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平成14年長審第47号
件名

漁船第八十一丸福丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年12月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第八十一丸福丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八十一丸福丸甲板員

損害
船首船底外板に破口及び亀裂等

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月12日12時30分
 五島列島東岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十一丸福丸
総トン数 308トン
全長 53.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 第八十一丸福丸(以下「丸福丸」という。)は、大中型まき網漁業の運搬船として従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、平成14年1月6日07時00分長崎県鯛ノ浦漁港を発し、東シナ海の漁場に向かった。
 A受審人は、漁場への往復、魚群の探索及び水揚港への往復時の船橋当直については、自らと一等航海士、B指定海難関係人及び甲板員の4人で単独3時間交代で行っていた。
 A受審人は、翌7日済州島南方の漁場に至り、昼間は投錨して仮泊し、夕方から翌日の朝まで移動しながら魚群の探索を続け、途中、僚船が漁獲物の運搬を行ったのち、越えて12日00時20分男女群島の西方20海里ばかりの地点で揚網作業が開始され、01時30分漁獲物の積込みを終え、その後2度目の投、揚網が行われて06時45分再度漁獲物の積込みを開始し、07時40分合わせて27トンの漁獲物を積み込み、08時00分船首3.0メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、佐賀県唐津港に向かった。
 A受審人は、揚網時から漁場発航後の甲板上の片付け作業が終わるまで操船に当たり、その後当直を通信長に任せるとき後の当直者の順番を指示したものの、夜半からの漁獲物積込み作業で船橋当直予定者は睡眠がとれておらず、いすに腰を掛け続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、立って当直を行い時には移動すること、要すれば窓を開けるなどして厳正な態度で当直を行うとともに眠気を覚えたときは自分に連絡するように指示することなく降橋した。
 10時50分B指定海難関係人は、大瀬埼灯台から170度(真方位、以下同じ。)10海里の地点で昇橋し、通信長から当直を引き継ぎ、針路を058度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南東流によって2度ばかり右方に圧流されながら11.3ノットの対地速力で進行した。
 B指定海難関係人は、当直に就いて間もなく舵輪の右舷側にあるいすに腰を掛けて見張りを行いながら続航し、11時43分黄島灯台から248度5.5海里の地点に達したとき、予定針路よりいくぶん右方に偏していたことから、少し早目に針路を042度に転じたのち引き続きいすに腰を掛けて当直を続けた。
 B指定海難関係人は、前日22時から船橋当直に就き、深夜からの積込み作業や甲板作業に従事し、朝食をとったのち1時間ばかりしか仮眠をとっておらず、海上は平穏で船橋は窓を閉めて空調を効かしていたことから、いすに腰を掛けたままでいると居眠りに陥るおそれがあったが、空調を止めて窓を開け、立って当直を行い、時折移動するなどして居眠りの防止措置をとることなく当直を続けるうち、12時05分黄島と黒島の中間に至ったころ居眠りに陥り、丸福丸は同一針路で続航し、12時30分黄島灯台から010度4.5海里の立島の浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は平穏で、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船首船底外板に破口及び亀裂をともなう凹損を生じ、両舷ビルジキールを曲損したが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、福江島南東沿岸を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、立島に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が居眠り防止を含めた厳正な船橋当直の励行についての指示が十分でなかったことと、当直者が立って移動しながら当直を行うなど厳正な船橋当直を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、漁場から水揚港に向け航行するに当たり、深夜から朝方まで漁獲物の積込み作業などを行った乗組員を船橋当直に就ける場合、居眠り防止措置を含めた厳正な当直の励行について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者に厳正な当直の励行を指示しなかった職務上の過失により、当直者が居眠りに陥って立島に乗り揚げ、船首船底外板に破口、亀裂をともなう凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船橋当直に就いたとき、睡眠不足と疲労で居眠りに陥るおそれがあったから、立って移動するとともに要すれば窓を開けるなど厳正な当直を行わず、いすに腰を掛けたまま当直を続けて居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、同人が事故後厳正な当直を行っていることと、丸福漁業株式会社が居眠り防止を兼ねて当直者に1時間に2回の船位、水深、海水温度などの測定とその記帳を指示し、居眠り防止措置に努めていることに徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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