(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月25日18時40分
五島列島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十二金比羅丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.18メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット(計画出力) |
回転数 |
毎分1,900 |
3 事実の経過
第十二金比羅丸は、平成元年4月に進水した、長崎県勝本港及び石川県金沢港を基地とし、日本海西部及び東シナ海でいか1本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、昭和精機工業株式会社製造の6LX-ET型ディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、平成4年7月に換装されたもので、各シリンダに船首側から順番号が付されており、月間約400時間運転されていたところ、同12年2月ピストン抜き整備が実施されて全シリンダライナ及びピストンリングが新替えされ、その後潤滑油は1箇月ごとに新替えされていた。
A受審人は、機関部の責任者も兼ねており、平成12年9月東シナ海において操業中、主機クラッチからの潤滑油漏洩を認め、同月24日勝本港に帰港して係留中に漏洩箇所を調査する目的で主機を運転することとし、その際回転数を上げなければ漏洩箇所がわからないと思い、低速回転で十分に暖機運転することなく、始動直後に回転制御ハンドルを上限まで上げた。
主機は、ピストンが急膨張し、5番シリンダではシリンダライナと接触してピストン及びシリンダライナに擦過傷を生じた。
A受審人は、潤滑油漏洩箇所点検の結果、クラッチカバーの潤滑油管取り付け部からであることを確認して直ちに修理しなくても差し支えないと判断し、ピストン及びシリンダライナの擦過傷には思い及ばず、そのまま主機を停止して翌日の出漁に備えた。
こうして第十二金比羅丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、翌25日14時00分勝本港を発し、18時00分五島列島北西方沖合の漁場に至って主機を回転数毎分約1,860で運転して操業中、前示擦過傷部の潤滑阻害により、同擦過傷が拡大して摩擦抵抗が急増し、全主軸受及びクランクピン軸受に過大な負荷がかかり、各軸受の潤滑が阻害されて焼き付き、18時40分五島白瀬灯台から真方位318度25.8海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上にはやや波があった。
船橋で漁模様を監視中のA受審人は、主機回転数を中立回転数の毎分約650に下げたのち停止して主機周囲を点検し、再始動したが同様の異音を発するので継続運転不能と判断し、僚船に救助を依頼した。
損傷の結果、第十二金比羅丸は、航行不能となり、僚船にえい航されて帰港し、のち主機が換装された。
(原因)
本件機関損傷は、主機を始動して回転数を上げる際、暖機運転が不十分で、ピストンが急膨張してピストンとシリンダライナに擦過傷を生じ、ピストン、シリンダライナ、主軸受及びクランクピン軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動して回転数を上げる場合、ピストンが急膨張してピストンとシリンダライナに擦過傷を生じることのないよう、低速回転で十分に暖機運転すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、始動直後に回転制御ハンドルを上限まで上げ、十分に暖機運転しなかった職務上の過失により、ピストンとシリンダライナに擦過傷を生じさせ、クランク軸、ピストン、シリンダライナ、主軸受、クランクピン軸受などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。