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平成14年那審第27号
件名

旅客船わかなつおきなわ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:わかなつおきなわ機関長 海技免状:一級海技士(機関)
指定海難関係人
R海運株式会社管理部 業種名:海運業

損害
主機排気集合管の伸縮継手に亀裂

原因
主機排気集合管の伸縮継手の修理方法に対する指示不十分

主文

 本件機関損傷は、海運業者の管理部が、主機排気集合管の伸縮継手の修理を行う際、修理方法に対する指示が不十分で、修理した同継手の内筒の強度が劣り、繰返し熱応力などで内筒の変形及び材料の疲労が進行したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月18日18時20分
 鹿児島県佐多岬南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船わかなつおきなわ
総トン数 8,052トン
全長 151.13メートル
機関の種類 過給機付4サイクル9シリンダ・ディーゼル機関
出力 11,915キロワット
回転数 毎分360

3 事実の経過
 わかなつおきなわ(以下「わかなつ」という。)は、平成2年10月に進水し、沖縄県那覇港と鹿児島県鹿児島港間などに就航する旅客船で、主機として株式会社ディーゼルユナイテッドが製造したDU-SEMT-ピールスティック9PC40L型と称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として9番までの順番号が付されていた。
 主機の過給機は、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR564-32型と称する排気ガスタービン過給機で、単段の遠心式ブロワ及び単段の軸流タービンがロータ軸で結合され、同軸がブロワ及びタービン側に設けられた軸受箱内のころがり軸受で、それぞれ弾性支持バネを介して支持されるようになっており、タービン側軸受箱付近の囲壁が主機の冷却清水で冷却されるようになっていた。
 主機の排気ガス系統は、各シリンダから排出される排気ガスが各枝管を通って排気集合管に至ったのち、過給機を駆動して煙突から船外に排出されるようになっており、排気集合管は各シリンダごとに9個のベローズ形の伸縮継手で連結されるようになっていた。
 伸縮継手の排気ガス流入側は、厚さ0.5ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス鋼(JIS記号SUS321)を3枚重ねとして7山の蛇腹状とした外径674ミリ、長さ131.5ミリのベローズの一端を厚さ8ミリ、幅23ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS304)製の接続管の所定の位置にティグ溶接で取り付け、同接続管を外径740ミリ、厚さ20ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS304)製のフランジの所定の位置にミグ溶接などで取り付けたのち、内径594ミリ、長さ132ミリ、厚さ3ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS316)製の内筒がティグ溶接で取り付けられた長さ58ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS316)製の内筒環を前示フランジの所定の位置にティグ及びミグ溶接で取り付けるようになっていた。
 伸縮継手の排気ガス流出側は、前示ベローズの反対端を厚さ3ミリ、幅15ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS316)製の接続管の所定の位置にティグ溶接で取り付け、同接続管を外径740ミリ、内径624ミリ、厚さ20ミリの一般構造用圧延鋼(JIS記号SS41)製のフランジの所定の位置にティグ溶接で取り付けるようになっており、同接続管と内筒との間には半径方向に9ミリの隙間があった。
 ところで、主機は、燃料油としてC重油を主に使用し、回転数毎分336の標準状態での排気温度が摂氏約400度で就航以来の総運転時間が約60,000時間であり、伸縮継手が繰返し熱応力で経年疲労した状態となっていたことから、平成11年10月過給機及び1番シリンダ間の伸縮継手が、同年11月8番及び9番シリンダ間の伸縮継手が、同13年1月7番及び8番シリンダ間の伸縮継手がそれぞれベローズに亀裂(きれつ)を生じて排気ガスが漏洩するようになり、純正部品の伸縮継手の予備品が1個しかなかったことから、後発の2件については亀裂が生じた伸縮継手を修理して再使用していた。
 指定海難関係人R海運株式会社管理部(以下「R海運管理部」という。)は、同社が所有する船舶の運航、保守管理などを担当する部門で、伸縮継手の修理にあたり、10数年前から小口径ではあるが同種伸縮継手の修理を行って支障なく使用されていたことから、わかなつの伸縮継手もベローズ及び内筒を新規に作製し、フランジ等の部品は再使用して修理することとしたが、修理業者に使用材料の材質、寸法、溶接方法など修理方法に対する指示を十分にしないまま、内筒の材料として本来厚さ3ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS316)を使用すべきところ、強度が劣る厚さ2ミリのステンレス鋼(JIS記号SUS304)を使用するなど、修理方法を修理業者に一任していた。
 A受審人は、わかなつに機関長として1年5箇月以上の乗船履歴があり、平成11年11月8番及び9番シリンダ間の伸縮継手に亀裂が生じたとき、修理品の伸縮継手を使用した経験から、同13年1月7番及び8番シリンダ間の伸縮継手に亀裂が生じたときも修理済みの伸縮継手を使用したが、内筒の肉厚などが記載された同継手の詳細な組立図面がなかったことから、修理品の伸縮継手が純正部品と違っていることを知る由もなかった。
 わかなつは、主機の発停などによる熱応力の変動を繰り返すうち、7番及び8番シリンダ間の伸縮継手の内筒が繰返し熱応力で変形し、いつしか内筒と排気ガス流出側の接続管が接触するようになって機械振動が直接内筒に伝達されるようになったことも重なり、内筒の材料の疲労が進行して微少亀裂が生じ、同亀裂が進行して内筒が破損するおそれのある状況となっていた。
 こうして、わかなつは、A受審人ほか24人が乗り組み、旅客19人及び貨物125.6トンを積載し、平成13年8月18日00時00分那覇港を発し、鹿児島港に向け主機を回転数毎分336にかけて航行中、7番及び8番シリンダ間の伸縮継手の内筒が全周の約4分の1にわたって破損して破片が過給機に至り、ロータに異常振動を生じさせるとともに軸受の潤滑が阻害され、ロータがタービン側軸受蓋に激突したことから、排気ガス入口囲とタービン側軸受蓋との接合面に約4.5ミリの間隙を生じ、同日18時20分佐多岬灯台から真方位235度8.0海里の地点において、過給機が異音を発して損傷するとともに冷却清水が噴出した。
 当時、天候は晴で風力7の東風が吹き、海上には白波があった。
 異音に気付いた入直中の一等機関士は、過給機から冷却清水が噴出していることを認めたことから、直ちに主機を停止した。
 わかなつは、主機を無過給運転とする応急処置を行ったのち、23時28分主機を始動して低速運転で翌19日08時10分鹿児島港に入港し、のち損傷部品が新替えされた。
 R海運管理部は、修理した伸縮継手を主機のメーカーの純正部品である伸縮継手に取替え、本件後、伸縮継手に亀裂が生じた場合には純正部品で対応することとし、同種事故の再発防止に努めた。

(原因)
 本件機関損傷は、海運業者の管理部が、主機排気集合管の伸縮継手の修理を行う際、修理業者に使用材料の材質、寸法、溶接方法など修理方法に対する指示が不十分で、修理した同継手の内筒の強度が劣り、繰返し熱応力などで内筒の変形及び材料の疲労が進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 指定海難関係人R海運管理部が、主機排気集合管の伸縮継手の修理を行う際、修理業者に修理方法を十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 指定海難関係人R海運管理部に対しては、本件後伸縮継手に亀裂が生じた場合には純正部品で対応することとし、同種事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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