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平成14年広審第69号
件名

プレジャーボートフイッシュテール乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年12月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西林 眞、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:フイッシュテール船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船底外板破口部から浸水、転覆

原因
針路選定不適切

主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月21日14時10分
 瀬戸内海西部 江田島湾

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートフイッシュテール
全長 7.01メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 5キロワット

3 事実の経過
 フイッシュテールは、船外機付きFRP製クルーザー型ヨットで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、広島県広島湾から江田島湾までのクルージングの目的で、最深部(センターボード下端)喫水1.45メートルをもって、平成14年5月21日10時20分同県広島港五日市地区プレジャーボート係留地を発し、機走に続いて帆走しながら広島湾を東行して津久茂瀬戸を経て西能美島と江田島に囲まれた江田島湾内に入り、13時ころ西能美島北岸に位置する能美海上ロッジ(以下「ロッジ」という。)の西側に位置した小型客船桟橋に着桟した。昼食後、対岸にあたる江田島湾北東部に位置する海上自衛隊第一術科学校桟橋沖を回遊して帰航する予定であった。
 ところで、ロッジは、安芸中田港小方北防波堤灯台(以下「中田港防波堤灯台」という。)から131度(真方位、以下同じ。)0.9海里にあたる江田島湾に面した西能美島北岸のほぼ中央付近に位置し、その北方沖合にはかき養殖筏区域(以下「筏区域」という。)があり、そのほぼ中央付近には同ロッジの水際から北方に向かって2個の小島に連続して樽磯及び沖ノ樽磯などの背の低い岩礁と多数の暗岩が点在し、最低低潮時以外は同小島を除く岩礁が海面下に没する東西最大幅約150メートル北方約450メートルの暗礁域(以下、単に「暗礁域」という。)を成す状況であった。
 そして、かき養殖筏は暗礁域から離して設置され、筏区域の中央部水域は筏が設置されていない一見広い水域を呈していた。しかし、地元かき養殖業者など事情を知った者及び喫水の極めて浅い小船以外のレジャー船や一般船にとって、筏区域内を通り抜けることは不適切なところであり、ロッジ西側の小型客船桟橋に離着桟する小型客船やレジャー船などは、筏区域外側の広い水域を航行していた。A受審人も江田島湾内の航行に際しては、港泊図のような海図が発行されていなかったこともあって小縮尺ながらも海図第142号(海上保安庁水路部刊行)を備え、その水路状況を調べて暗礁域の存在を知り、また自船で過去4回同ロッジを訪れた折にも前示2つの小島と点在した岩礁を見て、筏区域内を通り抜けないようにしていた。
 ところが、A受審人は、この度の帰途中に海上自衛隊第一術科学校の桟橋沖を回遊するにあたり、暗礁域西側の筏に寄って航行すれば筏区域内を通り抜けることができるものと思い、それまでどおり区域外側を通航するよう針路の選定を行うことなく、安易に筏区域内を北上して通り抜けることとした。
 こうして、14時04分A受審人は、ロッジ西側小型客船桟橋を離れると機関を3ノットの低速力前進にかけ、暗礁域西側に設置された筏寄りに北上し、同時09分中田港防波堤灯台から120度1,370メートルの地点で、022度の針路に定め、暗礁域の北部水域に向かって同速力で進行し、14時10分中田港防波堤灯台から116度1,370メートルの地点において、フイッシュテールは、原速力のまま暗礁域に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で視界は良好であった。
 乗揚の結果、センターボードの脱落及びそれに伴って生じた船底外板破口部から浸水し、離礁後船体のバランスを失って転覆するに至った。

(原因)
 本件乗揚は、江田島湾において、同湾南岸に位置した能美海上ロッジから対岸にあたる海上自衛隊第一術科学校桟橋沖を回遊して帰航しようとする際、針路の選定が不適切で、同ロッジ沖合に拡延した暗礁域が存在するかき養殖筏区域内を進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、江田島湾において、同湾南岸に位置した能美海上ロッジから対岸にあたる海上自衛隊第一術科学校桟橋沖を回遊して帰航しようとする場合、過去数回同ロッジへの航行経験と海図によりその北方沖合のかき養殖筏区域ほぼ中央付近に拡延した暗礁域が存在していることを知り、同区域内を通航しないようにしていたのであったから、それまでどおり同区域外側を通航するよう、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同暗礁域西側の筏に寄って航行すれば筏区域内を通り抜けることができるものと思い、それまでどおり同区域外側を通航するように針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、安易に同区域内を進行して暗礁域への乗揚を招き、センターボードを脱落させ、それに伴って生じた船底外板破口部から浸水し、船体バランスを失って転覆を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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