(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月23日13時05分
宮崎県南浦港外
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船にっぽう3 |
総トン数 |
196トン |
全長 |
44.90メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
回転数 |
毎分900 |
3 事実の経過
にっぽう3は、平成8年10月に進水した鋼製旅客船兼自動車渡船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したM200-SN型ディーゼル機関を装備し、同機はその出力が日本ブルカン株式会社製RATO1911-BR2300型弾性継手を介して逆転減速機に伝達されていた。
弾性継手は、天然ゴムのエレメントを主体としており、時間の経過による自然劣化、油の付着による強度の低下、機関発停時の衝撃的なトルク変動の吸収による発熱など、環境や主機の使用状況によってゴムエレメントが劣化し、使用限度となる期間が影響されるので、破断による事故を防止するため、また、ゴムエレメントの取替えは相当の事前準備が必要であったから、取扱説明書に記載されている、日常の油付着の有無点検、3箇月ごとの亀裂や傷の有無、隣り合うエレメント同士の接触の有無及びゴムエレメントと金属部との剥離の有無の点検、稼動2,000時間または6箇月ごとの永久変形量の点検、2ないし4年ごとの分解点検を実施して劣化の進行状況の把握を要するものであった。
ところで、にっぽう3は、宮崎県延岡市浦城町と同市島浦島との間を所要時間約20分で1日8往復しており、毎日の主機の発停回数や逆転回数が多く、そのたびに弾性継手に繰り返し衝撃的な負荷がかかってゴムの劣化が早期に始まる状況で運航されていた。
A受審人は、就航時から機関長として乗船していたが、弾性継手の取扱説明書を読んでおらず、弾性継手にはカバーがかけられているので点検する必要がないものと思い、一度も弾性継手を点検することなく、平成12年10月定期検査で入渠した際も弾性継手を分解せず、亀裂の発生や永久変形量の増加など劣化の進行に気付かずにゴムエレメントを取り替えず、定期検査後も点検を実施しなかった。
こうして、にっぽう3は、ゴムエレメントの劣化が進行した状況で、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客5人及び車両1台を積載し、平成13年8月23日13時00分浦城町の専用岸壁を発して島浦島に向け、港外に出て主機回転数を毎分750として進行中、13時05分南浦港浦城防波堤灯台から真方位050度800メートルの地点において、弾性継手のゴムエレメントが破断して異常な振動を生じるとともに、クラッチ軸受、クラッチ摩擦板などが損傷した。
当時、天候は晴で風はなく、海上は平穏であった。
船橋にいたA受審人は、クラッチを切ったのち、機関室監視モニターで機関室に白煙が充満するのを認めて主機を非常停止し、機関室を点検したがその原因がわからず、自力航行不能と判断して救助を求めた。
損傷の結果、にっぽう3は、えい航されて浦城町に引き付けられ、のち、弾性継手ゴムエレメント及びクラッチ軸受、クラッチ摩擦板などの新替え修理が行われた。
(原因)
本件機関損傷は、主機弾性継手の取扱いにあたり、ゴムエレメントの点検が不十分で、劣化が進行していたゴムエレメントが取り替えられずに主機の運転が続けられ、ゴムエレメントの亀裂が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機弾性継手の取扱いにあたる場合、毎日の主機の発停回数や逆転回数が多く、そのたびに弾性継手に繰り返し衝撃的な負荷がかかるので弾性継手のゴムエレメントの劣化が早期に始まるおそれがあったから、劣化の進行状況を把握できるよう定期的に弾性継手を点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、弾性継手は点検する必要がないものと思い、ゴムエレメントを点検しなかった職務上の過失により、ゴムエレメントの劣化に気付かず、ゴムエレメントを取り替えないまま主機の運転を続けてゴムエレメントを破断させ、クラッチ軸受、クラッチ摩擦板などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。