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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年広審第97号
件名

漁船第7八幡丸乗揚事件(簡易)
二審請求者〔理事官平野浩三〕

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年11月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第7八幡丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第7八幡丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船底外板に擦過傷

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月5日13時50分
 愛媛県佐田岬南岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第7八幡丸
総トン数 125トン
全長 39.495メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 698キロワット

3 事実の経過
 第7八幡丸(以下「八幡丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A及びB両受審人ほか6人が乗り組み、平成14年1月3日12時00分愛媛県八幡浜港を発航し、15時ごろ豊後水道南方の漁場に至って操業を続け、漁獲物約30トンを獲たところで、西北西の風が強まったので操業を切り上げ、水揚げの目的で、船首1.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、翌々5日11時20分鶴御埼南東方約2海里の漁場を発して帰途に就いた。
 A受審人は、発進時から操舵操船にあたり、前部甲板で乗組員が漁獲物の選別作業を始めたので、強い西北西風を避けるつもりで大分県沿岸寄りに北上し、12時40分沖無垢島東方2.4海里の地点で、B受審人と船橋当直を交替することとしたが、同人が海技免状を有し単独当直の経験も豊富で、豊後水道周辺海域の水路事情にも詳しいので任せておいても大丈夫と思い、佐田岬南岸沿いには浅所が散在するから、八幡浜港に向け東行する際にはそれらに著しく接近することのないよう、針路選定に関する適切な指示を行うことなく、操舵室左舷側の海図台の下に設けられた寝台で休息した。
 B受審人は、しばらく北上したのち、引き続き西寄りの風を受けないよう佐田岬南岸に寄せてから東行することとし、13時02分佐田岬灯台から182度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点に達したとき、針路を038度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で進行した。
 13時44分少し前B受審人は佐田岬灯台から083度4.8海里の地点に達したとき、乗組員の選別作業が続けられていたので、できるだけ風浪を避けるつもりで沿岸に接航することとしたが、進路上には干出岩の庄司太郎碆が存在することを知っていたものの、それまでのように目視により同碆を替わすことができると思い、左舷標識を示す庄司太郎碆灯浮標を左舷側十分に離した針路を選定することなく、手動操舵に切り替え、針路を佐田岬南岸と庄司太郎碆灯浮標との間に向け073度に転じて続航した。
 こうして、B受審人は、折からの高潮で水面下にあった庄司太郎碆を視認できずに同碆に向首する針路のまま進行するうち、13時50分佐田岬灯台から081度6.0海里の地点において、八幡丸は、原針路、原速力のまま庄司太郎碆に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて乗り揚げたことを知り、直ちに事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、八幡丸は、船底外板に擦過傷を生じ、船尾船底部に備えられた潮流計送受波器を破損したが、間もなく僚船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、強い西北西風が吹く状況下、佐田岬南岸沿いを東行する際、針路の選定が不適切で、庄司太郎碆に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に針路選定に関する適切な指示を行わなかったことと、船橋当直者が安全な針路を選定しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、強い西北西風が吹く状況下、愛媛県八幡浜港への帰途、豊後水道を北上したところで一等航海士と船橋当直を交替する場合、佐田岬南岸沿いには浅所が散在するから、同港に向け東行する際にはそれらに著しく接近することのないよう、針路選定に関する適切な指示を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同航海士が海技免状を有し単独当直の経験も豊富で、豊後水道周辺海域の水路事情にも詳しいので任せておいても大丈夫と思い、針路選定に関する適切な指示を行わなかった職務上の過失により、同航海士が左舷標識を示す庄司太郎碆灯浮標を左舷側十分に離した安全な針路を選定せず、庄司太郎碆への乗揚を招き、船底外板に擦過傷を生じさせ、船尾船底部に備えられた潮流計送受波器を破損させるに至った。
 B受審人は、強い西寄りの風浪を避けるつもりで佐田岬南岸沿いに東行する場合、進路上には庄司太郎碆が存在することを知っていたのであるから、左舷標識を示す庄司太郎碆灯浮標を左舷側十分に離した安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまでのように目視により同碆を替わすことができると思い、安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、庄司太郎碆に向首する針路のまま進行して同碆への乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。





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