(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月8日00時35分
瀬戸内海広島湾絵ノ島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船さくら丸 |
総トン数 |
394トン |
全長 |
54.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
さくら丸は、砂利運搬に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、砕石1,250トンを載せ、船首3.80メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、平成14年5月7日17時10分大分県津久見港を発し、広島県広島港に向かった。
ところで、本船は、専ら津久見港と広島港間を月間6航海の割合で就航し、船長Yが24年間も同航海に携わった実績の下に操船指揮を執って運航され、船長ほか一等航海士及びA受審人の3人による単独3直制で両港間所要時間が約8時間の船橋当直体制が維持されていた。そしてY船長は、往航時の船橋当直について出港から約3時間と大畠及び宮島両瀬戸の航行上難所の操船指揮を執り、さらに宮島瀬戸から広島入港までの当直を行うようにし、また復航時の船橋当直についても往航時に準じて行っていた。なお往航時における船長当直区間外の他区間の当直については、前半の1時間を一等航海士続く後半の3時間半をA受審人にそれぞれ行わせ、毎月15日を挟んで両人を入れ替えて行わせていた。
出港後、それまでどおりY船長が船橋当直に就き、その後一等航海士と交替し、21時15分伊予灘八島を通過したころ、A受審人に当直が引き継がれた。その後A受審人は、指示どおり大畠瀬戸手前で船長昇橋地点に達したことを電話で連絡し、間もなく昇橋したY船長の操船指揮の下に手動操舵に就いて引き続き当直にあたり、22時28分大畠瀬戸を通過した。同瀬戸の通航操船指揮を終えた船長から次の操船指揮を執ることになる宮島瀬戸の手前で連絡するように指示を受けて単独でその後の船橋当直を続けた。
こうして、A受審人は、広島湾に入ると他船も少なく視界も良好であったのでレーダーを停止し、操舵スタンドの後方に置かれたいすに腰掛けた姿勢で当直を行いながら機関を全速力前進にかけて北上した。やがて使用海図に記載された阿多田島東方沖から宮島瀬戸に向かう定針地点付近に至ったところで、23時58分目測によったことから宮島瀬戸のほぼ中央に向かう同記載の定針地点よりも東に寄った阿多田港本浦中防波堤灯台から112度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点で、針路を同記載の015度に定めた。その結果、絵ノ島南西端付近に向首した状態で機関全速力前進10.0ノットの速力で自動操舵により進行し、翌8日00時28分安芸絵ノ島灯台まで約1.2海里に達し、指示されていた船長昇橋地点の連絡時期にあたっていた。
ところが、A受審人は、宮島及び奈佐美両瀬戸が大小の船舶が航行する屈曲した狭い水道で航行の難所であり、いつも同瀬戸の手前で瀬戸通航の操船指揮を執る船長に連絡して当直を交替しておりそのうえ自らは単独で同瀬戸を通航した経験がほとんどなかったにもかかわらず、そのころ右舷前方大奈佐美島と絵ノ島間の瀬戸付近に視認した小型漁船らしき白灯1個に気を取られ、指示された船長昇橋地点到達の連絡を厳守することなく、その後船長への連絡を失念したまま続航した。
こうして、A受審人は、その後も自船に接近する同灯火に気を取られて船位の確認も十分に行わずに絵ノ島南西岸に向首したまま進行中、同時33分過ぎ右舷前方に迫った同灯火を替わすべく手動操舵に切り換え左右の転舵によるキックを試みたのち、右船首方目前に迫った島影を認めて島岸に異常に接近したことに気付き、乗揚の危険を感じて左舵一杯としたが及ばず、00時35分安芸絵ノ島灯台から225度250メートルの地点において、さくら丸は、船首が原針路より少し右方に振れた状態で、ほぼ原速力のまま絵ノ島南西岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、さくら丸は、船首船底外板に凹損及び擦過傷を生じた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、広島湾を北上して宮島瀬戸を通航する際、大畠瀬戸通航後の単独当直引継時に指示された宮島瀬戸手前での船長昇橋地点の到達連絡が厳守されなかったばかりか、船位の確認が十分に行われないまま同瀬戸北口中央に位置する絵ノ島南西岸に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、船長の操船指揮の下で大畠瀬戸通航後、宮島瀬戸手前での船長連絡を指示されて単独で船橋当直にあたる場合、広島湾北部大奈佐美島及び絵ノ島によって形成された宮島及び奈佐美両瀬戸は大小の船舶が航行する屈曲した狭い水道で航行の難所であり、いつも船長が操船指揮を執りそのうえ自らは同瀬戸の単独での通航経験もほとんどなかったから、指示された船長昇橋地点の到達連絡を厳守すべき注意義務があった。しかし、同人は、同連絡時期ごろ宮島瀬戸付近に視認した小型漁船らしき白灯1個に気を取られ、同連絡を厳守しなかった職務上の過失により、その後も同連絡を失念したまままた船位の確認も十分に行わないまま同灯火をキックを利用して避けようと転舵を繰り返し進行して、絵ノ島南西岸への乗揚を招き、船首船底外板に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。