(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月27日07時15分
豊後水道
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船栄正丸 |
登録長 |
7.54メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
船種船名 |
貨物船ゴールド ステイト6 |
総トン数 |
3,005.00トン |
全長 |
96.045メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,280キロワット |
3 事実の経過
栄正丸は、たい1本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年12月27日06時20分大分県保戸島漁港を発し、同港東方約2海里沖合に在る北ノ瀬付近の漁場へ向かった。
06時40分A受審人は、前示漁場に至り、魚群探知器を使用して魚影探索を行ったが、反応がなかったことから漁場を移動することとし、同時52分半高甲岩灯台から132度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点で、針路を058度に定め、機関を回転数毎分1,600の半速力前進に掛け、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
ところで、A受審人は、自船の操縦室が、前後左右を風防ガラス及び風防壁で囲われ、天井部分にはオーニングが張られただけの簡便な作りで、外にいるのと同じような状況であったので、また、同室内で操縦すると前面風防ガラスの回転窓や前部マストの支柱などが邪魔になり、見張りがしづらいことから、平素から、右舷側の前部甲板と後部甲板を繋ぐ通路に出て、前方を向いて立ち、同室後方外壁右舷側に設置されたリモートコントロール操舵装置を左手で操縦していたのであるが、そのような姿勢で見張りに当たると、同室を囲っている風防壁などが障害となり、左舷船首10度から60度の範囲に渡って死角が生じる状況であった。
07時06分A受審人は、高甲岩灯台から087度1.8海里の地点に至ったとき、左舷船首53度2.0海里のところに、南下中のゴールド ステイト 6(以下「ゴ号」という。)が表示する白、白、緑の3灯を視認することができ、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、左方からの横切り船に対しては自船が保持船の立場となることから、左舷側の見張りを少しばかり怠っても大丈夫と思い、操縦室を囲った風防壁の前方まで移動するなどして前示死角を補う見張りを十分に行わなかったので、その灯火に気付かないまま続航した。
こうして、A受審人は、その後も、ゴ号が、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然として、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、間近に接近しても、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作を取らないまま進行中、同時15分わずか前左舷船首至近に迫った同船を初めて認め、衝突の危険を感じて機関を中立としたが、効なく、07時15分高甲岩灯台から077度2.6海里の地点において、栄正丸は、原針路、原速力で、その船首が、ゴ号の右舷船首に前方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、ゴ号は、主に極東及び東南アジア各国間の貨物輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、中華人民共和国の国籍を有する船長C及び一等航海士Rほか17人が乗り組み、鉄屑3,110トンを積載し、船首3.95メートル船尾5.35メートルの喫水をもって、同月27日04時00分大分港を発し、ヴィエトナム社会主義人民共和国ハイフォン港へ向かった。
06時15分C船長は、出港操船に引き続いて操船の指揮を執り、別府湾から速吸瀬戸を経て豊後水道に至ったとき、船橋当直を航海士3人による4時間交替3直制に定め、各直に操舵手1人をそれぞれ配し、R一等航海士に当直を命じて降橋した。
R一等航海士は、船長の命を受けて船橋当直に当たり、06時19分海獺碆灯台(あしかばえとうだい)から085度2.4海里の地点に至ったとき、針路を160度に定め、機関を全速力前進に掛け、11.0ノットの速力で、法定灯火を表示して、操舵手による手動操舵によって進行した。
07時00分R一等航海士は、レーダーで船位及び周囲の状況を確認したところ、前路に他船を見受けなかったことから、自動操舵に切り替え、操舵手に、朝食を食べたのち次直を起こすように命じて降橋させた。
そして、R一等航海士は、07時06分高甲岩灯台から043度2.9海里の地点に至ったとき、右舷船首25度2.0海里のところに、栄正丸が表示する白、紅の2灯を視認することができ、その後、同船が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、船橋左舷後部の湯沸かし器などが置かれている棚まで移動して、お茶を入れることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、その灯火に気付かないたまま続航した。
こうして、R一等航海士は、07時10分半高甲岩灯台から059度2.7海里の地点に達したとき、栄正丸が、尚も、衝突のおそれがある態勢で同方位1.0海里まで接近したが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行中、ゴ号は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、栄正丸は船首を圧壊したが、のち修理され、ゴ号は右舷船首に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、豊後水道において、栄正丸及びゴ号の両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、ゴ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る栄正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄正丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、豊後水道において、漁場へ向けて航行中、操縦室右舷外側の通路に立って見張りに当たる場合、同室を囲っている風防壁などが障害となって左舷前方に死角が生じていたのであるから、死角内から接近する他船の灯火を見落とすことがないよう、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左方からの横切り船に対しては自船が保持船の立場となることから、左舷側の見張りを少しばかり怠っても大丈夫と思い、操縦室を囲む風防壁の前方まで移動するなどして、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するゴ号の灯火に気付かず、間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、自船の船首を圧壊し、ゴ号の右舷船首に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。