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平成14年那審第32号
件名

漁船第八開成丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第八開成丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
カム軸、カムローラ、軸受メタルなど損傷

原因
主機カム軸の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機カム軸の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月13日13時00分
 沖縄県粟国島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八開成丸
総トン数 69.66トン
登録長 26.52メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット
回転数 毎分350

3 事実の経過
 第八開成丸(以下「開成丸」という。)は、昭和52年11月に進水した、かつお及びまぐろ一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社松井鉄工所が製造したMS245GS型と称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機は、定格出力735キロワット及び同回転数毎分420(以下、回転数は毎分のものとする。)の機関を燃料制限し、計画出力294キロワット及び同回転数350としたものであったが、いつしか燃料制限装置が取り外されて全速力時の回転数を385までとして運転され、月間の運転時間が約480時間であった。
 また、主機は、船首側に調時歯車装置を設け、クランク軸の回転をクランク軸歯車、中間歯車及びカム軸歯車を介してカム軸に伝達し、同軸に取り付けられた燃料カム、排気及び吸気カムをそれぞれ回転させ、駆動部である燃料噴射ポンプのローラ及びプッシュロッドを突き上げ、燃料油を260キログラム毎平方センチメートルの噴射圧力に圧縮すること並びに排気及び吸気弁をそれぞれ駆動するようになっていた。
 カム軸は、機械構造用炭素鋼鋼材(JIS記号S45C)を加工し、全長2,607ミリメートル(以下「ミリ」という。)、カム取付け部径61ミリ及び軸受部径60ミリの一体軸で、各カムを取り付ける長さ270ミリ、幅15ミリ、深さ5ミリのキー溝が各シリンダごとに設けられ、表面硬度がショア硬さ34ないし38となるように処理されていた。
 また、各シリンダごとに船首側から排気、燃料及び吸気の順で各カムがキーを介し、排気及び吸気の各カムは焼ばめ方式で、燃料カムはセレーション部を合わしてカムナットで締付ける組立方式でそれぞれ同軸に取り付けられ、7個の滑り軸受で支持されるようになっていた。
 開成丸は、平成5年9月第5回定期検査ののち、同7年9月第1種中間検査及び同9年9月第6回定期検査においてカム軸の軸受メタルの点検を行わないまま、受検を行うときには外観検査で受検し、同12年1月第1種中間検査では燃料カムのカムナットの増締めのみを行っていたことから、長期間の運転で同メタルの摩耗が進行していることに気付かないまま操業を繰り返し、軸受隙間が増加したことから、同軸に繰返し曲げ応力が作用するようになり、材料の疲労が進行して同軸が折損するおそれのある状況となっていた。
 A受審人は、平成5年4月から開成丸に機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理にあたり、機関部乗組員2人を指揮して3ないし4時間ごとに輪番での機関当直、ビルジ量の点検、潤滑油こし器の掃除、潤滑油の新替え、クランク室内の点検などを行い、操業にも従事していたが、整備業者に依頼するなどして軸受メタルなど、カム軸の点検を十分に行うことなく、主機の運転を続けていた。
 こうして、開成丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、同12年2月10日06時30分宮崎県外浦港を発し、操業の目的で沖縄県粟国島北方沖合の漁場に向い、同月12日06時00分北緯27度24分東経127度18分の地点に至って操業を開始し、翌13日も早朝から操業を行い、昼食後11時00分北緯27度14分東経127度06分の地点において漁場移動の目的で、停止回転としていた主機のクラッチを前進としたところ、排気音の異状と煙突から黒煙の発生が認められた。
 前部甲板上で竿の準備をしていたA受審人は、直ちに機関室へ赴き、主機を停止したうえ原因の究明にあたり、12時00分4番シリンダ燃料カムの位置ずれに気付き、同カムの調整を行った。
 一方、カム軸は、いつしか前示繰返し曲げ応力による材料の疲労で微少な亀裂が生じ、同亀裂が進行していたところ、燃料カムの位置がずれるほどの過大な荷重が作用したことから、1番シリンダ燃料カムの船尾側端面部位に生じていた同軸の亀裂がさらに進行し、主機を始動して負荷をかけると同部位において同軸が折損するおそれのある状況となった。
 開成丸は、主機を再始動し、排気音と排気色とに異状がなくなったことを確認したのち、クラッチを前進としたところ、前示部位でカム軸がキーとともに折損し、13時00分粟国島灯台から真方位002度31.4海里の地点において、主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上にはやや波があった。
 A受審人は、主機の各部を点検し、ターニングすると1番シリンダのカムは回転するが2番シリンダ以下のカムが回転しないことを認めたことからカム軸の折損に気付き、主機の運転が不能と判断してその旨を船長に報告した。
 開成丸は、僚船に救援を求め、曳航されて同月16日23時00分外浦港に引き付けられ、のちカム軸、カムローラ、軸受メタルなど損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、機関の運転及び保守管理にあたる際、主機カム軸の点検が不十分で、軸受メタルの摩耗が進行して軸受隙間が増加し、繰返し曲げ応力で材料の疲労が進行して同軸が折損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転及び保守管理にあたる場合、主機カム軸の軸受メタルの摩耗が進行して軸受隙間が増加すると、同軸に繰返し曲げ応力が作用するようになり、材料の疲労が進行して同軸が折損するおそれがあったから、整備業者に依頼するなどして軸受メタルなどカム軸の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、カム軸の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、繰返し曲げ応力による材料の疲労の進行を招き、同軸を折損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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