(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月11日10時40分
日向灘
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第八幸正丸 |
漁船永幸丸 |
総トン数 |
699トン |
2.39トン |
全長 |
68.39メートル |
9.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
117キロワット |
3 事実の経過
第八幸正丸(以下「幸正丸」という。)は、本邦諸港間において精製油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、ジェット燃料2,000キロリットルを積載し、船首3.85メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成13年11月10日13時00分兵庫県姫路港を発し、鹿児島港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を0時から4時までを甲板長、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までを自らがそれぞれ立直する4時間3直制としていた。
翌11日10時10分川南港東防波堤灯台(以下「川南灯台」という。)から086.5度(真方位、以下同じ。)4.9海里の地点で、針路を200度に定め、機関を全速力前進に掛け、10.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行し、その後周囲を一瞥して前路に他船を見なかったことから船橋内左舷後方の海図台に向き、船首方を背にする姿勢で会社提出書類の作成を始めた。
10時34分少し過ぎA受審人は、川南灯台から136.5度5.1海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに永幸丸が存在し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていないものの、その後同船が船首から合成繊維索を船首方に伸出し、船首を北北東方に向けて止まったままの様子から錨泊中であることを認めることができ、永幸丸に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、書類の作成に気を奪われ、前路の見張りを十分に行うことなく、永幸丸を認めないまま続航した。
10時39分少し前A受審人は、川南灯台から144.5度5.5海里の地点に差し掛かったとき、永幸丸まで400メートルに接近したが、依然、前路の見張りを十分に行っていなかったので、永幸丸に向首接近することに気付かず、同船を避けないまま進行中、10時40分川南灯台から146度5.6海里の地点において、幸正丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が永幸丸の船首部右舷側に平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、永幸丸と衝突したことに気付かず、そのまま航海を続けていたところ、海上保安庁からの通報を受けて永幸丸との衝突を知った。
また、永幸丸は、主に日向灘の漁場において、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、同月11日05時00分宮崎県川南漁港を発し、同港南南東方約5海里沖合の漁場に向かった。
06時30分B受審人は、前示衝突地点に至って機関を中立にし、船首から長さ3メートルのチェーンが付いたストックアンカーを投入し、船首のたつに係止した直径12ミリメートル長さ70メートルの合成繊維索をそのチェーンに繋げて伸出して、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに錨泊し、左舷船尾甲板上に座って魚釣りを始めた。
10時34分少し過ぎB受審人は、船首が020度に向き、錨泊していたとき、正船首1.0海里のところに幸正丸を認めることができ、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、魚釣りに気を奪われ、見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、鐘を鳴らすなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもないまま錨泊を続けた。
10時40分わずか前B受審人は、波切り音で船首至近に迫った幸正丸を認め、操舵室に戻って機関を全速力後進に掛けたが及ばず、永幸丸は、船首を020度に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸正丸は、右舷船首部に擦過傷を生じ、永幸丸は船首部及び右舷錨台などにそれぞれ損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、日向灘において、鹿児島港に向けて航行中、幸正丸が、見張り不十分で、錨泊中の永幸丸を避けなかったことによって発生したが、永幸丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日向灘において、鹿児島港に向けて航行中、単独で当直する場合、錨泊中の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋内左舷後方の海図台に向き、船首方を背にする姿勢で会社提出書類の作成に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、永幸丸に向首接近することに気付かず、永幸丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、幸正丸の右舷船首部に擦過傷を、永幸丸の船首部及び右舷錨台などに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、日向灘において、魚釣りのため錨泊する場合、接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚釣りに気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する幸正丸に気付かず、鐘を鳴らすなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。