日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第15号
件名

漁船第七十八金比羅丸漁船第二房丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、橋本 學、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第七十八金比羅丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二房丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
金比羅丸・・・右舷船首部に擦過傷
房 丸・・・左舷後部に損傷を生じて転覆、各種機関類が濡れ損

原因
房 丸・・・追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸・・・追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第七十八金比羅丸を追い越す第二房丸が、見張り不十分で、第七十八金比羅丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第七十八金比羅丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月6日08時30分
 鹿児島県串木野港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八金比羅丸 漁船第二房丸
総トン数 80トン 2.6トン
登録長 29.50メートル 8.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 353キロワット 25キロワット

3 事実の経過
 第七十八金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)は、網船として大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年1月5日17時00分鹿児島県串木野港を発し、運搬船など付属船5隻(以下「金比羅丸船団」という。)とともに、同港西方沖合の漁場に向かった。
 金比羅丸船団は、串木野港と鹿児島県甑島列島との間の漁場に到着して魚群探索を行い、20時30分ごろ同港西方約10海里の地点で集魚を始め、翌6日06時00分ごろ投網し、07時45分ごろむろあじ50箱を漁獲して操業を終えた。
 08時00分A受審人は、薩摩沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から265度(真方位、以下同じ。)6.1海里の地点を発進し、串木野港に向けて帰途に就き、針路を097度に定め、機関を回転数毎分600の全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行し、一旦、船橋当直を機関長に委ねて降橋した。
 08時15分A受審人は、沖ノ島灯台から256度3.6海里の地点において、再度昇橋して機関長から船橋当直を引き継ぎ、操舵装置の後方に立って操船の指揮に当たり、同人を右舷側にある機関遠隔操縦装置に就けて機関の操作に、甲板員を左舷側で見張りにそれぞれ当たらせ、引き続き同じ針路及び速力で続航した。
 A受審人は、北北東風を左舷正横付近から受けて横揺れが大きかったので、風浪の影響を少なくするために陸岸寄りの針路をとって串木野港に向かうことにし、08時25分沖ノ島灯台から239度3,900メートルの地点において、針路を069度に転じ、沖ノ島を左舷船首に見て自動操舵により進行した。
 08時26分A受審人は、沖ノ島灯台から238.5度3,600メートルの地点において、右舷正横後33度100メートルのところに第二房丸(以下「房丸」という。)を初めて視認し、同船が自船の船尾方を向いているように見えたので、そのうち自船の船尾を左方に替わして左舷側を追い越していくものと思い、同船の動静を監視しながら針路及び速力を保っていたところ、同時28分同灯台から236度3,000メートルの地点に達したとき、船尾右舷正横40メートルのところに房丸の船首がほぼ並航し、自船の右舷側を追い越す態勢で進路を少し交差させて接近したのを認めたので、引き続き同じ針路及び速力で続航した。
 08時29分A受審人は、沖ノ島灯台から235度2,700メートルの地点に至ったとき、右舷正横20メートルに接近した房丸と衝突のおそれがあることを認めたので、同船に対して避航を促すため、汽笛で短音を連続吹鳴して警告信号を行い、手動操舵に切り替えて自ら操舵に就いたものの、警告信号を行ったので、同船が右転又は減速するなどして自船の進路を避けるものと思い、行きあしを止めるなどして、間近に接近した同船との衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 こうして、A受審人は、協力動作をとらずに針路及び速力を保ったまま続航し、08時29分半房丸が右舷正横少し前10メートルとなったとき、房丸の操舵室でB受審人が前屈みの姿勢をとり、自船の方を見ていないことが分かり、衝突の危険を感じて、再度警告信号を行うとともに機関を後進一杯とし、左舵をとったが、及ばず、08時30分沖ノ島灯台から233度2,410メートルの地点において、金比羅丸は、原針路のまま、約2ノットの残存速力で、その右舷船首と房丸の左舷船首とが後方から4度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 房丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同月6日05時00分鹿児島県羽島漁港を発し、同漁港西南西方約8海里の漁場に向かった。
