(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月4日10時43分
北海道天売島沿岸
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船おろろん |
総トン数 |
16トン |
全長 |
13.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
143キロワット |
3 事実の経過
おろろんは、北海道天売島周辺の遊覧航行に従事する、客室長さ9.1メートル水線から客室上端までの高さ2.2メートルの風圧面積の大きい、船底に海底透視窓を有する船首船橋型のFRP製旅客船で、A受審人が単独で乗り組み、観光客16人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年5月4日10時13分北海道天売港を発し、同島沿岸一周の途に就いた。
A受審人は、H観光船有限会社の社長として経営に携わり、同13年3月おろろんを羽幌町から購入した後、船長の職務を有資格者の息子に執らせていたが、長年にわたり天売島周辺の遊覧航行に従事し、海岸や周辺の岩場等の状況を熟知していて、受有免状が5トン未満の船舶に限られていたものの、船長の都合がつかないときには自ら操船して同船を運航したことがあった。
また、おろろんの運航基準は、焼尻島灯台の風速が毎秒8メートル以下で天売島周辺の波高が1メートル以下とされており、平素、A受審人が風速と波高を調査して出港の可否を決定するようにしていた。
A受審人は、5月4日朝観光客の乗船予約を受けた後、08時40分風速と波高が運航基準を満たしているのを確認し、出港することにしたが、息子が見当たらなかったことから、急きょ船長の職務を執ることにした。
一方、出港するころ天売島付近では、低気圧に伴う前線が接近していて、南寄りの風が強まりつつあった。
出港後、A受審人は、海底探勝用航路図の針路に従い、天売島西側沿岸を約8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で南下して遊覧航行を続け、観音崎沖合を通過したのち穴間付近に達して速力を1ないし2ノットばかりに減じ海底探勝を行った。
10時40分A受審人は、天売島灯台から230度(真方位、以下同じ。)1.3海里付近に達し、カブト岩付近の針路を定める際、南寄りの風が次第に強まっていたが、少しぐらい南寄りの風が吹いても島陰になるから大丈夫と思い、カブト岩の北方約15メートルにある小岩の沖合を通過する安全な針路を選定することなく、カブト岩北端と小岩との間の南東方に向け、機関を極微速力前進にかけ、1.0ノットの速力で進行した。
A受審人は、カブト岩北端と小岩との間に差しかかり、強まった南寄りの風により船体が小岩に圧流され、突然船尾に衝撃を感じ、10時43分天売島灯台から228度2,380メートルの地点において、おろろんは、船首が南東方を向いている状態で、カブト岩北方の小岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力6の南南西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期にあたり、5月4日05時35分札幌管区気象台より北海道西方海上に海上風警報が発表されていた。
乗揚の結果、おろろんは、プロペラ軸等が損傷して航行不能となり、救助を求めて天売港に曳航され、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、北海道天売島沿岸において、観光客を乗せて遊覧航行中、同島西側のカブト岩付近の針路を定める際、針路の選定が不適切で、同岩とその北方の小岩との間に向け進行し、強まった南寄りの風により小岩に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道天売島沿岸において、観光客を乗せて遊覧航行中、同島西側のカブト岩付近の針路を定める場合、南寄りの風が次第に強まっていたから、風に圧流されて小岩に著しく接近しないよう、小岩の沖合を通過する安全な針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同人は、少しぐらい南寄りの風が吹いても島陰になるから大丈夫と思い、小岩の沖合を通過する安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、カブト岩と小岩との間に向け進行し、強まった南寄りの風に圧流されて小岩に乗り揚げる事態を招き、プロペラ軸等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。