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平成14年仙審第39号
件名

漁船第八龍昌丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、亀井龍雄、上中拓治)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第八龍昌丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
全体が炎上して沈没

原因
集魚灯用安定器周囲の通風冷却措置及び同安定器の絶縁抵抗測定不十分

主文

 本件機関損傷は、集魚灯用安定器周囲の通風冷却措置及び同安定器の絶縁抵抗測定が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月13日01時00分
 青森県下北半島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八龍昌丸
総トン数 19.04トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第八龍昌丸(以下「龍昌丸」という。)は、A受審人が、平成12年4月青森県八戸市の造船所で購入した中古の船体に、同年5月から8月にかけて他の中古船から主機、補機、航海計器、電気設備等の機器を移設して同年12月に漁船登録した、いか一本釣り漁業に従事する中央船橋型FRP製漁船で、船橋後方に機関室囲壁及び甲板室が配列され、甲板下は船首側から順に、4区画の魚倉、機関室及び船員室となっていた。
 船員室には、後部に寝台2個と舵箱が設置されていたほか、左舷側及び前壁沿いに木製で2段の集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)格納棚が各1台据え付けられ、出入口として、天井の前部右舷に甲板室に通じる開口部と前壁の右舷に機関室に通じる引き戸が設けられていたが、通風機は設置されていなかった。
 A受審人は、集魚灯設備の設置にあたっては、主機等の機器を移設した際、中古の2キロワット2灯用安定器12個と3キロワット3灯用安定器15個の総計27個を電機業者から購入し、船員室の左舷側の安定器格納棚に7個、前壁沿いの格納棚に8個、機関室に12個を分散して据え付け、また、船体上方の両舷に放電式集魚灯69個を取り付け、これらの配線工事の大半を自ら施工し、電気業者に絶縁抵抗測定及び点灯試験を行わせて異状のないことを確認した。
 集魚灯への給電経路は、主機駆動の電圧220ボルト容量250キロボルトアンペアの集魚灯専用発電機、7個の配線用遮断器と電磁接触器を組み込んだ集魚灯配電盤、安定器を順に経て給電され、船橋内に設けられた3個の操作スイッチで集魚灯全体を3系統に分けて点灯するようになっていた。
 A受審人は、主機等の移設工事後、龍昌丸を八戸市から基地である青森県白糠漁港焼山地区に回航したものの、その後病気などのため操業を見合わせていたところ、翌13年7月健康も回復してきたので出漁することとし、取り付けていなかったいか釣り機11台の設置工事を自ら行い、同年10月中旬、同工事を終えて一連の機器の設置工事を完了した。
 ところで、安定器は、トランスやコンデンサ等で構成され、給電中は器内が発熱するので、高温により絶縁材料が劣化することのないよう、周囲を通風冷却する必要があったが、A受審人は、船員室に通風機を設備するなどの通風冷却措置をとらなかった。
 また、安定器は、長期間休止状態で放置されると、湿気により安定器の絶縁材料が劣化して絶縁抵抗が低下し、電路が短絡するおそれがあるので、長期間休止後の出漁準備に当たっては、安定器の絶縁抵抗測定を行うことが通例とされ、A受審人の所属する漁業協同組合でも組合員に対し電機業者による絶縁抵抗測定の斡旋を行っていたが、同人は、安定器が比較的新しいので大丈夫と思い、同測定を依頼しなかったため、1年以上休止していた安定器の絶縁が、低下していることに気付かなかった。
 A受審人は、平成13年10月下旬から操業を開始し、船員室前壁の機関室への引き戸を閉めた状態で、日帰り操業を数回繰り返しているうち、安定器の絶縁材料の劣化は更に進行した。
 こうして龍昌丸は、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同年12月12日14時40分白糠漁港焼山地区を発し、同港南西約4海里沖合の漁場に向かい、15時ごろ漁場に到着した。
 16時ごろA受審人は、日没で暗くなり出したので、パラシュート型シーアンカーを投入して船首を西に向けた状態で漂泊し、主機を回転数毎分1,200にかけて集魚灯専用発電機を運転し、全集魚灯を点灯して操業を始め、翌13日00時30分甲板室で夜食を取ったのち、船橋前の甲板上でいかの箱詰め作業に従事した。
 このころ、船員室左舷側格納棚の安定器が、絶縁材料の著しい劣化によりついに電路が短絡し、電線被覆などが瞬時に過熱発火して付近の構造物に燃え移るとともに船尾部の集魚灯が一部消えた。
 これに気付いたA受審人は、様子を見るため右舷を通って船尾に向かう途中、ビニールの焦げるような臭気を感じ、甲板室に入って船員室開口部から微かに煙の出ているのを認め、垂直はしごで船員室に下りたところ、左舷側安定器格納棚から発煙しているのを認めた。
 A受審人は、直ちに持運び式消火器による初期消火を試みたものの効果がなく、間もなく火勢が強まり、01時00分白糠港焼山北防波堤から真方位138度3.8海里の地点において、龍昌丸は火災となった。
 当時、天候は晴れで風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、01時15分船橋内に備え付けの無線電話で所属漁業協同組合を呼び出したが交信できず、01時30分ごろ主機と発電機補機が相次いで停止し、このころ火炎が船橋に迫ってきたので危険を感じ、救命胴衣を着用して風上の船首部に逃れたところ、02時00分漁場移動中の僚船により救助された。
 龍昌丸は、その後来援した巡視船により放水消火作業が行われたが、やがて、全体が炎上して沈没した。

(原因)
 本件火災は、安定器周囲の通風冷却措置が不十分であったことと、長期間休漁後の出漁準備にあたり、安定器の絶縁抵抗測定が不十分であったこととにより、操業中、絶縁材料が著しく劣化していた安定器の電路が短絡し、電線被覆などが過熱発火して瞬時に付近に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長期間休漁後の出漁準備を行う場合、船内に休止状態で放置されていた安定器の絶縁材料が、劣化しているおそれがあったから、安定器の絶縁抵抗測定を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、安定器が比較的新しいので大丈夫と思い、安定器の絶縁抵抗測定を行わなかった職務上の過失により、操業中、安定器が絶縁低下したまま使用され、電路が短絡して火災を招き、全焼して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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