(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月28日18時03分
対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八漁勝丸 |
総トン数 |
14トン |
登録長 |
18.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
394キロワット |
回転数 |
毎分2,030 |
3 事実の経過
第八漁勝丸は、平成2年12月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、コマツディーゼル株式会社が製造した6M140A-1型ディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を備えていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だまりに入れられた約80リットルの潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の各機器については「潤滑油」を省略する。)で吸引・加圧され、冷却器、こし器を通り、圧力調整弁で2ないし5キログラム毎平方センチメートル(以下、「キロ」という。)となって主管に至り、主軸受、カム軸受、ピストンなどを潤滑及び冷却後油だまりに戻る循環経路で、主管の圧力が0.5キロ以下に低下すると警報が作動するようになっていた。
A受審人は、第八漁勝丸就航時から船長として乗り組み、機関の管理者も兼ねていたもので、長崎県千尋藻漁港を15時30分ごろ出港して翌朝07時ごろ帰港する形態で平均月20日操業に従事し、月間約300時間の主機運転状況のもとで、潤滑油を2箇月ごとに取り替えており、毎停止時に潤滑油圧力低下警報が作動することを確認していたが、就航以来何等の主機整備も実施していなかった。
主機は、就航当初は燃焼が良好で、排気は無色であったが、ピストン抜き整備が実施されずに運転が続けられるうち、燃料弁、排気弁、ピストンリングなどの摩耗が進み、次第に排気が黒ずみ、その後燃焼ガスのブローバイによってクランク室ミスト抜き管から白煙が出るようになった。
A受審人は、平成12年4月末潤滑油を取り替えたころから排気が黒ずんできたことに気付き、さらに、翌5月20日ごろ、クランク室ミスト抜き管から白煙が出るのを初めて認めたが、主機の損傷につながるものとは思わず、主機ピストン抜き整備を実施することなく、操業を続けた。
主機は、燃焼ガスがブローバイするまま運転が続けられるうち、ピストンリングとシリンダライナとの潤滑が阻害されてピストンリング及びシリンダライナに擦過傷を生じた。
こうして、第八漁勝丸は、A受審人が1人で乗り組み、平成12年5月28日15時30分千尋藻漁港を発して18時00分対馬東方沖合の漁場に至り、操業準備のため主機をクラッチ中立として回転数毎分約650で運転中、ピストンリングとシリンダライナとの摩擦抵抗が急増したことから、全主軸受及びクランクピン軸受に過大な負荷がかかり、各軸受の潤滑が阻害されて損傷し、18時03分沖ノ島灯台から真方位313度17.1海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
船首甲板で作業中のA受審人は、異音に気付いて主機を停止し、損傷の程度が不明であったことから僚船に救助を依頼した。
損傷の結果、第八漁勝丸は、運航不能となり、僚船にえい航されて帰港し、全主軸受及びクランクピン軸受の損傷、5番クランクピンのクランク軸への焼き付き、2番及び5番クランクピン軸受メタル連れ回りなど、損傷が広範囲にわたっていたことから、主機が換装された。
(原因)
本件機関損傷は、ピストンリングの摩耗による燃焼ガスのブローバイにより、クランク室ミスト抜き管から白煙が出るのを認めた際、ピストン抜き整備が不十分で、燃焼ガスがブローバイするまま主機の運転が続けられ、ピストン、シリンダライナ、クランクピン軸受及び主軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、ピストンリングの摩耗による燃焼ガスのブローバイにより、クランク室ミスト抜き管から白煙が出るのを認めた場合、直ちにピストン抜き整備を実施すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、主機の損傷につながるものとは思わず、主機ピストン抜き整備を実施しなかった職務上の過失により、燃焼ガスがブローバイするまま主機の運転を続け、ピストン、シリンダライナ、クランク軸、クランクピン軸受、主軸受などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。