日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第107号
件名

旅客船フェリーとしま機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月3日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、米原健一、島 友二郎)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:フェリーとしま機関長 海技免状:三級海技士(機関)
指定海難関係人
Dディーゼル株式会社技術第一部 業種名:機器製造業

損害
右舷主機2番シリンダ排気弁が割損

原因
主機排気弁の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機製造者技術設計担当部門が、フェリーとしまの運航管理者に対して主機排気弁を速やかに点検するよう強く助言せず、主機排気弁の点検が不十分となったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月14日04時17分
 屋久島海峡

2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーとしま
総トン数 1,389トン
全長 85.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 5,884キロワット
回転数 毎分720

3 事実の経過
 フェリーとしま(以下「としま」という。)は、平成11年12月に進水した、鹿児島県鹿児島港新港と同県十島村各島及び奄美大島を連絡する鋼製貨客船兼自動車渡船で、主機として、Dディーゼル株式会社が製造した8DKM-32型と称する定格出力2,942キロワットのディーゼル機関及び同機関を逆転改造した8DKM-32L型の2基を装備し、それぞれが単独で可変ピッチプロペラを装着した両舷の推進軸系を駆動し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を備えていた。
 主機は、A重油専焼で、自動減速装置が装備されており、いずれかのシリンダ出口排気温度が全シリンダ出口排気温度の平均値より50度(摂氏、以下同じ。)以上または以下になると同装置が作動して回転数をアイドル回転数相当の毎分400に、プロペラピッチを極微速相当の5度まで下げて自動減速警報を発し、また、シリンダ出口排気温度が480度以上になると排気温度高の警報を発するようになっていた。
 指定海難関係人Dディーゼル株式会社技術第一部(以下「技術第一部」という。)は、同社が製造した機関に不具合が生じたとき、原因調査、設計変更などを担当し、平成9年ごろ8DKM-32型機関の出力を上昇させる開発にかかわり、シリンダ出口排気温度の許容値が480度であるので、60度の余裕を見込んで通常運転中の上限を420度とし、排気弁材料の選定にあたっては、燃料がA重油の機関には母材が耐熱鋼(SUH3)でシート部にステライトを盛金したもの、C重油の機関には母材を耐腐食性と耐熱に勝るナイモニック(NCF80A)でシート部を硬化処理したものとしたが、耐熱鋼材の排気弁で硫化腐食が生じた実例がなく、同腐食は一般的に700度程度の高温で生じるものとされていることから、これを考慮していなかった。
 主機は、耐熱鋼材の排気弁が装着され、平成12年4月3日就航当初航海中の各シリンダ出口排気温度が平均約400度、最高420度であったが、運転時間が約3,500時間となった同年12月には最高約430度まで上昇し、いつしか左舷主機2番シリンダ及び右舷主機2番シリンダにおいて、排気弁シート部の盛金と母材との境に硫化による腐食が生じ、やがて同境部に微小亀裂が生じて進行する状況となった。
 としまは、同年12月8日鹿児島港入港直前、前示亀裂が進行していた左舷主機2番シリンダ2本のうち1本の排気弁シート部が割損して同シリンダの排気温度が上昇し、自動減速装置が作動したがそのまま入港し、運航管理者、機関長及び平素主機整備作業を行っているDディーゼル株式会社代理店の修理業者とが合議した結果、排気温度上昇は燃料ポンプの不良によるものと判断し、同シリンダ排気弁の割損に気付かないまま左舷主機2番シリンダの燃料ポンプ及び燃料弁を予備と取り替えただけで同日定刻通り同港を出港したところ、同割損が拡大して割損片が過給機に飛び込み、過給機が損傷して左舷主機が運転不能となり、右舷主機のみの運転で同港に引き返した。
 技術第一部は、翌9日運航管理者からの要請で、過給機の修理及び過給機損傷の原因調査にかかわることになり、左舷主機2番シリンダの排気弁割損が判明した時点で、両舷主機全シリンダの排気弁点検の必要性を認めたものの、生活必需品を運んでいるとしまが欠航すると島民生活に与える影響が大きいことから、運航管理者に対して同点検を速やかに実施するよう強く助言せず、運航管理者と相談した結果、同シリンダの排気弁のみを取り替えて10日に修理を終え、約1週間後の運休日に同点検を実施することとした。
 ところで、A受審人は、就航時から一等機関士として乗船し、機関長が休暇下船中に機関長職を執っていたもので、一等機関士で乗船中の同月8日の鹿児島港入港時点で下船して休暇中のところ、運航管理者からの指示で、9日から10日まで修理作業員として前示修理に立ち会ったのち、運航に復帰した11日に一等機関士として乗船し、1航海終了後の13日機関長が休暇下船したので自身が機関長に繰り上がった。
 こうしてとしまは、A受審人が機関長としてほか13人が乗り組み、乗客31人及び貨物132トンを積載し、船首3.20メートル船尾4.20メートルの喫水で、平成12年12月13日23時50分鹿児島港新港を発し、十島村の西之浜漁港に向け屋久島海峡を航行中、翌14日04時17分メガ埼灯台から真方位026度5.6海里の地点において、亀裂が進行していた右舷主機2番シリンダ排気弁が割損し、同シリンダの排気温度が上昇して自動減速装置が作動した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 その結果、としまは、西之浜漁港入港後以降の運航を中止して左舷主機のみの運転で鹿児島港に引き返し、全シリンダの排気弁をナイモニック材のものに取り替えるとともに、過給機性能を改善し、給気量増大による排気温度低下対策が施行された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機製造者技術設計担当部門が、左舷主機の1シリンダにおいて排気弁割損が発生し、その修理及び原因調査にかかわった際、運航管理者に対し、両舷主機全シリンダの排気弁を速やかに点検するよう強く助言せず、両舷主機全シリンダの排気弁の点検が不十分となり、割損した排気弁と同様に亀裂が生じていた右舷主機の排気弁が取り替えられずに継続使用され、同亀裂が進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 技術第一部が、左舷主機の1シリンダにおいて排気弁割損が発生し、その修理及び原因調査にかかわった際、運航管理者に対し、両舷主機全シリンダの排気弁を速やかに点検するよう強く助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
 技術第一部に対しては、本件後排気弁材料の変更及び過給機性能改善による排気温度低下など同種事故防止対策を十分施行したことに徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION