(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月9日02時40分
山口県小野田港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船金生丸 |
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総トン数 |
199トン |
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全長 |
56.87メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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船種船名 |
押船すぴなー |
バージすぴなー |
総トン数 |
134トン |
約3,317トン |
全長 |
25.61メートル |
111.00メートル |
幅 |
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19.00メートル |
深さ |
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6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
2,942キロワット |
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3 事実の経過
金生丸は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人及び兄である機関長の2人が乗り組み、鋼材675トンを積み、船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成13年10月8日10時00分香川県詫間港を発し、関門海峡経由で熊本県長洲港に向かった。
ところで、A受審人は、専ら機関長と2人で金生丸に乗り組んで船橋当直などの業務に当たり、1週間のうち1日程度は自宅がある長崎県壱岐島の石田港に入港するなどして休息をとっていたほか、荷役に立ち会う必要がなく、その間や航海中の船橋当直などの作業を行わないときに適宜休息をとっていたので、疲労が蓄積した状態ではなかった。
A受審人は、翌朝石田港に一時立ち寄る予定で、同港までの船橋当直交替時刻を19時及び02時とし、詫間港を出港したあと当直を機関長に委ねて休息し、19時00分山口県屋代島南東方沖合で昇橋し、航行中の動力船の灯火を表示していることを確認して単独の船橋当直に就いた。
A受審人は、操舵室中央の舵輪後方に置いた背もたれ付きいすに腰を掛けて見張りに当たり、平郡水道を経て周防灘に入ったのち、推薦航路線の北側約1.5海里を同航路線に沿って自動操舵により航行中、翌9日01時53分ごろ本山灯標東南東方2海里に差し掛かったとき、前路に操業中の40隻ばかりの漁船群を認め、同漁船群を避航したあと船橋当直を交替することとし、交替予定時刻が迫っていたものの、船内電話を使用して機関長に当直交替を知らせないまま、手動操舵に切り替えて同漁船群の避航を始めた。
02時13分A受審人は、本山灯標から273度2.4海里の地点に達し、漁船群を避航し終えたところで、針路を関門海峡東口に向く303度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき、A受審人は、長時間に渡って船橋当直に従事したうえ、当直交替時刻を超えて避航操船を行って疲労したことから、眠気を催したが、短時間であれば居眠りすることはあるまいと思い、速やかに休息中の機関長を呼んで当直交替するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、一息いれたら交替するつもりでいすに腰を掛けたまま当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥った。
A受審人は、02時34分小野田港防波堤灯台から196度3.7海里の地点に差し掛かったとき、正船首1.0海里に錨泊中のすぴなー被押バージすぴなー(以下押船すぴなーを「すぴなー」、被押バージすぴなーを「バージ」、両船を総称するときには「すぴなー押船列」という。)が表示する白、白2灯及び甲板上などを照らす多数の明かりを視認でき、その後すぴなー押船列に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、居眠りに陥っていたので、この状況に気付かず、同押船列を避けることなく続航中、02時40分小野田港防波堤灯台から212度3.5海里の地点において、金生丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、バージの右舷前部に、後方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、すぴなーは、非自航型石炭運搬用バージと一体となり、専ら山口県徳山下松港から同県小野田港の火力発電所への石炭輸送に従事する押船で、B受審人ほか4人が乗り組み、船首尾とも5.30メートルの喫水をもって、石炭5,550トンを積み、船首5.50メートル船尾5.30メートルの喫水となった無人のバージの船尾凹部に船首部を嵌合して全長約120メートルの押船列を構成し、同月8日19時25分徳山下松港を発し、小野田港に向かった。
ところで、すぴなー押船列は、僚船の押船列とで前示石炭輸送に従事し、平素、夜間に小野田港港外で錨泊して荷役時間調整を行っていたもので、B受審人は、夏季は小野田港港界から南西方2海里に延びる水路(以下「小野田水路」という。)の東側の海域に、冬季は同海域にのり養殖施設が設置されていることから、同水路南側入口の少し離れたところにそれぞれ投錨していた。
23時50分B受審人は、小野田水路南側の、前示衝突地点付近に至り、バージの右舷錨を水深11メートルの海底に投じて錨鎖4節を延出し、錨泊船が掲げる灯火を表示したうえ、船橋周囲やバージ中央部両舷の各通路に60ワットの通路灯を、船橋前面に甲板照明用の500ワット水銀灯及び500ワットアイランプを、船橋周囲の各所やバージ船首部の前部マストに甲板照明用の500ワットアイランプなどをそれぞれ点灯し、機関を停止して錨泊を始めた。
錨泊作業を終えたあと、B受審人は、翌朝からの作業に備えて乗組員を休息させ、自らは自船の東方約700メートル及び北西方約500メートルのところにそれぞれ錨泊船が、また、東方約400メートル付近には漁具と漁船数隻がそれぞれ明かりを点けて存在するのを確認して降橋し、自室で乗組員の勤務予定表を作成するなどの作業を行っていたところ、すぴなー押船列は、船首を020度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝撃で衝突を知り、事後の処理に当たった。
衝突の結果、金生丸は、船首部を圧壊し、すぴなー押船列は、バージの右舷前部外板などに凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県小野田港南方沖合において、関門海峡東口に向けて西行中の金生丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中のすぴなー押船列を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県小野田港南方沖合において、単独の船橋当直に当たって関門海峡東口に向け西行中、眠気を催した場合、長時間に渡って船橋当直に従事したうえ、当直交替時刻を超えて避航操船を行って疲労していたのであるから、速やかに休息中の機関長を呼んで当直交替するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、短時間であれば居眠りをすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、一息いれたら交替するつもりでいすに腰を掛けたまま当直を続けるうち居眠りに陥り、前路で錨泊中のすぴなー押船列を避けることなく進行して衝突を招き、金生丸の船首部を圧壊させ、バージの右舷前部外板などに凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。