(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月15日21時00分
五島列島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三悠久丸 |
総トン数 |
135トン |
全長 |
45.60メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット |
回転数 |
毎分585 |
3 事実の経過
第三悠久丸(以下「悠久丸」という。)は、昭和62年に進水し、大中型まき網漁業に網船として従事する鋼製漁船で、一回の航海を24ないし25日間として、壱岐、対馬及び五島列島周辺海域の漁場で操業し、主機として阪神内燃機工業株式会社製の6MUH28A型機関を、主機過給機として石川島汎用機械株式会社製のVTR251型水冷軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)をそれぞれ備えていた。
過給機は、タービン側及びブロワ側それぞれに約1.5リットルの潤滑油だめがあり、潤滑油がロータ軸上にあるポンプ円板により、タービン側は単列の、ブロワ側は複列の各玉軸受に注油され、軸受蓋に給排油口及びガラス製の油面計が取り付けられていた。
悠久丸は、主機を1日15時間月にして約375時間運転しており、過給機取扱説明書によると潤滑油については運転500時間毎に新替えすることが、500時間を超えて使用し続けた場合でも運転1,000時間以内で必ず新替えすることが記載されていたことから、同油は通常1箇月半ないし2箇月毎に新替えすることが、遅くとも3箇月以内には必ず新替えする必要があった。
A受審人は、平成10年4月機関長として乗船以来、機関の運転及び整備などの管理に携わり、過給機の潤滑油について、乗船当初は2ないし3箇月ごとに定期的な新替えを行っていたものの、色相に黒変などの目立った悪化が見られないことから、平成12年1月定期検査の入渠工事で過給機を開放して玉軸受及び潤滑油を新替えしたのちは、同油の新替え間隔を色相に変化が現れる4箇月に延長して主機の運転を続け、その後同油の性状劣化と玉軸受の摩耗が徐々に進行した。
こうして悠久丸は、平成13年11月4日08時00分A受審人ほか19人が乗り組み、僚船とともに佐賀県名護屋漁港を発して五島列島南西方沖合の漁場に向かい、同日夕刻漁場に至ったのち操業を繰り返していたところ、同月15日18時00分主機を始動して操業を再開し、主機の回転数を毎分650可変ピッチプロペラの翼角17.5度の全速力で魚群を探索中、新替え時期を越えた潤滑油の性状劣化によって過給機タービン側玉軸受の摩耗が著しく進行し、21時00分女島灯台から真方位255度17.0海里の地点において、過給機内部から異音を発した。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹いていた。
機関当直中であったA受審人は、休息していた食堂で機関室からの異音を聞きつけ、直ちに同室に急行して主機を手動停止したのち、過給機のタービン側油面計が真黒に変色し、潤滑油もブロワ側には残っているもののタービン側はほとんどなくなっていることを認め、主機の運転継続を断念した。
その結果、悠久丸は、僚船によって長崎港に引き付けられ、過給機タービン側玉軸受の著しい焼損、ロータ軸の移動によるタービン及びブロワ両翼のケーシングとの激しい接触などが認められ、同港の修理工場で過給機を中古品に換装した。
(原因)
本件機関損傷は、機関の整備及び運転にあたる際、主機過給機の潤滑油の新替え間隔が不適切で、長期間の使用によって同油の性状が劣化し、過給機玉軸受の潤滑が著しく不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の整備及び運転にあたる場合、主機過給機の潤滑油について、同油の性状が劣化したまま運転することのないよう、適切な間隔で新替えすべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油の色が黒変しないので大丈夫と思い、適切な間隔で新替えしなかった職務上の過失により、同油の性状が劣化したまま運転を続け、過給機玉軸受の潤滑が著しく不良となる事態を招き、操業中、タービン側玉軸受の摩耗が進行して同軸受が激しく焼損し、過給機の運転が不能となって主機の運転継続を断念するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。