があったので大丈夫と思い、油受潤滑油の油量を十分に確認しなかった職務上の過失により、油量が著しく減少していることに気付かないまま機関を始動し、操業中、油量の減少が進行して直結の潤滑油ポンプが空気を吸引し始め、潤滑油圧力が急速に低下する事態を招き、圧力低下警報設定値以下となって警報装置が作動したものの、操舵室を無人としていたので警報が作動したまま運転を続け、全シリンダの主軸受及びクランクピン軸受が潤滑不良となって両軸受の各メタル及びクランク軸を焼損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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