(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月6日11時27分
北海道三石郡三石漁港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第8松盛丸 |
総トン数 |
19.98トン |
登録長 |
15.47メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
272キロワット |
3 事実の経過
第8松盛丸(以下「松盛丸」という。)は、昭和54年7月に進水した、刺し網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、船体中央部に操舵室及び無線室、その船尾側に機関室の天窓と通風機、操舵室及び無線室の下方に機関室、上甲板の同室上段に隣接して賄室兼食堂、上甲板下の船首側に魚倉、船尾側に船員室及び操舵機室が配置されていた。
機関室は、長さ4.2メートル幅4.0メートル高さ3.0メートルで、操舵室の木製床面のハッチ及び賄室兼食堂の左舷船尾側引き戸から出入りするようになっており、中央部にディーゼル機関の主機、同機の動力取出軸により電磁クラッチを介して駆動される漁労機械用油圧ポンプ、右舷側にベルトで駆動される電圧220ボルト容量40キロボルトアンペアの船内電源用三相交流発電機(以下「交流発電機」という。)及び電圧24ボルト容量3キロワットの充電用直流発電機(以下「直流発電機」という。)が据え付けられていた。そして、機関室には、前方から順に、左舷に冷凍機、空気圧縮機、配電盤、通風機等用集合始動器盤、空気圧縮機用始動器及び船内照明灯用分電盤、右舷に冷凍機用始動器、定周波装置、雑用ポンプ、燃料油移送ポンプ、ビルジポンプ及び主機用警報盤等がそれぞれ装備されていた。
配電盤は、縦1.0メートル横1.2メートル奥行き0.4メートルの箱形のもので、船縦方向に横開き扉になっている盤面を右舷に向け、裏面を左舷外板と15センチメートル隔て、底面がアングル材の支柱4本により支えられて機関室床面から1.3メートルの高さにあり、向かって右半分が冷凍機、空気圧縮機、操舵機、通風機、雑用ポンプ、燃料油移送ポンプ、ビルジポンプ、航海計器及び船内照明等に電力を供給する給電盤、左半分が交流発電機及び直流発電機用発電機盤に分かれ、同盤の上方に電圧計、電流計及び周波数計、下方に定格電流125アンペアの交流発電機用ノーヒューズブレーカー(以下「遮断器」という。)、直流発電機用ノーヒューズブレーカーが装備されていた。また、交流発電機から配電盤に至る電路には、軟銅より線導体を絶縁体で被覆した単心合成ゴム絶縁ビニルシースあじろがい装ケーブル(以下「発電機ケーブル」という。)が、機関室前部壁及び左舷外板沿いに遮断器に導かれ、他電路の多数のキャブタイヤケーブル等と束状に配線されていた。
A受審人は、昭和62年3月松盛丸を購入した後、船長として乗り組み、単独で航海当直に就いて操船のほか主機、発電機や配電盤等の船内電源装置の運転保守にあたり、購入以来、配電盤を手入れしないまま、遮断器等を常時入れた状態にしており、周年北海道三石漁港沖合の漁場で日帰りの操業を無難に繰り返しているうち、平成14年3月直流電源の蓄電池が経年劣化したことから、これを交換した。
ところで、配電盤は、発電機ケーブルが遮断器入力端子にねじの呼び径8ミリメートルの植込みボルト(以下「取付けボルト」という。)で圧着端子を介し接続されていたものの、取付けボルトが船体振動の影響を受けて次第に緩む状況になった。
しかし、A受審人は、電力を供給する際、特に支障ないから大丈夫と思い、操業の合間に業者に依頼するなど、配電盤の点検措置をとらなかったので、遮断器入力端子の取付けボルトが緩む状況に気付かず、そのまま通電を続けた。
松盛丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、6月6日03時50分主機を始動した後、機関室の天窓を半開にして通風機1台を送風で運転し、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、04時00分三石漁港を発し、05時10分同漁港南西方沖合8.5海里の漁場に至って操業を開始し、主機により交流発電機及び直流発電機を駆動中、配電盤の遮断器入力端子の接触抵抗が増加して発電機ケーブルが過熱し始め、同盤付近に異臭が漂った。
ところが、A受審人は、操業中適宜に機関室の見回りを行っていなかったので、配電盤付近の異臭や発電機ケーブルが過熱していることに気付かなかった。
こうして、松盛丸は、きちじ等約25キログラムを漁獲した後、他の乗組員を賄室兼食堂で休息させ、10時30分帰港の途に就き、主機を回転数毎分1,400にかけて航行中、配電盤の遮断器入力端子で発電機ケーブルが著しく過熱してその絶縁被覆が発火し、同ケーブルを伝わって周囲の多数のキャブタイヤケーブル等に燃え移るうち、乗組員が異臭に気付いて航海当直中のA受審人に報告し、同人が主機のクラッチを中立として操舵室床面のハッチを開き、11時27分三石港東防波堤灯台から真方位210度1.5海里の地点において、機関室の配電盤周りの火災を発見した。
当時、天候は霧で風力2の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、付近を航行中の僚船に無線で火災を連絡し、操舵室床面のハッチから持運び式消火器を用いようとしたものの、機関室に充満している煙を見て危険を感じ、乗組員を船首甲板に避難させ、11時45分来援した僚船に乗組員全員で移乗した後、主機が自停して運転音が聞こえなくなった。
松盛丸は、機関室上方に延焼するまま、僚船により三石漁港に曳航され、通報を受けて待機していた消防車が消火活動を行い、15時55分鎮火したが、同室、賄室兼食堂、船員室、操舵室及び無線室等が焼損し、のち廃船処分された。
(原因)
本件火災は、船内電源装置の配電盤の点検措置が不十分で、遮断器入力端子の取付けボルトが緩む状況のまま通電が続けられたこと及び機関室の見回りが不十分で、同端子の接触抵抗の増加により発電機ケーブルが著しく過熱してその絶縁被覆が発火し、周囲のキャブタイヤケーブル等に燃え移ったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、操船のほか主機、発電機や配電盤等の船内電源装置の運転保守にあたり、電力を供給する場合、遮断器入力端子等の取付けボルトが船体振動の影響を受けて緩むことがあるから、その緩みを見落とさないよう、操業の合間に業者に依頼するなど、配電盤の点検措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、特に支障ないから大丈夫と思い、配電盤の点検措置をとらなかった職務上の過失により、遮断器入力端子の取付けボルトが緩む状況に気付かず、そのまま通電を続け、同端子の接触抵抗の増加により発電機ケーブルが著しく過熱してその絶縁被覆が発火し、周囲のキャブタイヤケーブル等に燃え移って機関室の火災を招き、同室、賄室兼食堂、船員室、操舵室及び無線室等を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。