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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年広審第90号
件名

油送船第十五永進丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年11月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、高橋昭雄、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第十五永進丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首部船底外板に凹損を伴う擦過傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月11日05時15分
 広島湾柱島水道

2 船舶の要目
船種船名 油送船第十五永進丸
総トン数 3,074トン
全長 104.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット

3 事実の経過
 第十五永進丸(以下「永進丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、船長H及びA受審人ほか10人が乗り組み、C重油4,850トンを積み、船首5.97メートル船尾7.18メートルの喫水をもって、平成13年12月10日22時40分岡山県水島港を発し、広島県鹿川港に向かった。
 A受審人は、翌11日04時00分安居島北方沖合で新米を含む甲板員2人を伴って昇橋し、前直の甲板長から引き継いで船橋当直に就き、推薦航路の安芸灘北航路に沿って南下した。
 H船長は、04時30分大館場島南方1,500メートルばかり沖合で昇橋し、広島湾に向けるため自ら操船の指揮を執り、針路を柱島水道の推薦航路の針路線に沿って275度(真方位、以下同じ。)としたのち、周囲に支障となる他船を認めなかったので、A受審人に再び船橋当直を委ねることとし、同人に対し、入港時刻調整のため大黒神島南岸付近で仮泊するのでその手前6海里にきたら報告するよう指示し、04時36分半安芸白石灯標から142度1.1海里の地点で降橋した。一方、操船を任されたA受審人は、引き続き針路を275度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行した。
 04時47分A受審人は、右方から前路を横切る態勢の他船を避航するため、自ら手動操舵に就いて右転し300度の針路で北上したのち、同時53分安芸白石灯標から265度2.1海里の地点に達し、同船を左方に替わしたところで元の針路に戻して西行を続けた。
 05時00分A受審人は、転針目標とした横島の南方沖合に至ったとき、推薦航路に沿って北上する次の325度の針路線に乗せることとし、新米甲板員の教育担当であったことから操舵訓練をさせるつもりで同人を手動操舵にあて、小刻みな転舵により徐々に右転を繰り返し、同時03分安芸白石灯標から272度4.0海里の地点で、針路を予定の325度にしようとしたが、横島との並航距離を目測しただけで次の針路線に乗ったものと思い、レーダーによるなどして船位の確認を十分に行わなかったので、同針路線よりかなり東方で転針したことに気付かないまま、325度の予定針路に転じて自動操舵に切り替え、同じ速力で続航した。
 その後、A受審人は、H船長への報告のため8海里レンジとしたレーダー画面の右舷船首方に映った大黒神島南岸との接近模様を注視し、依然として船位を十分に確認しなかったので、浅所のエビガヒレやその北西方の大五番之砠に向かって接近する状況にも気付かず、左舷船首方に西方位標識を示す西五番之砠灯標の灯火を見ても、推薦航路の中央に設置された安全水域標識を示す灯火と勘違いして進行し、05時13分大黒神島まで6海里になったとき、H船長に報告した。
 間もなく昇橋したH船長は、左舷船首至近に西五番之砠灯標の灯火を視認し、おかしいと感じて短距離レーダーレンジに切り替えたとき、船底に衝撃を感じ、左舵を命じたが間に合わず、05時15分西五番之砠灯標から097度570メートルの地点において、永進丸は、原針路、原速力のまま大五番之砠に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には微弱な北西流があった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じたが、来援したタグボートにより引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、広島湾柱島水道を推薦航路に沿って西行中、次の針路線に向け転針する際、船位の確認が不十分で、同水道東方の浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾柱島水道を推薦航路に沿って西行中、右方から前路を横切る態勢の他船を右転して替わしたのち、次の針路線に乗せるつもりで転針する場合、転針前に右転による避航動作をとったことでもあったから、次の針路線に乗ったかどうか確かめるよう、レーダーによるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針目標の横島との並航距離を目測しただけで次の針路線に乗ったものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同針路線よりかなり東方で転針したことに気付かないまま、柱島水道東方の浅所に向首進行して乗揚を招き、船首部船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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