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平成14年神審第51号
件名

押船第三なると丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、上原 直、小金沢重充)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第三なると丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)

損害
過給機のロータ軸及び軸受等が損傷

原因
主機冷却清水系統の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機冷却清水膨張タンクの水位が通常より早く低下するようになった際、冷却清水系統の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月28日02時05分
 広島県阿波島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第三なると丸
総トン数 108トン
登録長 23.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数 毎分330

3 事実の経過
 第三なると丸(以下「なると丸」という。)は、平成5年12月に進水した鋼製の押船で、専用のはしけを押航し、専ら広島県三ツ子島等で積み込んだ岩塩を徳島県今切港まで運搬する業務に従事していた。
 主機は、株式会社松井鉄工所製のML626GSC-1型ディーゼル機関で、船尾側架構上に排気タービン過給機(以下「過給機」という。)を付設しており、各シリンダには、船首側を1番として6番までの順番号が付され、各シリンダヘッドには、弁箱式の吸気弁及び排気弁が各1個組み込まれていた。
 主機の冷却清水系統は、清水冷却器で冷却された清水が、直結駆動の清水ポンプまたは電動の予備清水ポンプによって吸引・加圧され、主機入口主管から、各シリンダのジャケットを経てシリンダヘッドを冷却し、更にその一部が排気弁を冷却してシリンダヘッド上部に設けられた出口集合管に至る系統及び過給機を冷却して出口集合管に至る系統に分岐し、同集合管から再び清水冷却器に戻って循環するとともに、付設された容量約700リットルの冷却清水膨張タンク(以下「膨張タンク」という。)によって、循環系統中の空気の排除及び同系統中への清水の補給などができるようになっており、出口集合管には冷却水温度上昇警報用のセンサーが取り付けられていて、冷却水出口温度が摂氏85度以上になると警報装置が作動するようになっていた。
 ところで、シリンダヘッド及び排気弁の冷却水出口管フランジは、小判型で、フランジ面にはゴムパッキンが装着され、2本のボルトで締め付けるようになっていた。また、膨張タンクは、幅約60センチメートル(以下「センチ」という。)奥行き約1メートル高さ約1.2メートルで、機関室の船首部左舷側上方に設置されており、水位低下警報用のフロートスイッチは有していなかったが、タンク壁面の中間に長さ80センチのガラス製の水面計が取り付けられていた。
 A受審人は、なると丸に就航時から機関長として乗り組んでいたもので、2年ごとに主機及び過給機を開放整備し、毎年吸・排気弁及び燃料噴射弁等の整備を行うとともに、航海中は、毎日操舵室から主機の排気色を確認し、3ないし5時間ごとに機関室を巡視して、主機や補機の潤滑油量、各部の圧力及び温度を計測すると同時に、振動、異音、異臭、水漏れや油漏れの有無及びビルジ量などを点検しながら、各機器の運転管理に従事していた。
 また、A受審人は、主機の清水ポンプのグランドがパッキン式で、グランドが焼き付かないよう冷却水の漏洩量をグランド締付ボルトで調整していたことから、主機始動前に膨張タンクの水位を確認し、普段はほぼ1箇月ごとに同タンクに清水を補給するようにしていた。
 平成12年10月、なると丸は、徳島県の造船所に入渠し、主機及び過給機の開放整備を行ったのち、シリンダヘッド周囲の冷却清水系統のゴムパッキンやOリング類を全て新替えして主機を復旧し、全ての入渠工事を終えて出渠した。
 入渠中、A受審人は、整備業者に主機冷却水温度上昇警報の作動テストを行わせ、摂氏85度以上で警報装置が作動するのを確認するとともに、主機の復旧後に予備清水ポンプを運転して冷却清水系統に漏洩がないことを確認していた。
 出渠後、なると丸は、主機を月間200時間ほど運転して押航作業に従事していたところ、締付けが緩かったものか、主機4番及び5番シリンダの排気弁冷却水出口管のフランジ締付ボルトが振動の影響を受けるなどして次第に緩み始め、いつしか、同フランジ部から冷却水がわずかに漏洩する状況になっていた。
 A受審人は、同年12月上旬膨張タンクに清水を補給したのち、同月20日ごろ、同タンクの水位が通常の補給水位まで低下しているのを認めたが、清水ポンプのグランドからの漏洩量が増加したものと思い、清水の再補給後にグランド締付ボルトを増締めしただけで、冷却清水系統の点検を十分に行わなかったので、主機4番及び5番シリンダの排気弁冷却水出口管フランジ部から冷却水が漏洩していることに気付かず、普段の機関室巡視中にも、操縦ハンドルや計器板のある主機の左舷側は注意していたものの、冷却清水の出口集合管のある主機の右舷側はあまり注意していなかったので、このことに気付かなかった。
 同月27日、A受審人は、15時30分出港に備えて膨張タンクを点検した際にも、同タンクの水位が少し低下しているのを認めたが、清水ポンプのグランドからの漏洩量が多いからだと思い込んでいたので、依然、冷却清水系統の点検を行わなかった。
 こうして、なると丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、16時00分今切港を発し、主機を回転数毎分330の全速力前進にかけて三ツ子島に向かい、A受審人が21時ごろ機関室の巡視を行うなどして航行しているうち、前示のフランジ締付ボルトが更に緩んで冷却水の漏洩量が急激に増加し、冷却水が不足して冷却水出口温度が上昇したが、なぜか冷却水温度上昇用の警報装置が作動しないまま、主機の運転が続けられていたところ、翌28日02時05分鮴埼灯台から真方位024度3.2海里の地点において、機関室巡視中のA受審人が、膨張タンクの水位が水面計に出ていないのを発見するとともに、機側の冷却清水圧力計の指示がほぼ零となって、主機及び過給機が過熱しているのを認め、直ちに主機を停止した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹いていた。
 A受審人は、主機が冷えるのを待って膨張タンクに清水を補給し、予備清水ポンプを運転して点検したところ、各シリンダライナOリングからの明らかな漏水は認められなかったものの、各シリンダヘッド周囲のゴムパッキン及びOリング類から冷却水が噴出するのを認めたので、主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
 なると丸は、来援した引船によって広島県竹原港に引き付けられ、修理業者が精査した結果、全てのピストン及びシリンダライナに縦傷が生じていたほか、過給機のロータ軸及び軸受等に損傷が判明したので、ピストン及びシリンダライナの縦傷を削正して硬化したゴムパッキン及びOリング類を全て取り替え、同時にケーシングの肉厚が薄くなっていた過給機を新替えするなどの修理を行うとともに、不調になった冷却水温度上昇警報用のスイッチを新替えし、再発防止のため、膨張タンクに水位低下警報用のフロートスイッチを新設した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、膨張タンクの水位が通常より早く低下するようになった際、冷却清水系統の点検が不十分で、排気弁の冷却水出口管フランジ部から冷却水が漏出するまま主機の運転が続けられ、冷却水が不足して各部の冷却が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たって、膨張タンクの水位が通常より早く低下するのを認めた場合、冷却清水系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、清水ポンプのグランドからの漏洩量が増加したものと思い、冷却清水系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、排気弁の冷却水出口管フランジ部から冷却水が漏出していることに気付かないまま主機の運転を続けて、冷却水が不足して各部の冷却が阻害される事態を招き、全てのシリンダライナ及びピストンに縦傷を生じさせたほか、過給機のロータ軸及び軸受等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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