 05時50分B受審人は、同漁場に到着して漂泊し、スパンカーを展帆して一本釣り漁を始めたが、次第に北寄りの風が強くなり、風速が毎秒約10メートルに達して白波が立ち、付近海域で操業していた漁船も帰港し始めたことから、07時50分操業を打ち切り、同時57分沖ノ島灯台から246度6.6海里の地点を発進し、針路を沖ノ島を左舷船首に見る070度に定め、機関を回転数毎分2,100の10.5ノットの速力で、手動操舵により羽島漁港に向けて帰途に就いた。
 08時20分ごろB受審人は、左舷前方に串木野港に向けて東行中の金比羅丸船団を認めたので、同時20分沖ノ島灯台から239度4,570メートルの地点において、3.0ノットの速力に減じて同船団の通過を待ち、同時24分半同灯台から238.5度4,160メートルの地点に達し、同船団の後方にいた運搬船がほぼ正船首100メートルとなったとき、同船の船尾方を通過するため、針路を065度に転じて再度10.5ノットに増速し、そのころ、同運搬船の左舷後方にあたる、自船の左舷船首59度220メートルのところの同船団最後尾を金比羅丸が東行していたが、同運搬船を注視していて金比羅丸には気付かなかった。
 B受審人は、操舵室中央部で立って手動操舵に当たり、08時25分沖ノ島灯台から238度4,000メートルの地点において、左舷前方135メートルのところで、金比羅丸が針路を左に転じて自船とほぼ同航する態勢となり、同時26分同灯台から237度3,620メートルの地点に達したとき、左舷船首53度100メートルのところに接近した同船と進路が少し交差し、その右舷側を追い越す態勢となって徐々に接近する状況となったが、東行する金比羅丸船団全船を替わし終えたので、左舷側から接近する他船はいないものと思い、増速したことにより左舷船首方から打ち上げる波しぶきが操舵室前面の窓に頻繁にかかる状況のもと、前面右舷側の旋回窓を回して同窓から見張りを行っていて、左舷側の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転又は減速するなどして、金比羅丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行した。
 こうして、B受審人は、旋回窓からの見張りを続け、08時28分沖ノ島灯台から235.5度3,040メートルの地点において、自船の左舷正横40メートルのところの金比羅丸の船尾に並航し、同時29分同灯台から234.5度2,720メートルの地点に達して、金比羅丸が左舷正横20メートルとなり、その右舷側至近のところを衝突のおそれのある態勢で追い越していたとき、同船が行った警告信号を聞いたものの、同信号音を機関室内で発生した異音であると誤信し、その発生源を確認しようとして、舵輪に手を掛けたまま前屈みの姿勢で、操舵室左舷前部の床面にある機関室の出入口から同室内を覗き込んでいて、依然として金比羅丸に気付かず、同船の進路を避けないまま続航し、房丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突し、自船の左舷船底部が金比羅丸の球状船首部に乗り揚げて右舷側から転覆した。
 B受審人は、転覆した房丸の操舵室内に閉じ込められたが、自力で脱出し、海面に浮上したところを金比羅丸に救助され、転覆した房丸は、金比羅丸船団の運搬船によって串木野港に曳航された。
 衝突の結果、金比羅丸は、右舷船首部に擦過傷を生じ、房丸は、左舷後部に損傷を生じて転覆し、各種機器類が濡れ損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鹿児島県串木野港西方沖合において、第七十八金比羅丸を追い越す第二房丸が、見張り不十分で、第七十八金比羅丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第七十八金比羅丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、鹿児島県串木野港西方沖合において、漁場から同県羽島漁港に向けて帰航する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路を右方に横切る金比羅丸船団全船を替わし終えたので、左舷側から接近する他船はいないものと思い、風浪を左舷船首方から受けて操舵室前面の窓に波しぶきが頻繁にかかる状況のもと、右舷側前面の旋回窓を回し、操舵室中央で立って手動操舵に就いたまま旋回窓から見張りを行い、左舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同航する第七十八金比羅丸に進路を少し交差させ、その右舷側を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して衝突を招き、第二房丸の左舷後部を損傷して転覆させ、第七十八金比羅丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
 A受審人は、鹿児島県串木野港西方沖合において、漁場から同港に向けて帰航中、自船の右舷側を追い越す第二房丸が間近に接近したのを認めた場合、行きあしを止めるなどして、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、第二房丸に対して警告信号を行ったので、同船の方で自船の進路を避けるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、自船の進路を避けないまま進行した第二房丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:23KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION