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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年仙審第35号
件名

漁船利丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年11月20日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上中拓治)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:利丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
機関を濡損し、マストを曲損

原因
カーゴフックの状態確認不十分

裁決主文

 本件転覆は、養殖いかだの錨用砂利袋投下作業中、カーゴフックの状態確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月13日14時50分
 岩手県山田港

2 船舶の要目
船種船名 漁船利丸
総トン数 1.0トン
全長 8.10メートル
1.97メートル
深さ 約0.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35

3 事実の経過
 利丸は、昭和57年11月に進水し、専らかきやほたての養殖関連作業に従事しているFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かき養殖いかだを係止している錨用砂利袋の取替え作業の目的で、錨索用ロープ及び錨用砂利袋10俵を搭載し、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年5月13日14時00分岩手県山田漁港を発し、14時07分山田港南防波堤灯台から122度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に設置されている養殖いかだに到着し、同作業を開始した。
 ところで、本船の乾舷は約70センチメートルで、35度以上傾斜すると没水し、転覆する可能性があった。
 A受審人のかき養殖いかだは、東側及び西側に各3本づつ取り付けた直径16ミリメートル長さ30メートルのナイロンロープを錨索とし、ビニール袋に砂利を詰めて作った重量30キログラムの砂利袋を各錨索に10俵づつ結びつけて300キログラムの錨とし、海底に沈めて6点で係止しているもので、錨索が摩耗したり砂利袋が破れたりして次第に係止力が落ちるので、同人は3年に1回程度の割合で錨索及び砂利袋を取り替えるようにしていた。
 また、その取替え作業の手順は、錨索となる新しいナイロンロープをいかだに取り付けたあと、船を後退させながらロープを約30メートル延出して投錨地点に至り、同ロープの他端を二股に分けて両舷側に導き、船体中央付近で各ロープに鐶を取り付け、両方の鐶をストッパーロープで結んで仮止めし、各鐶に新品の砂利袋を5俵づつ吊り下げて投下準備をし、最後にストッパーロープを切断して両舷の砂利袋を同時に投下するものであったが、荷重が片舷に偏ると大傾斜を生じるおそれがあったので、釣り合いを保ちながら砂利袋を両舷に振り分ける必要があった。
 A受審人は、前示いかだの西側中央の錨索及び砂利袋を取り替えることとし、手順通りに両舷側に砂利袋吊り下げ用の鐶を準備し、船体中央に設置されているマスト付きの長さ約4メートルのデリックブームを使用し、荷重が片舷に偏らないよう、砂利袋を1俵づつ交互に左右の舷側に運んで鐶に吊り下げ、片舷5俵づつ吊して投下準備を完了したが、最後の砂利袋を吊った際にデリックブームが15度ばかり左舷側に振り出されており、使用したあとカーゴフックを巻き上げておかなかったので、同フックが左舷側舷外の水際近くに垂れ下がっている状態であった。
 14時50分わずか前A受審人は、船体の動揺によっていつの間にかカーゴフックが左舷側の砂利袋を吊っている鐶に引っ掛かり、ストッパーロープを切断しても砂利袋が落下しない状態となっていたが、投下前にカーゴフックの状態を確認しなかったので、そのことに気付かなかった。
 利丸は、砂利袋5俵分すなわち150キログラムの荷重を両舷側に吊り下げた状態で釣り合っていたとき、A受審人がストッパーロープを切ったところ右舷側の砂利袋だけが落下してゆき、砂利袋全量分の荷重がカーゴフックを介して左舷側に振り出されたデリックブームにかかり、瞬時に左舷側に大傾斜し、舷縁が没水して復原力を失い、14時50分前示地点において、左舷側に転覆した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、直前に海中に飛び込んで逃れ、養殖いかだに上がったところを僚船に救助された。
 転覆の結果、利丸は機関を濡損し、マストを曲損した。

(原因)
 本件転覆は、岩手県山田港において、かき養殖いかだの錨用砂利袋投下作業中、デリックブームを使用して砂利袋を両舷に振り分けたあと、使用を終えたあとのカーゴフックの状態確認が不十分で、左舷側の砂利袋を吊っている鐶にカーゴフックが引っ掛かった状態のままストッパーロープを切り、カーゴフックを介してデリックブームに大きな荷重がかかり、没水角を超えて左舷側に傾斜し、復原力を失ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、岩手県山田港において、かき養殖いかだの錨用砂利袋を投下する作業に当たり、デリックブームを使用して砂利袋を両舷側の舷外に振り分けたあと、砂利袋を吊っているストッパーロープを切って両舷の砂利袋を同時に投下する場合、使用を終えたあとのカーゴフックを巻き上げておくなど、フックに砂利袋などが引っ掛かっていないことを確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、巻き上げなくともカーゴフックが砂利袋に引っ掛かっていることはないと思い、カーゴフックの状態を確認しなかった職務上の過失により、砂利袋を釣っている鐶にカーゴフックが引っ掛かっていることに気付かないままストッパーロープを切り、左舷側に振り出されたデリックブームに大きな荷重がかかり、没水角を超えて船体を左舷側に傾斜させ、転覆を招き、機関の濡損及びマストの曲損を生じさせるに至った。





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