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平成14年広審第66号
件名

油送船北神丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年11月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、西田克史、佐野映一)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:北神丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船首部船底に亀裂を伴う凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月26日19時40分
 山口県諸島北岸

2 船舶の要目
船種船名 油送船北神丸
総トン数 3,146トン
全長 105.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット

3 事実の経過
 北神丸は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の鋼製油タンカーで、A受審人及び三等航海士Nほか10人が乗り組み、ガソリン2,500キロリットル、軽油2,500キロリットルを積載し、船首5.10メートル船尾6.25メートルの喫水をもって、平成14年4月26日17時55分山口県岩国港を発し、福井県福井港に向かった。
 ところで、A受審人は、広島湾を南下して諸島水道を航行するにあたり、海図及び水路誌により、同水道の西側で山口県情島東端の荒神鼻沖合には拡散する暗岩があって、可航幅が約300メートルと狭く、また、夜間標識が設置されていないことを認識していたものの、これまで何度も夜間の通峡経験があったので、今回も同水道を通ることとした。
 発航後、船橋当直に就いたN三等航海士は、A受審人の許可を得て、相当直の甲板長を出航後の片付け作業を行わせることとして降橋させ、単独で同当直に当たって諸島水道に向かって南下した。
 19時15分A受審人は、柱島港来見沖防波堤灯台から093度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、当直中のN三等航海士から諸島水道通峡30分前の電話連絡を受けて昇橋し、直ちに操船指揮を執り、軸発電機からディーゼル機関駆動発電機に切り替えて油圧ポンプ2台を作動させ、針路を152度に定め、機関を全速力前進より少し下げた翼角とし、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、同時30分同航海士を手動操舵に就かせた。
 19時32分A受審人は、潮流の影響により10.0ノットの速力となり、同時33分半わずか前目測によったことから予定転針地点より西寄りの、山口県諸島115メートル頂(以下「諸島島頂」という。)から345度1,580メートルの地点に達したところで、針路を情島と諸島との中央を南下するいつもの184度に転じてミルガ瀬戸に向かって進行したが、目測で同瀬戸の中央に向かっているものと思い、その後レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行わなかったので、情島に著しく寄った状態のまま続航した。
 19時36分A受審人は、諸島島頂から326度880メートルの地点に達したとき、情島の島影が近いことから荒神鼻に著しく接近したことに気付き、同島東端を避けようとして急な左転をしたところ、折からの逆潮流の影響により左回頭が増したため、右舵をとったものの舵効が現れず、急ぎ機関を全速力後進にかけたものの及ばず諸島の北岸に向かって進行し、19時40分諸島島頂から342度300メートルの地点において、北神丸は、その船首が110度を向き、2.0ノットの速力で同島北岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には約3ノットの北流があった。
 乗揚の結果、船首部船底に亀裂を伴う凹損を生じたが、高潮時にサルベージ船3隻によって救助され、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、諸島水道において、ミルガ瀬戸に向かって航行する際、船位の確認が不十分で、情島東端の荒神鼻に著しく接近し、これを避けようとして急な左転と逆潮流の影響とにより諸島北岸に向き進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、諸島水道を南下中、ミルガ瀬戸に向かって航行する場合、可航幅の狭い同瀬戸の中央沿いに通航することができるよう、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった、しかるに、同人は、目測で同瀬戸の中央に向かっているものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、情島に著しく寄った状態で同瀬戸に近づき同島東端を避けようとした急な左転と逆潮流の影響とにより、諸島の北岸への乗揚を招き、船首部船底に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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