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平成14年門審第88号
件名

油送船一成漁船蛭子丸衝突事件
二審請求者〔理事官畑中美秀〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、河本和夫、西村敏和)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:一成船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:一成甲板長

損害
一 成・・・船首部に擦過傷
蛭子丸・・・船首部を圧壊

原因
一 成・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
蛭子丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、一成が、見張り不十分で、漂泊中の蛭子丸を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月25日13時57分
 北九州市若松区北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船一成 漁船蛭子丸
総トン数 484トン 2.37トン
全長 63.97メートル 11.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 28キロワット

3 事実の経過
 一成は、本邦諸港間において重油の輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、A受審人重油800キロリットルを積載し、船首2.9メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、平成13年6月25日11時15分山口県宇部港を発し、熊本県八代港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を0時から4時までをB指定海難関係人、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までを自らがそれぞれ立直する4時間3直制とし、入出港時、狭水道通過時、視界制限状態時等は、自ら操船指揮を執ることとしていた。
 また、A受審人は、見張りや早期避航の励行などについての当直心得を船橋内の右舷側壁に掲示し、航海当直部員に関する認定を受けているB指定海難関係人に対し、日頃から当直中は見張りを十分に行うよう指示して当直を任せていた。
 12時20分A受審人は、下関南東水道第1号灯浮標付近で昇橋して操船指揮を執り、機関長を主機関操作に及びB指定海難関係人を見張りにそれぞれ当たらせ、関門航路及び関門第2航路を通過したのち、13時36分六連島西水路第6号灯浮標北方約50メートルの、白州灯台から117度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、針路を270度に定め、機関を10.5ノットの全速力前進に掛け、折からの潮流に乗じ、2度ばかり左方に圧流されながら、10.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行し、B指定海難関係人に見張りを十分に行うよう指示したうえで、当直を引き継いで機関長と共に降橋して休息した。
 B指定海難関係人は、引き継いで単独の当直に就き、13時38分白州灯台から120度2.3海里の地点に達したとき、左舷前方の反航船を避けるために275度に転針して実効針路273度で続航し、13時53分半白州灯台から220度1.4海里の地点で、反航船が替わったので、元の進路に戻すため、265度に転針して実効針路263度で進行した。
 13時54分B指定海難関係人は、白州灯台から221度1.5海里の地点に達したとき、ほぼ正船首960メートルのところに蛭子丸が存在し、その後同船が船首を北東方に向けて止まったままの様子から漂泊中であることを認めることができ、蛭子丸に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、右舷方の筑前丸山出シ灯浮標付近で掘下げ作業に従事している浚渫作業船及びその付近のフローター管に気を奪われ、前路の見張りを十分に行うことなく、蛭子丸を認めないまま続航した。
 13時56分少し前B指定海難関係人は、白州灯台から229度1.7海里の地点に差し掛かったとき、蛭子丸まで400メートルのところに接近したが、依然、前路の見張りを十分に行わないで、蛭子丸に気付かず、同船を避けないまま進行中、同時57分わずか前ふと前方を見て船首至近に蛭子丸を初めて認め、左舵一杯としたが及ばず、13時57分白州灯台から234度1.9海里の地点において、一成は、船首が255度に向いたとき、原速力のまま、その船首が蛭子丸の船首部に前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、衝突地点付近には約0.5ノットの南西流があった。
 また、蛭子丸は、一本つり漁業に従事する木製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日07時00分北九州市若松区洞海湾内の船溜りを発し、同区北方沖合の漁場に向かった。
 C受審人は、筑前丸山出シ灯浮標付近の漁場に至って機関を停止し、船尾からパラシュート型シーアンカーを投じ、直径20ミリメートルの合成繊維製索を30メートル伸出し、折からの南西方に流れる潮流に船首を立てて魚釣りのために漂泊を始めた。
 C受審人は、折からの潮流により圧流されるので、潮のぼりを繰り返し、13時47分白州灯台から233度1.8海里の地点で、潮のぼりを終え、魚釣りを再開するため漂泊を始めた。
 13時54分C受審人は、船首が055度に向いて漂泊し、船首甲板に立って2本の竿で魚釣りを行っていたとき、右舷船首30度960メートルのところに一成を初めて認めたものの、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、接近する他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもないまま魚釣りをしながら漂泊を続けた。
 13時56分少し前C受審人は、一成が自船に向首したまま400メートルに接近したが、依然、動静監視を十分に行わないで、このことに気付かないまま魚釣りを続けて漂泊中、同時57分わずか前ふと前方を見て船首至近に迫った一成を認め、機関を始動させようとしたとき、蛭子丸は、船首を055度に向けたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、一成は、船首部に擦過傷を生じ、蛭子丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、北九州市若松区北方沖合において、一成が、見張り不十分で、漂泊中の蛭子丸を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は、北九州市若松区北方沖合において、魚釣りのため漂泊中、接近する他船を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する一成に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、一成の船首部に擦過傷、蛭子丸船首部の圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人は、北九州市若松区北方沖合において、単独で当直に当たって西行する際、右舷方の筑前丸山出シ灯浮標付近で掘下げ作業に従事している浚渫作業船及びその付近のフローター管に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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