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平成14年門審第86号
件名

漁船第三十六栄進丸貨物船チュン アン衝突事件
二審請求者〔理事官畑中美秀〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、西村敏和、米原健一)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:第三十六栄進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
栄進丸・・・右舷中央部ブルワーク等に亀裂
チ 号・・・左舷船首部に擦過傷

原因
チ 号・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
栄進丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、チュン  アンが、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第三十六栄進丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、第三十六栄進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月10日14時36分
 北九州市藍島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六栄進丸 貨物船チュン アン
総トン数 8.5トン 1,451トン
全長 15.80メートル 74.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット 1,029キロワット

3 事実の経過
 第三十六栄進丸(以下「栄進丸」という。)は、いか一本釣りに従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成13年8月10日13時25分山口県下関漁港を発し、福岡県沖ノ島周辺の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室右舷側機関操縦装置後方の椅子に座って前方の見張りを行いながら西行し、13時32分彦島大橋下を航過したのち、同時52分半六連島灯台から044度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点で、針路を306度に定め、機関を半速力前進に掛け、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
 14時26分A受審人は、大藻路岩灯標から324度1.1海里の地点に達したとき、チュン アン(以下「チ号」という。)が右舷船尾60度1,090メートルのところに、自船の右舷側を750メートル離して無難に航過する態勢で北西方へ航行しているのを認め、チ号が後方を航行しているので自船の航行に支障がないものと思い、動静監視を十分に行わないで続航した。
 14時32分A受審人は、大藻路岩灯標から317度1.8海里の地点に差し掛かったとき、右舷船尾86度780メートルのところを航行中のチ号が針路を270度に転じ、自船と新たな衝突の危険のある関係を生じさせる状況となったが、依然、動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもなく、椅子に座り遅い昼食をとりながら進行した。
 14時36分わずか前A受審人は、波切り音に気付いて右舷正横至近に迫ったチ号を認め、機関を中立としたが及ばず、14時36分大藻路岩灯標から314度2.4海里の地点において、栄進丸は、原針路、原速力のまま、その右舷中央部にチ号の左舷船首が後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、チ号は、専ら中華人民共和国と本邦諸港間に就航する船尾船橋型鋼製貨物船で、中華人民共和国籍の船長Uほか7人が乗り組み、電気銅地金1,499トンを積み、船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同月7日17時10分小名浜港を発し、中華人民共和国上海港に向かった。
 U船長は、二等航海士が0時から4時までを、自らが4時から8時までを、一等航海士が8時から12時までをそれぞれ立直する4時間3直制とし、入出港時、狭水道通過時、視界制限状態時等には、自らが操船指揮を執ることとしていた。
 越えて10日11時30分U船長は、下関南東水道第4号灯浮標付近で昇橋し、自ら操船指揮を執り、二等航海士Cを補佐に当てて、14時03分少し前六連島灯台から030度1.1海里の地点で、針路を301度に定め、機関を全速力前進に掛け、10.5ノットの速力で、自動操舵により進行し、関門航路を通過したことから船橋当直(以下「当直」という。)をC二等航海士に引き継いで降橋して休息した。
 C二等航海士は、引き継いで単独の当直に就き、14時26分大藻路岩灯標から355度1.1海里の地点に達したとき、左舷船首55度1,090メートルのところに、自船の左舷側を750メートル離して無難に航過する態勢で北西方に航行している栄進丸を認め得る状況であったが、一瞥(いちべつ)して少し前自船の左舷側後方から右舷側前方に追い抜いていった2隻の漁船以外に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わないまま続航した。
 14時32分C二等航海士は、大藻路岩灯標から329度2.0海里の地点に差し掛かったとき、予定転針地点に達したので270度に左転し、左舷船首50度780メートルのところに接近している栄進丸と新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことになったが、依然、見張りを十分に行わないでこれに気付かず、同船を避ける措置をとらないまま進行中、同時36分わずか前自船を追い抜いていった右舷側前方の2隻の漁船を見ていてふと左舷船首方を見たとき、左舷船首至近に迫った栄進丸を初めて認め、右舵一杯としたが及ばず、チ号は、船首方向が286度になったとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄進丸は、右舷中央部ブルワーク等に亀裂を生じたが、のち修理され、チ号は、左舷船首部に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、北九州市藍島北西方沖合において、チ号が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の栄進丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、栄進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、北九州市藍島北西方沖合において、漁場に向けて航行中、右舷後方にチ号を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、チ号が後方を航行しているので自船の航行に支障がないものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、チ号が転針して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもなく進行してチ号との衝突を招き、栄進丸の右舷中央部ブルワーク等に亀裂及びチ号の左舷船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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