(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月3日00時10分
長崎県壱岐島郷ノ浦港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートそら |
登録長 |
10.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
そらは、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.20メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成13年7月2日10時30分佐賀県呼子港を発し、長崎県壱岐島郷ノ浦港沖合の釣場に向かった。
A受審人は、そらを操船するのは初めてであったが、海上が平穏であったので、壱岐島まで出掛けることにし、それまで何度か瀬渡船で郷ノ浦港南南東方の郷ノ瀬に渡って磯釣りをしたことがあり、郷ノ瀬付近の釣場の状況や水路事情をよく知っていたことから、同瀬の付近で釣りを行うことにした。
A受審人は、壱岐水道を北上して壱岐島印通寺港沖合に至り、そこから同島南岸沿いに西行し、海豚鼻の南方を通過して郷ノ瀬に向かい、14時00分壱岐郷ノ瀬灯台(以下「郷ノ瀬灯台」という。)から100度(真方位、以下同じ。)320メートルの水深約20メートルの地点に錨を投じ、直径20ミリメートルの錨索を約50メートル繰り出して錨泊し、釣りを始めた。
A受審人は、錨泊したまま釣りを続けたが、夜間になっても一向に釣果が上がらず、夜間の錨泊が不安であったことから、郷ノ浦港内で係留して仮眠をとることにし、23時40分抜錨して同港に向かった。
ところで、壱岐島南部の厚埼沖から郷ノ浦港港口にあたる細埼沖にかけては、郷ノ瀬をはじめソラ瀬や大曽根などの危険な岩場が点在しているため、郷ノ瀬には郷ノ瀬灯台が、ソラ瀬の西北西方約700メートルのところには、右舷標識である壱岐大曽根灯浮標(以下「大曽根灯浮標」という。)がそれぞれ設置されていた。
A受審人は、操舵室右舷側で立って手動操舵に当たり、知人2人を前部甲板に座らせ、法定の灯火を表示し、目視だけでも十分に航行できる状況であったので、GPSプロッタを作動せずに、低速力で郷ノ瀬灯台を右舷前方に見て西行した。
A受審人は、郷ノ瀬灯台の南方約200メートルのところを通過した後、右転して原島の島影を船首方に見て北西進し、大曽根灯浮標の赤色灯光が右舷前方に視認できたところで更に右転して、23時52分郷ノ瀬灯台から286度1,350メートルの地点において、針路を331度に定め、機関を微速力前進として3.4ノットの対地速力で、大曽根灯浮標をほぼ正船首に見て進行した。
翌3日00時05分少し前A受審人は、郷ノ瀬灯台から300度1,880メートルの地点に差し掛かったとき、操舵室前面に置いていた釣りのポイントを記載した海図の部分図(以下「釣場図」という。)が見当たらないことに気付き、同図が義父から譲り受けた大切な物であったことから、帽子に付けたヘッドランプを点じ、左手で舵輪を握ったまま、これを探すことにした。
A受審人は、船首目標としていた大曽根灯浮標から目を離し、ヘッドランプの明かりを頼りに姿勢を低くするなどして床上を探し始めたところ、左手で握っていた舵輪が右に回って右舵がとられた状態となり、針路が保持されずに、右回頭が始まって大曽根灯浮標を左舷に見るようになったが、釣場図を探すことに気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、大曽根灯浮標から目を離したまま釣場図を探し続け、00時08分郷ノ瀬灯台から312度1,900メートルの地点に達し、大曽根灯浮標が左舷正横後となり、右回頭をしながらソラ瀬に著しく接近する状況となったが、依然としてこのことに気付かず、釣場図が操舵室内に見当たらなかったことから、風で室外に飛ばされたのではないかと思い、同室右舷側の窓から顔を出して甲板上などを探していたところ、00時10分郷ノ瀬灯台から314度1,750メートルの地点において、そらは、船首が080度を向いたとき、原速力のまま、ソラ瀬に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 そらは、しばらくして自然離礁し、118番通報により出動した巡視艇により郷ノ浦港に曳航された。
その結果、そらは、船尾船底部に亀裂、推進器翼及び同軸に曲損並びに舵板に損傷を生じ、のち廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県壱岐島郷ノ浦港沖合において、右舷標識である壱岐大曽根灯浮標を船首目標として同港に向かう際、見張り不十分で、針路が保持されずに、右回頭しながらソラ瀬に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県壱岐島郷ノ浦港沖合において、壱岐郷ノ瀬灯台の南方を通過した後、右舷標識である壱岐大曽根灯浮標を船首目標として、手動操舵により同港に向かう場合、同灯浮標から陸岸寄りのところには、ソラ瀬などの危険な岩場が点在していたのであるから、同灯浮標を右舷に見て進行することができるよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、大切にしていた釣場図が見当たらなくなったことに気付き、船首目標としていた同灯浮標から目を離し、ヘッドランプの明かりを頼りに同図を探すことに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左手で舵輪を握ったまま同図を探すうち、舵輪が右に回って右舵がとられた状態となり、針路が保持されずに、右回頭が始まって同灯浮標を左舷に見るようになったことに気付かず、そのまま右回頭しながらソラ瀬に著しく接近して乗り揚げを招き、そらの船尾船底部に亀裂、推進器翼及び同軸に曲損並びに舵板に損傷を生じさせるに至った。