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平成14年横審第87号
件名

プレジャーボート海王乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年12月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、黒岩 貢、甲斐賢一郎)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:海王船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海 王・・・舵板及び船底外板等を損傷
定置網・・・化学繊維製漁具を損傷

原因
海 王・・・針路選定不適切

主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月17日11時20分
 神奈川県江ノ島南岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート海王
総トン数 8.03トン
全長 8.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 4キロワット

3 事実の経過
 海王は、船内機を装備したFRP製クルーザー型ヨットで、A受審人ほか豊富な帆走経験を有する友人2人が乗り組み、帆走を楽しむ目的で、最大1.73メートルの喫水をもって、平成13年6月17日10時30分神奈川県湘南港を発し、同県江ノ島沖合に向かった。
 ところで、江ノ島南岸沖合には、江ノ島灯台から183.5度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの地点を南東端として東西幅380メートル、南北幅825メートルの神奈川県が免許した定第14号と称する定置漁場(以下「定第14号」という。)が設けられており、水深40メートルないしは45メートルの定第14号には、長さ約700メートルの導網と東西幅約320メートル南北幅約70メートルの身網とで構成される落網定置網が敷設されていた。この身網は、直径約0.4メートルのポリエチレン製浮子を約2メートル間隔で取り付けた直径50ミリメートルの化学繊維製索に吊り下げられ、同網の四隅には水面上高さ約2メートルの小型浮標灯1基と縦0.45メートル横0.60メートルの黒色標識旗を掲げた同高さ約3メートルの旗竿1本がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、発航したのち機関を全速力前進にかけて東進しながら帆走艤装(ぎそう)に取り掛かり、10時40分腰越漁港の南方約400メートルの地点に差し掛かったとき、メインセールとジェノアジブと称する大型のジブを取り付けるなどして帆走準備を整えたものの、その南方に多数の小型ヨットなどが集まっていたので、これを替わすために機関を使用して東進を続けた。
 10時51分少し前A受審人は、弱い南東風が吹く状況下、江ノ島灯台から094度2,750メートルの地点に達したとき、前示の小型ヨット群を無難に替わせる状況となったので左舷開きの正横付近から風を受けるビームリーチで帆走を開始することとし、針路を233度に定め、折からの風潮流により右方に10度圧流されながら3.5ノットの対地速力で帆走を開始した。
 このとき、A受審人は、永年海王で江ノ島沖合を帆走していた経験から、江ノ島南岸沖合には数多くの定置網が設置されていたことも、弱い風では海王の圧流量が大きいことも知っていたが、この針路であれば定第14号の定置網に著しく接近することはあるまいと思い、風潮流による圧流量に配慮して同定置網から十分に離す針路を選定しなかった。
 その後A受審人は、ヘルムスマンとして友人の1人に舵を任せ、コックピット内の右舷船首寄りに座った他の友人とその船尾寄りに座った自らとがセールの調整などをしながら帆走中、11時13分江ノ島灯台から155度1,430メートルの地点に至ったとき、右舷船首約10度800メートルの地点からその西方海面上に定第14号の定置網の浮子列を視認したものの、同定置網から距離を保って航過することができるように見えたので、依然として風潮流による圧流量に配慮せず、風を正横より前方から受けるクローズドリーチとするなどして同定置網から十分に離す針路としないまま進行した。
 11時20分わずか前A受審人は、船首方至近距離のところに定第14号の定置網の南東端を示す小型浮標灯などを認め、上手回しをしてこれを替わそうとしたが、時既に遅く、11時20分海王は、江ノ島灯台から184度1,670メートルの地点において、原針路、原速力のまま同定置網の東端付近に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で付近には弱い北西流があった。
 乗揚の結果、海王は舵板及び船底外板などを、定置網は化学繊維製漁具をそれぞれ損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件乗揚は、神奈川県江ノ島南岸沖合において帆走する際、針路の選定が不適切で、折からの風潮流により圧流されながら定置網に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、神奈川県江ノ島南岸沖合において帆走する場合、付近には定置網が敷設されていることを知っていたのであるから、風潮流による圧流量などに配慮して同網から十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、定置網に著しく接近することはあるまいと思い、同網から十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、折からの風潮流により圧流されながら定置網に向けて進行して乗揚を招き、海王の舵板及び船底外板などを、同網の化学繊維製漁具をそれぞれ損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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