(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月24日05時00分
大分県深島西方のカリ礁
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船伸光丸 |
総トン数 |
7.3トン |
登録長 |
11.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
88キロワット |
3 事実の経過
伸光丸は、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船(灯船)で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成12年10月23日17時00分宮崎県北浦港を発し、まき網船団付属船とともに日向灘の漁場に向かった。
ところでA受審人は、平素は出港前に2ないし3時間仮眠をとっていたが、前日船上で転倒して胸部を強打し、痛みがあったため、当日は出港前に診察のため病院へ行き、仮眠をとる時間がなかった。
A受審人は、18時00分ごろ、枇榔(びろう)島東方沖合5海里ばかりの地点に至ってソナー及び魚群探知器による魚群探索を開始し、その後南下を続け、富田灯台から108度(真方位、以下同じ。)8.7海里の地点に達したときに魚影を認め、23時00分同地点に投錨して水中灯を投入し、集魚を開始したところ、次第に北東風が強まり風速が毎秒12メートルを超え、付近海上が時化模様となってきたことから、翌24日00時45分ごろ船団漁ろう長から操業中止の連絡が入り、帰港することとした。
01時00分A受審人は、前示投錨地点を発進して北浦港に向け帰途につき、北東寄りの風浪及びうねりを避けるため、沿岸から3海里ばかりを接航する針路として北上し、03時35分日向枇榔島灯台から085度1.5海里の地点で、針路を022度に定め、機関を半速力前進より少し遅い毎分回転数1,400に掛け、12.0ノットの対地速力として、自動操舵により進行した。
A受審人は、定針したのち、操舵室後方右舷寄りに設置したリクライニング機能付きの自動車用いすに、背もたれを少し後方に倒した状態にして腰を掛け、見張りを行いながら北上し、04時00分ごろ島毛碆灯標の灯火を左舷前方3海里ばかりに見て間もなく、出港前病院に行って仮眠をとらなかったことから眠気を覚えたが、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、ガムを噛んだり缶コーヒーを飲んだりするなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航し、いつしか居眠りに陥った。
こうしてA受審人は、04時40分島浦島東方1海里ばかりの転針予定地点に至ったものの、居眠りしていてこのことに気付かず、針路を転じることができないままカリ礁に向かって進行中、05時00分深島灯台から286度2.4海里の地点において、伸光丸は、原針路、原速力のまま、カリ礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底中央部外板に破口を、発電機及び魚群探知器送受波器に損傷を、並びにプロペラブレード及びラダーポストに曲損をそれぞれ生じたが、自力離礁し、来援した僚船により北浦港に引き付けられ、のち修理された。また、A受審人が、腰部打撲、顔部の切創及び右腎挫傷等を負った。
(原因)
本件乗揚は、夜間、宮崎県東方の日向灘を北浦港に向けて北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、大分県深島西方のカリ礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宮崎県東方の日向灘において、北浦港に向けて北上中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、ガムを噛んだり缶コーヒーを飲んだりするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、予定の転針を行えないまま大分県深島西方のカリ礁に向かって進行して乗揚を招き、船底中央部外板に破口を、発電機及び魚群探知器に損傷、並びにプロペラブレード及びラダーポストに曲損をそれぞれ生じさせ、自らも腰部打撲、顔部の切創及び右腎挫傷等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。