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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年函審第36号
件名

漁船第五十一大宝丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年11月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第五十一大宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ピストン、シリンダライナ及びシリンダヘッド等の損傷

原因
主機の運転監視及び冷却清水温度上昇警報装置の点検措置不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、流氷塊が散在する海域を帰航中、主機の運転監視及び冷却清水温度上昇警報装置の点検措置がいずれも不十分で、冷却清水温度が著しく上昇したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月17日11時30分
 北海道知床半島東岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一大宝丸
総トン数 19トン
登録長 17.70メートル
機関の種類 過給機付2サイクル12シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 533キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 第五十一大宝丸(以下「大宝丸」という。)は、昭和63年8月に進水した、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてアメリカ合衆国ゼネラルモーターズ社が製造したGM12V-71TA型と呼称するディーゼル機関を備え、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び計器盤を装備し、左右両側の各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 主機は、間接冷却方式で、機関室船底の左舷側及び右舷側船体付弁(以下「船体付弁」という。)から両弁の海水こし器を介して直結式冷却海水ポンプに吸引された冷却海水が、燃料冷却器、清水冷却器を順次冷却し、海面上の右舷側排出口を経て船外に至っていた。一方、冷却清水は、直結式冷却清水ポンプの吸引管と清水冷却器を内蔵している清水膨張タンクとの間を連絡する配管があり、同ポンプに吸引されて潤滑油冷却器、シリンダブロック、排気マニホルドやシリンダヘッド等を冷却した後、出口集合管を経て温度調整弁及び清水冷却器に導かれ、清水膨張タンクに還流しており、同冷却器入口における温度が温度調整弁により摂氏約76度(以下、温度は摂氏とする。)に保たれていた。また、操舵室の計器盤には、冷却清水温度計や潤滑油圧力計のほか冷却清水温度上昇警報装置及び潤滑油圧力低下警報装置等が組み込まれていたものの、海水圧力計がなかった。
 大宝丸は、北海道羅臼港を根拠地とし、例年7月初めから12月末、翌年1月上旬から3月末までの刺網漁業の漁期に知床半島東岸沖合等の漁場で日帰りの操業を行い、4月から6月にかけ休漁していた。
 A受審人は、大宝丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたり、冬期の操業において、知床半島東岸沖合の海域には結氷や流氷帯等の氷が浮遊していることから、主機の冷却海水系統の氷による詰まりを防ぐため、船体付弁を共通としたうえ海水こし器のこし筒を取り外して航行し、流氷塊に接触するなどで氷が同弁に付着するのを察知した際には、主機を停止して機側の状況を確かめたのち始動し、続航するようにしていた。
 ところで、主機の冷却清水温度上昇警報装置は、冷却清水温度の検出器が出口集合管に取り付けられていて、設定値の95度を検出すると操舵室の警報ブザーが鳴るものであったが、長期間運転されているうち95度で作動しない状況になった。
 しかし、A受審人は、操業の合間に業者に依頼するなど、主機の冷却清水温度上昇警報装置の点検措置をとらなかったので、その状況に気付かなかった。
 大宝丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同13年3月17日06時00分羅臼港を発し、同港東北東方7海里の漁場に至り、前日投網していた刺網を揚網し、すけとうだら0.6トンを獲た後、積んできた刺網の投網を終えたところ、流氷帯が移動し始め、10時45分主機を回転数毎分2,100にかけて僚船とともに帰港の途に就き、流氷塊が散在する海域を航行中、浮遊氷が船体付弁に付着して主機の冷却海水量が不足する状況になった。
 ところが、A受審人は、流氷塊が散在する海域を帰航する際、船体付弁を共通としたうえ海水こし器のこし筒を取り外しているから大丈夫と思い、流氷塊の回避に気をとられ、冷却海水の船外排出状態や冷却清水温度計を見るなど、主機の運転状態を十分に監視しなかったので、冷却海水量が不足していることに気付かなかった。
 こうして、大宝丸は、主機の運転が続けられているうち冷却清水温度が著しく上昇し、11時30分羅臼灯台から真方位094度1.3海里の地点において、作動の遅れていた冷却清水温度上昇警報装置の警報ブザーが鳴り、全シリンダのピストンとシリンダライナが過熱して焼き付き、回転が低下した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で警報ブザー音に気付いて主機を停止し、機関室に赴いたところ、主機の清水膨張タンクから漏れている水蒸気を認め、各部の温度が下がった後、始動が可能となり、低速にかけて羅臼港に帰港した。
 大宝丸は、業者により主機が精査された結果、前示焼付きのほか左側1、2番シリンダ及び右側2、3番シリンダのシリンダヘッド等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、北海道知床半島東岸沖合の流氷塊が散在する海域を帰航中、主機の運転監視が不十分で、冷却海水量が不足したこと及び冷却清水温度上昇警報装置の点検措置が不十分で、冷却海水量が不足した際に同警報装置の作動が遅れ、冷却清水温度が著しく上昇したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操船のほか主機の運転保守にあたり、知床半島東岸沖合の流氷塊が散在する海域を帰航する場合、浮遊氷が船体付弁に付着するから、冷却海水量が不足しないよう、冷却海水の船外排出状態や冷却清水温度計を見るなど、主機の運転状態を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、船体付弁を共通としたうえ海水こし器のこし筒を取り外しているから大丈夫と思い、流氷塊の回避に気をとられ、主機の運転状態を十分に監視しなかった職務上の過失により、浮遊氷が同弁に付着して冷却海水量が不足するままに運転を続け、冷却清水温度が著しく上昇する事態を招き、ピストン、シリンダライナ及びシリンダヘッド等を損傷させるに至った。





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