(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月6日20時30分
宮城県金華山東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八清丸 |
総トン数 |
115トン |
全長 |
37.57メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
回転数 |
毎分610 |
3 事実の経過
第十八清
丸(以下「清
丸」という。)は、平成2年12月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社製造のT260-ET2型と称するディーゼル機関を装備し、クラッチを内蔵した逆転減速機を介してプロペラ軸を駆動し、操舵室から遠隔操縦装置により主機及び同減速機の運転操作が行えるようになっていた。
主機は、T260A-GN型と称する連続最大出力1,323キロワット同回転数毎分770の原機に負荷制限装置を付設して登録されたもので、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、6番シリンダ船尾側の架構上に石川島汎用機械株式会社製造のVTR251-2型排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備し、A重油が燃料油に使用されていた。
主機のシリンダヘッドは、きのこ弁型の吸気及び排気各弁をそれぞれ2個備えた4弁式で、各弁を同ヘッドに装着された弁座及び弁案内を通して触火面側から挿入し、弁ばね、バルブローテータ及びコッタなどを同ヘッド上面から取り付けるようになっていた。
主機の排気弁の寸法及び材質は、全長385ミリメートル(以下「ミリ」という。)弁棒部外径19ミリ弁傘部外径92ミリの耐熱鋼製で、弁棒部にクロムめっきが、また、弁フェース部にステライトの溶着がそれぞれ施されていた。
ところで、主機メーカーは、主機を安全に運転する上において、温度や圧力など各運転諸元についての運転制限値を定めており、主機排気ガス温度の運転制限値について、シリンダ出口において摂氏400度(以下、温度については「摂氏」を省略する。)以下、過給機入口において650度以下とそれぞれ定めていた。
清
丸は、年間を通して九州から北海道にかけての太平洋沿岸を漁場として操業を繰り返し、主機の年間運転時間が約5,000時間に達していた。そして、定期及び中間各検査時に合わせて2年ごとに上架し、船体及び機関の整備を実施していた。
A受審人は、平成5年9月に一等機関士として乗り組み、同10年12月清
丸が第3回定期検査受検のため入渠中、機関長に昇格して主機の運転及び保守管理に当たるようになった。
清
丸は、第3回定期検査において、主機の負荷制限装置が、燃料噴射ポンプのラック目盛の上限が19.5ミリとなるように設定されて封印が行われ、主機回転数の上限が毎分630に制限された。
ところが、A受審人は、これまで魚群追尾中など、船速を上げる必要が生じたときに備え、主機の負荷制限装置の封印が外され、同装置の設定が変更されて全速力前進時の主機回転数が毎分730として運転されていたことから、第3回定期検査直後に同装置の封印を外し、これまでと同様に主機回転数が毎分730を上限として運転できるようにラック目盛の設定を変更した。
一方、A受審人は、これまでの主機の運転状況から、主機排気ガス温度が各シリンダ出口において400度付近で運転されていたので、同温度の上限の目安を400度とし、これを超えない範囲で運転することとしていたが、魚群追尾中など、船速を上げる必要が生じたときに主機回転数を毎分730まで増速すると、主機シリンダ出口における排気ガス温度が400度を超えたものの、運転に支障がなかったことから、同温度が400度を超えて運転しても主機が損傷することはないものと思い、修理業者に同温度の運転制限値を確認し、同制限値を遵守して運転に当たり、これを超えるようであれば、主機回転数を下げるなど、主機排気ガスの温度管理を十分に行うことなく、同ガスの温度が同制限値を超えたまま主機を運転していた。
清
丸は、主機が排気ガス温度の運転制限値を超えて繰り返し運転されるうち、主機排気弁が高温の排気ガスに曝され(さらされ)、弁傘部に熱疲労が生じ、いつしか1番シリンダ右舷側排気弁の弁フェース部に微細な亀裂が発生し始めた。
こうして、清
丸は、A受審人ほか邦人18人及びインドネシア人2人が乗り組み、操業の目的で、平成12年7月5日11時00分宮城県気仙沼港を発し、翌6日05時00分同県金華山東方沖合の漁場に至って操業を開始した。19時00分操業を終えて帰途に就き、主機回転数を毎分670にかけて航行中、主機1番シリンダ右舷側排気弁の弁フェース部の前示亀裂が進展し、20時30分北緯38度01分東経146度46分の地点において、同弁が欠損し、破片が排気マニホルドを経て過給機に飛び込み、主機が異音を発した。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室を巡視中、異音に気付いて主機を停止し、1番シリンダのシリンダヘッドカバーを取り外して点検したところ、吸気及び排気各弁のいずれも右舷側の弁が固着しているのを認め、すぐに運転を再開することは困難と判断し、その旨を船長に報告した。
清
丸は、修理業者と連絡を取り合い、主機1番シリンダについて、燃料油の供給を遮断して減筒運転のための措置を施し、低速力で航行を続けて気仙沼港に戻り、主機を精査した結果、主機1番シリンダ右舷側排気弁がほぼ4分の1周にわたって欠損し、同シリンダの他の排気及び吸気各弁に曲損を、さらに、過給機のロータ軸及びノズルリングなどに欠損や擦過傷をそれぞれ生じていることが判明し、のち損傷部品の取替えが行われた。
(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理に当たる際、主機排気ガスの温度管理が不十分で、同温度が運転制限値を超えた高い状態で繰り返し運転が続けられ、主機排気弁に熱疲労が生じたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、主機排気ガスの温度が高い状態で繰り返し運転を続けると、同ガスに曝される排気弁が熱疲労によって亀裂を生じるおそれがあるから、同温度の運転制限値を遵守して運転に当たることができるよう、修理業者に同制限値を確認し、同制限値を超えるようであれば、主機回転数を下げるなど、主機排気ガスの温度管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機排気ガス温度の上限を、自らの経験からその目安をシリンダ出口で400度としていたものの、これを超えて運転しても支障がなかったことから、同温度が400度を超えて運転しても主機が損傷することはないものと思い、主機排気ガスの温度管理を十分に行わなかった職務上の過失により、同温度が運転制限値を超えて繰り返し主機が運転され、主機1番シリンダ右舷側排気弁の弁フェース部に熱疲労から微細な亀裂を生じさせる事態を招き、同弁を欠損させ、同シリンダの他の排気及び吸気各弁に曲損を、さらに、過給機のロータ軸及びノズルリングなどに欠損や擦過傷などの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。