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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年横審第96号
件名

貨物船第三十七幸栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年12月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、原 清澄、稲木秀邦)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第三十七幸栄丸船長 海技免状:二級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船首部船底に破口を伴う凹損等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月30日19時48分
 広島湾黒島水道

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十七幸栄丸
総トン数 499トン
全長 76.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット

3 事実の経過
 第三十七幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材455トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成13年3月30日18時10分広島県呉港を発し、大阪港に向かった。
 ところで、A受審人は、同年3月25日茨城県鹿島港において雇用期間2箇月の予定で乗船したばかりで、幸栄丸の常用航路について知らず、呉港入港の際には、自らの経験から柱島水道を通り、広島港沖合から呉港に至る航路を航行したが、同港出航前、海図にコースラインを引く際、柱島水道の北方に連なる西五番之砠(のばえ)、エビガヒレ、黒島及び横島等の岩礁や島嶼(とうしょ)と、それらの北方に位置する倉橋島との間の黒島水道を航行した痕跡が海図上にあったことから、初めて同水道を通航することとし、呉港出航後、早瀬瀬戸を通航し、倉橋島南西端近くの鍋島南西0.2海里の地点から、羽山(はやま)島南方0.3海里沖合に向首する130度(真方位、以下同じ。)の針路で航行し、その後三ツ石灯台を左舷側につけ回し、安芸(あき)灘に向け北東進するコースラインを引いた。
 A受審人は、船橋当直を3直4時間交代制とし、00時から04時及び12時から16時を甲板長に、04時から08時及び16時から20時を一等航海士にそれぞれ行わせ、08時から12時及び20時から00時を自らが行うこととし、出航操船後、引き続き在橋して操船に当たり、18時55分ごろ東能美島の梶掛ノ鼻を右舷側に通過したところで当直を一等航海士に引き継いで自室で休息した。
 19時22分一等航海士は、A受審人が設定したコースが鍋島に近かったことから、黒島水道の中央を通航することとし、西五番之砠灯標から356度1.1海里の地点に達したとき、針路を121度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 一等航海士は、レーダーを真方位方式で表示して当直を続け、19時40分安芸爼(まないた)岩灯標から298度2.1海里の地点に至ったとき、当直のため昇橋したA受審人に引き継ぎを始め、針路が羽山島の北側に向首していたことから、同島を左舷側に見て通航することを同人に念を押し、さらに視界が悪いが羽山島がぼんやりと見えていること等を引き継ぎ、同時42分安芸爼岩灯標から298度1.8海里の地点で降橋した。
 A受審人は、レーダーの近くに立って一等航海士の引き継ぎを聞いていたが、羽山島が右前方にぼんやりと見えることや同島を左舷側に見て通過するという同人の引き継ぎを聞き逃したばかりか、レーダーの表示が不慣れな真方位表示であったため、羽山島が船首右側に映っていることに気付かず、レーダー画面周囲の方位盤により130度の方向を見てこのままでも羽山島南方を通航できると判断し、引き継ぎを終えたのちも同一針路のまま続航した。
 19時44分A受審人は、安芸爼岩灯標から297度1.4海里の地点に達し、右舷船首方の羽山島に1,400メートルまで接近したが、当直に就いてから船橋前面に立ち、下方を向きながら考え事をしていて、レーダーを見たり、羽山島の島影を見るなどして船位の確認を十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行中、同時48分少し前ふと顔を上げたとき、右舷船首至近に羽山島の島影を認め、直ちに機関停止、左舵一杯としたが及ばす、19時48分幸栄丸は、安芸爼岩灯標から293度1,200メートルの羽山島北側の岩礁に、原速力のまま、100度を向首して乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、幸栄丸は、船首部船底に破口を伴う凹損等を生じたが、自力離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、広島湾黒島水道を南東進中、船位の確認が不十分で、羽山島北側の岩礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾黒島水道を南東進中、当直を交代した場合、周辺には岩礁や島嶼が点在する海域であったから、レーダーや羽山島の島影などにより船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直交代後、下方を向いて考え事をして、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、自船が羽山島北側に向首していることに気付かず、同島北側の岩礁への乗揚を招き、幸栄丸の船首部船底に破口を伴う凹損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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